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9話 パーティー名を決めましたか? 忘れてました

 


 害獣駆除や畑仕事に明け暮れていると、あっという間に年が開けた。

 来週はいよいよ王都の冒険者学院の入学式だ。

 山で狩った猪や鹿、クマを村の人たちに分けてあげたけど、肉や毛皮の半分は領主様に納めないといけないらしい。

 それでも村の人たちからは随分と感謝をされている。

 今まで村のみんなにお世話になったので、せめてもの恩返しのつもりだったんだけど、それでも感謝されるのは嬉しい。


 今日は俺が王都に旅立つ前に会っておきたいからと、商会に働きに出ているラック兄ちゃんが帰って来てくれた。

 ラック兄ちゃんは父ちゃんや俺と同じ銀髪で、イケメンだ。顔立ちが母ちゃんに似たのが功を奏している。

 兄弟の中で一番仲が良いので、久しぶりに会えてとても嬉しい。

 一家全員が揃ったので、晩飯はご馳走が並んでいる。



「いや〜、フリオが冒険者学院に行くって聞いてビックリしたけど、1年見ない間に随分と変わってて本当に驚いたよ」



 ラック兄ちゃんは俺の背が伸びて、ガッチリして来た事に驚いたみたいだ。

 確かに155BLだった身長が163BLになっていて、まだ伸びている感じがする。



「だろ?この2ヶ月くらいで急に背が伸びやがってよ、しかもやたらと生意気になってんだ。」



 ゴア兄ちゃんがトゲのある言い方をする。

 あの時の事をまだ根に持っているようだな。小さい男だ。



「ははは。戦闘系のセンスが授かったから急に背が伸びて来たみたい。

 今ではゴア兄ちゃんの動きがスローに見えるよ」

「何だと!このヤロー!」

「コラ、ゴアもフリオも喧嘩すんな!

 せっかくラックが顔見せに来てくれたってのに」



 先に突っかかって来たのはゴア兄ちゃんなのに、何故か俺まで父ちゃんに注意された。

 納得いかないなぁ…



「まぁまぁ、みんな相変わらず仲よさそうで安心したよ。

 それにしても、今日の晩御飯は随分と豪華だね?

 こんなに沢山肉が出るなんて」

「それはフリオちゃんが山で狩って来たの。お姉ちゃんに食べて欲しいからって、ねー!フリオちゃん?」



 マチルダ姉ちゃんが自分の為に狩りをしてくれたとラック兄ちゃんに吹聴する。

 始まったよ…正直なところ俺はマチルダ姉ちゃんが苦手だ。

 小さな頃から優しくしてくれていて有り難いんだけど、やたらと子ども扱いしてくる。



「いや、誰もそんな事言ってないよ。猪は畑を荒らすから狩ってるだけで、クマは強そうだから 訓練として狩っただけだし」



 俺の全否定で、マチルダ姉ちゃんが不貞腐れた。

 でも、嘘は良くないからね。



「く、訓練で熊を倒したって?フリオ1人で?」

「うん。魔猪に比べたら凄く弱かったよ」

「ま、魔猪!?魔猪も倒したのかい?」



 ラック兄ちゃんが矢鱈と驚いてる。それも当然だろう。

 俺がそうだと答えたら、ラック兄ちゃんが固まった。



「コイツはホント無茶ばっかしやがるんだ。

 でも、魔猪はミスコスが襲われた所を助けたっていうからまぁ許してやったがな」

「まぁ、魔猪を殺した時はロドリゴとミラが一緒だったけどね」

「そ、それでも3人とも子どもじゃないか」



 ラック兄ちゃんが驚いた顔のままでツッコミを入れて来て、深くため息をついた。



「戦闘系のジョブの人が一般人の比じゃないって噂は聞いてたけど、こんなに無茶苦茶なんだね」

「うん。フリオちゃんは特に凄いんだ〜。

【小鳥の世話(大)】で小石を投げて飛んでるキジを殺したんだから」

「こ、小鳥の世話で鳥を殺したって!?

