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5話 あのテーブルの上にあるのはオレンジですか?それとも魔猪ですか? 魔猪です

 12ノ月になって、冒険者学院の入学があと1月くらいに迫った。

 もうすっかり体の痛みは無くなっている。

 ドルフさんの言ったように、短期間で身長が3BLも伸びた。ステータスの知力も高いせいか、最近記憶力も良くなってきた。


 俺たちは今月から冒険者学院入学まで、センスを使って戦えるように3人で特訓を始める事にした。

 大聖堂の説明係の爺さんに言われた、『優れた戦闘センスを持っていても、使いこなせなければ意味が無い』という言葉が頭から離れなかったからだ。


 ロドリゴ家の畑の裏手にある土手が俺たちの特訓場所になっている。

 俺とロドリゴは木剣で模擬試合を、ミラは少し離れた所で魔法の練習を行っていた。

 センス剪定の儀で自分のステータスを見た時に思った事だけど、俺のステータスはやはりおかしい。

【身体能力強化(中)】と、【加速(中)】を持っているロドリゴが、俺の動きにまるでついて来れていない。



「フリオ、お前何なんだよ。ホントに【双刀術(小)】しか持って無いのかよ?」



 息を切らせてへたり込んだロドリゴが、忌々しそうな顔で言ってきた。



「だから言っただろ?【小鳥の世話(大)】は強力なんだって」



 俺はバテバテのロドリゴの周りを素早く動きながら勝ち誇ってみた。ロドリゴはかなり悔しそうだ。


 あれから自分なりにセンスを試してみたけど、【掃除(大)】はその名前の通り、掃除の技術が凄く上がるセンスだった。

 成長系のセンスはまだ良く分かんない。空間魔法という魔法も、何をする為の魔法かイメージすら掴めない。

 文字が読めないセンスについては全く訳が分からない。

【双刀術(小)】は2本の木剣を器用に使えるセンスのようで、意識を集中して使うと、攻守共に安定した剣さばきが出来る。

 でも、劇的にスピードや力強さが変わるようなセンスでは無いようだ。

 そうなると、【小鳥の世話(大)】が一番可能性が高い。大体ウチでは小鳥なんて飼ってないので、小鳥の世話のイメージもつかないのだけれども…

 想像するに、小鳥の世話にはかなりのパワーとスピードが必要なんだろう。

 しかも、大のセンスなのだから。


 話は逸れるけれど、掃除センスのせいでウチの掃除は俺に丸投げされている。

 おかげで家の中はとてもピカピカだ。外観はボロっちいままなんだけどね。



「えいっ、ファイアーボール!」



 ミラの叫び声が聞こえて、河原の方を見ると、大きな火の玉が岩に当たって、岩の周りが爆炎に包まれる。



「や、やったぁ!初めて魔法が出たぁ!」

「す、凄え!さすが上級魔導師!」

「ちょっ、魔法の使い方俺にも教えてよ」



 喜ぶミラをロドリゴは素直に褒めた。でも俺は魔法がどうすれば使えるのか知りたかった。

 空間魔法なんて聞いた事も無いし、どうすれば使えるようになるのかも分からない。

 ロドリゴの褒め言葉に、得意げに胸を張るミラ。



「意地悪しないで教えてくれよ」

「う〜んとねぇ、そう。ギューって集中して、火の玉を思い浮かべてヤァってやったら出来たの」



 ダメだ。ミラは何でも感覚や直感で行動するタイプだった。語彙力も無い。

 クソっ!これだから天才肌の人間は嫌なんだ。


 魔法の訓練を半ば諦めたその時…



「ま、ま、魔猪だ〜!!!魔猪が出た〜!!!」



 聞き覚えのある男の人の叫び声が畑の方から聞こえて来た。

 でも、魔猪だって?この村に魔物なんて出た事が無いのに。



「ヤバい…父さんの声だ…」



 ロドリゴが青い顔で呟いて、すぐに木剣を握って畑の方に走り出した。



「俺達も行こう!」

「で、でも魔猪だよ?魔物なんて…」



 俺の呼びかけにミラは怯えたように立ち竦んでいる。

 確かに女の子には魔物は怖いだろう。しかも、魔猪はベテランの冒険者がパーティーで倒すような強い魔物だ。

 時間が惜しいので、ミラを置いてロドリゴを追いかけた。

 俺もロドリゴも、以前とは比べ物にならない程足が速くなっている。2人で風を切るように土手を駆け抜け、畑に着いた。

 その時目にした光景は大人になっても忘れられないだろう。



 ロドリゴの父ちゃんのミスコスさんが、脇腹から沢山の血を流して倒れている…!



 畑の端の方には、普通の猪の3倍程体の大きな猪がコチラを向いて唸っていた。

 魔猪の下顎から天に突き上げるように生えている大きな牙には、ミスコスさんの物と思われる衣服の切れ端と、血が付いている。



「チッ、チキショウがぁぁぁ!!」



 ロドリゴが大きな叫び声を上げて魔猪へと駆けて行く。



「待てっ!正面から行くなぁっ!」



 咄嗟にロドリゴを止めようとしたけど、頭に血が上ったロドリゴは止まらない。

 俺も2本の木剣を握り込み、地面を蹴った。

 魔猪は頭を低くしてロドリゴに向かって突進する。

 ロドリゴは木剣を振り上げて、突き出ている魔猪の鼻頭に鋭く振り下ろす。

 激しい衝突音と共に、ロドリゴの体が宙に舞った。

 自分の体よりも遥かに大きな魔物の突進だ。ロドリゴが弾き飛ばされるのも当然だ。



「ロドリゴぉぉっ!!!」



 俺は足を踏み込む角度を咄嗟に変えて、吹き飛ばされたロドリゴの方へ向きを変える。

 何とかロドリゴが地面に叩きつけられる前に、両手で受け止める事が出来た。

 ギリギリでロドリゴを救えたけど、木剣は手放してしまった。

 魔猪は既に突進を止めて、こちらに向き直ろうとしている。

 ロドリゴは気を失っているだけのようだけど、抱えたままで魔猪の相手なんて不可能だ。



 このままでは2人共魔猪の牙に串刺しにされる…



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