プロローグ 現実は生きるに堪えない
『知識は力なり
自然の下僕かつ解釈者たる人間は、自然のふるまいに対する事実または思考の中に観測できた分だけを、実行・理解可能だ。これを超えては、何も知ることがないし、何も行うことができない。人間の知識と力は一致する、というのも、原因を知らなければ、結果を生み出すこともできないからだ 』
フランシス・ベーコン『ノヴム・オルガヌム』
異世界転生とは、なんとも心惹かれる響きであろう。その心の内に宿す冒険心や子ども心を無性にたきつける。まだ見ぬ世界、まだ見ぬ生物、まだ見ぬ現象。想像は無限大、宇宙の彼方まで膨れ上がり新たな出会いや体験を享受することも容易いだろう。けれど、それはあくまで空想の世界な話であって決して現実ということにはならない。夢か現かそれとも幻か、そんな夢心地に浸ることも許されない紛うことない現実。
そんな現実であるこの世は退屈だ。全ては有象無象に一緒くたにまとめられるというのに、人権だの個性だの価値観だの一人の権利というものを容器に入れた水のように、こぼれないように、落とさないように、なくならないようにこれでもかと丁寧に扱う。絶対順守の国際法で、普遍な一般良識として。やれ人権、やれ人種差別、やれLGBT、どこもかしこも騒ぎ立てる。口うるさく、“詭弁”をふるって、正当性を掲げて。
街には、色とりどりの光に満ち溢れている。オフィスのビル群の無機質な光だったり、閑静な住宅街から漏れる優しい光だったり、けたたましく騒ぐ眠らない街の秩序ない光だったり、思い思いの光を放っている。個人の人権が保障されているという建前の範囲内で、誰かの人権を犠牲にして得ている幸せを当たり前だと享受して。
異世界、それは現実世界とは異なるもの。
社会基盤も生態系も価値観も世界そのものが違うのだから。この世界を生きている僕にとって、生きずらい僕にとっては、少なからず今よりは楽園になるだろう。まぁあればの話だが。
靴をそろえる。靴下を脱ぐ。ひやりとした感触が足の裏から伝わってきてまだ生きていることを実感する。もうすぐ冷たくなるこの体もまだほとぼりが冷めていないように熱を帯びている。全ては無駄なこと。この一瞬、一秒でさえまとまれば跡形も残らないのだから。
そして白く光る満月を背に僕はマンションのビル群に沿って、この世界に別れを告げた。
初めまして、宇佐晴らしというペンネームで今から活動する者です。私にとってこの作品は受験勉強の“うさばらし”のような背中を伸ばせるような息抜きのような存在です。
スカッとするような主人公の勇者退治を読者様に届けられたらなという所存ですが、私自身、熱しやすく冷めやすいという典型的な続かない者でありますので投稿が遅かったり、失踪しているかもしれません。その時は、こいつのうさばらしに付き合ってしまったと嘆いて忘れてください。
それでは、また。次話でお会いしましょう。
執筆BGM~『幽霊楽団』~