 小鳥には優しいけど大きな鳥には容赦が無いって事かい?」



 マチルダ姉ちゃんの言葉足らずの説明で、ラック兄ちゃんが凄く誤解している。



「ほらほら、みんなお料理が冷めちゃうわよ」



 見兼ねた母ちゃんが何とか変な流れを止めてくれた。

 俺の話は取り敢えずそこで終わって、みんなでご馳走に舌鼓を打った。

 その後はラック兄ちゃんの話を色々と聞いた。

 ラック兄ちゃんは勤勉な働きぶりが認められて、今年から正式に雇われる事になったらしい。

 恋人も出来たんだとか。

 この村にはラック兄ちゃんが好きだという女の子が何人かいたからな。

 罪な男だねぇ。


 翌日ラック兄ちゃんは朝早くに出発した。

 寂しくなるけど、一生会えなくなる訳じゃないんだ。

 母ちゃんは商会の人に渡すように、熊や猪の干し肉をラック兄ちゃんに持たせた。

 去って行くラック兄ちゃんを見送る父ちゃんと母ちゃんはしんみりとしている。

 ゴア兄ちゃんと違って、ラック兄ちゃんなら立派に商人としてやって行くだろう。



 ◇◇◇◇



 村を発つ前日、俺たちは衛兵のドルフさんの所に行った。

 色々とアドバイスを貰ったり、冒険者の事を教わったお礼を言うと、「お前らが居なくなると寂しくなるな」と頭を撫でてくれた。

 ドルフさんはとても優しい。

 俺たちがイタズラをして回ったのがバレて大人たちにこっ酷く怒られた時も、「ガキは元気な方が良い」と言って庇ってくれもした。

 そんなドルフさんの穏やかな笑顔を見ていると、俺たちもしんみりしてしまう。



「そうだ、お前らは3人で冒険者パーティーを組むんだろ?

 パーティー名は考えたのか?」

「「「あっ!」」」



 俺たちは思わず声が揃ってしまった。前にドルフさんからパーティー名を考えておくよう教えられたのを忘れていた。

 この国では、冒険者ギルドに登録出来るのは成人になる14歳からだけど、王都の冒険者学院の生徒は特例で12歳から登録が認められている。

 冒険者は殆どがパーティーを組むし、俺たちもそのつもりだったけど、ギルドにパーティー申請をする時にパーティー名も必要だと教えられたんだ。

 俺たちは焦って考え出した。



「やっぱり可愛い感じが良いと思うの。『チワワちゃんず』はどうかな?」

「それはミラんちで飼ってる犬の名前だろ?もっとカッコいいのが良いな。

『ベルマール』とかはどうだ?」

「それは伝説の剣聖様の家名じゃないか。ロドリゴはすぐにパクるからなぁ。

『英雄フリオとゆかいな仲間』なんてどうだろう?」

「フリオばっか目立つからダメ〜。『薔薇乙女団』にしよ?」

「「誰が薔薇乙女か!」」



 ミラの斜め上を行く命名に、思わずロドリゴとハモってしまった。パーティー名がこれ程難しいとは。



「仕方ねえなあ、『戦鬼ロドリゴと下僕たち』にしておいてやるか」

「何でお前がリーダーっぽくなってんだよ。しかも俺がさっき付けたのと似た感じだし。

『大胆3』とかカッコ良くない?」

「何かよく分かんないけどダメだと思う。『お花畑の妖精達』は?」

「「誰がお花畑の妖精か!」」

「仕方ねえなあ、お前達は。せっかくだからこの村にちなんだ名前とかどうだ?」



 泥試合の様相を呈して来た俺たちの話し合いに見兼ねたのか、ドルフさんは助け船を出してくれた。

 確かに故郷のこの村っぽい名前で活躍すれば、この田舎の村も注目されて人が賑わうかも知れない。

 カバナ領の最北端に位置するこのアルニーロ村は、領民の間では『北の村』と呼ばれていて、正式な村名を知っている人は少ないって話だ。

 活躍して村の名前が少しでも広まれば恩返しになるかもな。



「そうだ、『チームアルニーロ』っていうのはどうだろう?」



 俺は頭に浮かんだパーティー名を言ってみた。ミラ、ロドリゴ、ドルフさんの3人はハッとした顔をしている。



「うん、良いんじゃない?私達の村のアピールになるし!」

「何となく良い名前だな。カッコいいじゃんか」

「あぁ。銀髪の坊やが考えたにしては、良いパーテイー名だと思うぞ」



 2人とも納得してくれたようだ。ドルフさんのお墨付きも頂いた事で、俺たちのパーティー『チームアルニーロ』が爆誕した。


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