だいいちわ
初投稿です
ずっと守られてばかりいた。最後までそうだった。
だから次があるのなら誰かのために…とそこで記憶は終る。
ここは人里離れた小さな村、外敵の脅威なんてものはこの村にとっては縁もゆかりもない話である。そんな平和な村では朝から子供たちの声が聞こえてくる。
「おーーい、山に遊びに行こうぜー」
と少女を遊びに誘っている少年が一人
「朝から暇なやつだな、家の手伝いでもすればどうだ?それに私は鍛練で忙しい。」
少女は誘いに対し迷惑そうに断った。
「騎士様になるしゅぎょーとやらも一日位休んでも問題ないさ。それにアイツは先に行ってるしさ。」
「いつもそう言うが私は真面目に鍛練をしているんだ!この時間を無駄にするわけにはいかない。山にはアイツと二人で行けばいい。」
そう少女は言うと手に持っていた棒切れで素振りを始めた。
それを見た少年は誘うことを諦めて友人の待つ山に向かうことにした。
ドボンと川に飛び込んだのは先ほど少女と話していた少年だった。
「く~~、さすがに飛び込むと寒いな~。」
そう話す少年の両の手には1匹ずつ魚が掴まれている。
「しょうがないだろ、お前は来る方に、俺は来ない方に賭けてて来なかったんだ。」
そう答えたのは先に山に来ていた少年だった。
「いやーそろそろ来ると思ったんだけどなぁ…。読みが外れちまったわ。」
笑ってそう答える少年。
「じゃあ俺も何か探してくるから。火の用意頼んだよ。」
ともう一人の少年は山の奥に進んでいった。
人生いつ死ぬかなんてわからないんだから後悔しないように今を楽しめばいいのになぁと鍛練すると言っていた少女のことやいつになれば飛び込んでも寒くないだろうかなんて考えを巡らせながら少年が何か見つけて戻ってくるのを待っていた。ある程度時間が過ぎてこちらに近づく気配を感じて、
「果物でも見つかったか?」と、戻ってきた少年に声をかけた。
そのつもりだった。
少女は山に来ていた。たまには遊びとやらに付きあってやるのも悪くないと、あと村に近い年の友人が他にいなくて、いつのまにか自分だけが孤立してしまうかもしれないという心配も少しばかりあったりする。
そんな少女に向かって近づいてくる足音に気づき思わず足を止めその方向に向き直した。
少年は逃げていた。後ろを見ればまだ追いかけてきているそれは二本足で走ってはいるが人の見た目はしていなかった。少年よりは大きな背丈に禍々しい色の肉体、その手には鋭い鎌のような爪を持ち、口には自分など骨ごと噛み切れるような牙があるそれは不安を駆り立てるように音を叫びながら追いかけてきていた。この世界で生きるものなら誰もがその存在を知っている。マモノと呼ばれるそれは少年達の住む村ではめったにお目にかかれないものだった。現にマモノから逃げるなんて経験は初めての少年である。
「アイツが無事でありますように」ともう一人の少年の無事を祈って逃げて、再会した、少女と。
木々の奥から飛び出してきたのは、最近私のことをしつこく誘う彼だった。彼は私のことを見るなり驚いた顔をして、焦った様に私の手を取って走り出した。話す暇はない、と。その理由は彼の後ろから音を発しながら迫るマモノを見てすぐにわかった。しかし私には騎士になる夢がある。こんなところでマモノ1匹相手に逃げるわけにはいかない。剣なんてモノはまだ持っていない私でもどうにかしてやると彼の手を振り払い転がっていた棒切れを拾いマモノへと立ち向かうことにした。
少女が近づいて、立ち向かってくるのはそのマモノにも予想外のことらしく、わかりやすく振り上げられた少女の持つ棒切れは、マモノの頭部に振り下ろされた。直後、少女のいる位置にマモノが爪を振り下ろさんとした。少女は目をつぶり痛みと衝撃に備えることしかできなかった。
オレはいつもそうだった。目の前でそうやって、誰かが…今も目の前で彼女が、もう、そうはさせないと自分自身に誓いを立てたんだ。体が動くのに時間はかからない。
少年は少女を引っ張ることで間一髪、助けることができた。
「もうオレの前でこれ以上誰かが傷つくところは見たくないんだ!」
その言葉を聞いた少女はハッとしたように思わず声に出る。
「お前もなのか!?私と同じか!?」
聞いてか聞かずか少年は少女の手を取り再び走り出す。この先は見晴らしのいい何もない崖なのはわかっている。けれども、彼らに他の選択肢は無い。
俺は昔からそうだった。いつも誰かに守られて生きていたんだ。死ぬ最後のその瞬間まで……
俺には多くの同胞がいた、そいつらは俺を庇い名誉だと言って一人、また一人と死んでいった。そんなものは求めてはいなかった。周りを見渡した時に同胞達の増えることはない記憶だけが残っていた。だから、次があるのならば誰かのためだけにこの命を賭そうと誓った。おいて行かれるのはもう嫌だから。
マモノによって彼らが崖に追い込まれている、その光景を見たとき思わず笑みがこぼれた。俺はどうにか間に合ったようだ。さぁ、やることは決まった。
追い込まれた彼ら二人、追い込んだ一匹のマモノ。彼らを切り裂いてやらんと鎌のような爪が怪しく光る。そのときマモノの体勢が大きく崩された。もう一人の少年がマモノに体当たりをしたのだ。少年はそのままマモノを連れて崖から落ちた。その時の少年の表情はどこか嬉しげであり、満足気であり…
崖の上に少年と少女の二人が残された。