回避不能
「王家のお茶会に呼ばれてしまったわ」
お母様が困ったわぁと私を見る。
「それは大変ね。でも王妃殿下とお友達なのでしょ。楽しくお喋りが出来るからいいじゃない」
「あら、私は別に困ってないわよ。呼ばれたのは私じゃないもの」
満面の笑顔で、招待状を私の目の前でヒラヒラさせる。
「呼ばれたのはあなたよ、リリー」
「……それは確かに困ったわ、だわ」
私はがっくりと肩を落とす。
「でしょう。着ていくドレスをすぐに選ばないと間に合わないものね」
片手を頬に当てて考えているお母様。
「え?もうその段階?」
「え?リリーは何を困っているの?」
「王家主催だと断れないかなぁって」
「当たり前でしょ。しかもこれってきっと、第二王子殿下の婚約者探しよ」
「……よし、魔物の大群が来ることを願おう」
「ふふふ、どんな大群が来ても、お父様率いる竜騎士団がすぐに対応してくれるわ」
「はぁ、お父様のバカ」
そう、お父様は王国最強を誇る、竜騎士団の団長をしている。私と同じ白金の髪にアクアマリンの瞳を持ったお父様は、自分の髪色と同じ白金の竜に乗っているのだ。小さい頃に、何度か連れて行ってもらった竜舎の事を思い出す。竜舎には、色とりどりのたくさんの竜たちがいた。
その中で、白金の竜は一頭だけだった。そしてもう一頭、黒色の竜も一頭だけだった。どちらも竜の中では珍しい色なのだそうだ。彼に乗る者はまだ現れないんだと、お父様が言っていたのを覚えている。
「よし、決めた」
「あら、行く覚悟が出来たのね」
「行くのは仕方がない、覚悟を決めたわ。行って私は、竜舎を見に行く事にする」
「ドレスで?」
「ドレスじゃなくていいなら着ないけど」
「ドレスなんてヒラヒラしたので行ったら、餌と間違われてパックンされちゃうんじゃない?」
ずっと、同じ部屋でお茶を飲みながら、黙って聞いていたローズ姉様が大きな溜息を吐いた。
「王家主催のお茶会に行くのに、ドレスを着ない、なんていうのは言語道断よ。それと、王家主催のお茶会に行って抜け出して、竜舎に行くのも言語道断。わかった?」
お母様とお揃いの真っ赤な髪を揺らして、アクアマリンの瞳でお母様と私を交互に見る。いや、睨む。
「はい、わかりました」
コクコクと素直に頷く私。ローズ姉様が怒ると、説教が長いから嫌なのだ。
「よろしい。じゃ、まずはドレスを選びましょうね。もうそろそろ来るはずだから」
ローズ姉様が再びお茶を飲みだす。
「来るって何が?」
「ふふ、もう呼んだのよ。最近、流行っているデザイナーよ」
姉様が二ッと笑った途端、侍女から来客の知らせを受けた。
「流石、ローズちゃん」
ニッコニッコのお母様に、手を引かれながら採寸されに向かう羽目になってしまった。
「これなんて、いいじゃない」
「こっちも綺麗よ」
お母様とローズ姉様がノリノリ。私は怖くて口を挟めない。もう黙って決まった物を受け入れよう。
「うーん、何か決め手に欠けるのよね」
ローズ姉様が唸った。
「そうねえ、リリーは髪色が人目を引くから、それを邪魔しないシンプルなものがいいのよねえ」
お母様も悩んでいるようだ。
「では、こちらはいかがですか?」
デザイナーが手触りの良さそうなクリーム色の生地を出してきた。
「綺麗だわ……でもかなりの冒険になりそうじゃない?ラインが協調されそう。なんとなく膨張して見えそうだし」
お母様が不安そうだ。
「身体のラインが出やすい色ではあります。ですが、お嬢様はとてもスタイルがよろしいのでお似合いかと。敢えてシンプルなデザインにして、白金の糸で装飾をつけるのはどうでしょう?」
話しながらサラサラとデザインを描いた彼女は、二人にデザイン画を見せる。
「いいじゃない、これ。リリーにきっと似合うわ」
「そうね、素敵。これは注目間違いなしだわ」
二人は満面の笑みを浮かべた。何故か、私には見せてくれなかった。
結局、私の意見どころかデザイン画すら見せられずに、私のドレスは二人によって決められてしまった。




