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事件

 夜会に行った翌日。

驚くほど早く帰ってきたお父様が、私を見た途端に大泣きしてしまった。

「くっ、リリー。何故レジナルドなんだ。あんなクソ生意気な小僧なんかにリリーは勿体ない!」


「お父様……」

「リリー。私の可愛い娘があんな……こんな事なら黒竜と結婚したいと言っていた時に許せば良かった。黒竜の方が何倍も良かった」


「いやいや、お父様、竜とは流石に結婚は出来ないわよ」

ローズ姉様が冷静に突っ込むが、お父様は聞いていない。

「こうなったら私の手で奴の息の根を……」

「ちょっと、すごい物騒な事言っているわよ。お父様、気をしっかり!」

カメリア姉様も落ち着かせようと、お父様の肩をさする。


「うう、大体カメリア。隣国でとっとと婚約者なんぞ見つけおって。よくも私が反対する機会すら与えずに話を進めてくれたな」

「うわ、とばっちり」

「ローズもだ。あんな切れ者捕まえて、私が反対する隙さえ与えないような男。どうしてお前たちは皆、父様から巣立って行くんだ……寂し過ぎるだろ」


「お父様……」

お父様の本音を初めて聞いてしまった。胸がギュウッとなる。


右にローズ姉様、左にカメリア姉様、床に私が、お父様を囲うように座った。

「ねえ、お父様。確かに女である以上、恋をして誰かに嫁ぐことに幸せを感じてしまう。でもね、お父様を好きな気持ちは変わらないのよ」

ローズ姉様が私たちの気持ちを代弁してくれる。


「リリーも好きな人を見つけたわ。でもよく考えて。レジナルドはお父様の部下でしょ。いつでもリリーの様子を聞くことが出来る。なんなら会う事だっていつでも出来るわ。カメリアは隣国ではあるけれど、来ようと思えばすぐに来る事が出来る距離よ。私だってここにいる。忘れないで。私たちは嫁いでいても、ちゃんと傍にいるわ」


「ローズ……」

「私も。今まではゲームから逃げていたからあまり帰って来なかったけれど、もう大丈夫だからもっと帰って来る。ザックもここが楽しいみたいだし」

「私だって、いくらなんでもすぐにお嫁には行かないわ。まだこの家にいる。まだ末娘でいさせてくれるでしょ?」


お父様の瞳からは大粒の涙が流れていた。

「そうだな。お前たちはアイツらに持って行かれたとしても、私の可愛い娘たちであることに変わりはないもんな。そうだよな」

これで落ち着いたかに見えたお父様。


「だがな……やっぱりレジナルドは嫌だぁー!!」

怒号で屋敷が震えましたよ、お父様。




「こんにちは」

ギルドにやって来ました。

「あら、リリーちゃん。少しだけ久しぶりね」

「そうですね。最近バタバタしていて。何かおススメありますか?」


バタンッ!

入り口の扉が物凄い勢いで開いた。屈強な体つきの男性が扉に手をかけている。

「おい、誰かヒール使える奴はいるか?」

焦ったような口調に驚いたが手を上げた。


「私、使えます!」

「助かる。そいつがすぐそこで倒れていたんだ。治療してやってくれないか?」

彼の後ろで仲間の人が支えている人物がいた。


「キャルム様!?」

支えられていたのはキャルム様だった。

「どうしたんですか?」

慌てて駆け寄る。即席でイスを3脚ほど並べてそこに横たえさせた。


「どうしたのかはわかんねえ。そこの路地の所で倒れていたんだ」

一体何があったというのだろう。ざっと見てみると後頭部を殴られたような傷がある。そこからずっと出血していた。


「ヒール」

小さく囁く。傷は綺麗に塞がった。

「どれだけ出血したのか……傷は治りましたけれど、多分貧血状態なのではないかと」

マリーさんに言えば、すぐに造血剤をくれた。連れて来てくれた男性に、少し身体を起こしてもらい、造血剤を飲ませた。


ここでは辛いだろうと、マリーさんが応接室のソファを貸してくれたので、そこに運んでもらう。荒かった息はすっかりおさまり、静かな寝息が聞こえ出した。しばらくして彼の睫毛が震えた。


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