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6話 センス【小鳥の世話(大)】を発動しますか? はい

 

 魔猪に吹き飛ばされたロドリゴを何とか助けたものの、木剣も放ってしまった。

 もう魔猪は俺たちの方に向き直っている。

 このままでは2人とも殺される…



「ファイアーボール!」



 突如爆炎が上がる。魔猪は灼熱の炎に包まれながら大きく嘶いた。

 目線の先には息を切らせたミラが、右手を前に突き出して立っている。

 さすが上級魔導師だ。

 俺は心の中でミラを讃えながら、急いで木剣を拾って体勢を整えた。

 ミラの火球で大きく体勢をくずした魔猪に向かって飛び込んで、太くてゴツい頸部に木剣を体中の力を込めて振り下ろす。



「うぁぁぁ!喰らえ、【小鳥の世話(大)】!」



 渾身の1撃を打ち込んだ少しの時間差で魔猪の首が切れ、頭部がズンと音を立てて地面に落ちた。

 まさか木剣で首を切り落とせるとは…やはり【小鳥の世話(大)】は最強だ。



「そうだ!ミスコスさんは…」

「ヒール!」



 ミスコスさんの方を振り返った時には、ミラがミスコスさんに治癒魔法をかけていた。

 おいおい、上級魔導師最強かよ!

 さっきの爆炎と言い、ぶっつけ本番であろう治癒魔法と言い…



「流石ミラは上級魔導師だなぁ」



 俺の呟きが聞こえたのか、ミラは俺の方を向いてニコリと笑った。

 ミスコスさんの腹部の傷は完全に塞がったみたいで、もう出血は止まっている。

 ミラの事だから余裕で治癒魔法を使ったのかと思っていたけど、血の気が引いた顔色をして、大きな目に涙を溜めて小さく震えていた。

 突然の魔物との対峙に、大怪我をした親友の父親を間近で見たのだ。怖くて当然だ。

 気付いたら俺も両脚がガクガクと震えている。オシッコも漏らしたかも知れない。


 いや…完全にパンツもズボンも濡れている…


 オシッコを漏らした状態で歩くのは辛いものがあるけれど、不快感と恥ずかしさに耐えながら気絶したロドリゴの元に向かった。

 俺が何度か呼びかけると、ロドリゴの目が薄っすらと開き、急に見開いて上体を起こす。



「父さ、あいだだだ…痛えよ…、うわ、冷てえ!」



 ロドリゴも漏らしていた…



「ハハハっ!ロドリゴがお漏らししてるwww」



 俺は高らかに笑った。ロドリゴも無事だったのでようやく安心したんだろうか?胸部を押さえながらも気恥ずかしそうにするロドリゴが可笑しくてたまらない。



「うっせえ。お前も漏らしているぞ。カカカカッ」



 ミラに介抱される父親を見て安心したんだろう。ロドリゴも濡れている俺の股間を見て笑い出した。

 一頻りお互いに笑い合った後で、俺はロドリゴに肩を貸してミスコスさんとミラの所に行った。

 どうやらミラもお漏らししたようで、やたらとモジモジしている。

 仕方がないさ。俺たちはまだ12歳なんだから。

 並みの12歳ならお漏らしなんかでは済まなかっただろう。並みの12歳ならウンコも漏らしただろうし、魔猪の餌になっていたハズだ。

 頭の悪い魔猪の事だから、ウンコもろとも平らげるであろう。

 そう、オシッコを漏らした程度で済んだのは、俺たち3人が天才キッズだという証。

 そんな事を考えていたら、村の大人たちがゾロゾロと集まって来た。それぞれ鍬や鎌を手に持っている。



「おおっ、この魔物はお前達がやったのか?」

「オイ、これ魔猪じゃねえか」

「アレって村の英雄の子らだろ?」

「そこで倒れてんのミスコスじゃねえか?」

「ホントだ。ミスコス!大丈夫か?」



 大人たちはガヤガヤと話しながら、首を落とされた魔猪の亡骸と、ミスコスさんとの間を行ったり来たりしている。

 周りの騒がしさにミスコスさんは眼を覚ましたようだ。



「うぉっ、魔猪がぁっ!あ、アレ…?うわっ!ションベン臭え!」



 どうやらミスコスさんは俺たちのお漏らしの匂いに驚いたらしい。俺たちは恥ずかしくなって俯いた。



「何だオメエらションベン漏らしたのか?ホントガキ共は…」



 ミスコスさんは口が悪い。元々が荒っぽい性格で、俺もロドリゴもミスコスさんにはビビりまくりだ。

 しかし、女の子としてお漏らしを指摘されたのはプライドが許さないのだろう。

 ミラが眉を吊り上げて口を開いた。



「フン!何さ。おじさんだってオシッコ漏らしてるじゃない!」



 半ベソのミラの指摘に、皆んながミスコスさんの股間を覗き込むと、確かにズボンがベチャベチャだ。



「うおっ、マジだ!いい歳こいてションベンたれか」

「ミスコス、おめえ子供らの事言えねえべ」

「コレは壮大なブーメランwww」

「何だ〜。父さんも漏らしたのかぁ」



 村の男衆に加えて、ロドリゴまでがミスコスさんをこき下ろす。

 ミスコスさんは、顔を真っ赤にして周りの大人達に怒鳴り散らした。



「うるせぇ!お前らだって魔猪に襲われてみろ!ションベン漏らすどころじゃ済まねえぞ!

 って、アレ?魔猪はどこに行った?」

「ああ、ロドリゴとミラと俺で倒したよ。

 怖くてオシッコ漏らしちゃったけど、倒さないとミスコスさんが殺されると思って」



 俺の言葉にミスコスさんを含めた大人達が呆気に取られた様子だ。



「す、凄えな!そういやあお前ら冒険者学院に行くんだもんな!流石だわ」

「フッ、流石俺の息子だ」

「こんなデケエ魔物を仕留めたんだ!ションベン漏らすくれえどうってこたぁねえ!」

「ションベン漏らして気絶しただけのミスコス笑えるwww」



 興奮して俺達に賛辞を送る大人達に紛れて、ミスコスさんがしれっと息子を自慢する。

 まあ、ミスコスさんをディスる声も混じっているけれど。


 結局魔猪は大人たちに解体され、肉は村の人たちで分け合う事にした。

 毛皮は残念ながらミラの火球で殆どがダメになっていたけど、中の魔石は無事だったので、代表して俺が貰う事になった。

 魔猪の魔石を冒険者ギルドに売りに行くと、30万ポルカになるらしい。領の中央街の商会で下働きをしている、ラック兄ちゃんの給金3ヶ月分なんだとか。


 こうして俺たちは初めての魔物との戦闘を勝利で終えた。

 最強の冒険者パーティーに向けての大きな一歩だ。


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