フェロモンの香り16
【マネージャー の巻】
病院に戻ったのは、23時を少し過ぎたくらい。
無事気付かれずに病室に帰還
身代わりのドナルドもベットに横たわっている。
夜勤の裕子さんが夜の見回りに来るまで、起きていたかったのだが
久しぶりの外の世界と激しい運動?! で疲れていたのだろう
朝の検温の時間までグッスリ熟睡してしまった。
「どうしたのぉ 拓都くん」
翌朝、看護師の青木さんによるマシンガントークで起こされる
昨日の乱闘でついた顔の小さな傷を根掘り葉掘り聞かれることになったのだ
テキトーに答えるが、病室にあるドナルド人形の件もあり
青木さんの格好の餌食となってしまった。
他病室で、どんな風にネタ化されて喋っているか考えると背筋が凍ってしまう。
でも、まぁ〜 何はともあれ病院ということで、傷口を
キッチリ消毒処理をしてくれるのは何より有難たかった。
「あれっ朝の検温までが、夜勤看護師の仕事じゃなかったの」
「私が夜勤勤務したのよぉ 拓都くん、裕子ちゃんは体調不良で急遽お休みだったのぉ」
「体調不良?」
「あらっ整形外科病棟のマドンナに、拓都くんも心を射抜かれちゃったぁ オホホホッ」
(青木さんとマトモニ会話しようとした僕がバカでした・・・・)
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その日の昼食後
僕の病室に星野さんが また現れた。
「お昼寝する時間だったかしら (笑)」
「いえっ 大丈夫ですよ (笑)」
すると
笑顔で喋る星野さんの後ろから、スーツ姿の男が顔を出す。
男の登場に少し驚いた表情をすると
「私のマネージャー 長谷川 修 (ハセガワ オサム) ヨロシクね」
「あっ 駆け落ちの人ぉ・・ぉおっ 」咄嗟にワイドショーのネタが口からでてしまう。
すると星野さんの後ろで、マネージャーの長谷川さんが必死に笑いを堪えている。
「笑っちゃダメよ長谷川っ 世間ではそんな風に私たちをみているのよ」
半笑いで答える星野さん
「この子が、愛のお気に入りくんなのかい?」
業界風のデザイナーズ眼鏡を直しながら長谷川が聞く
「へっ お気に入り・・・?」僕がポカンとした表情をする。
「お気に入りなんて失礼よっ、川崎君とはお友達よねっ」
「おっ お友達と言っても昨日会ったばかりですけどぉ」
「【一度会ったら星野の友達】って愛のデビューキャッチコピーだったよなっ」
長谷川さんがボソっと発言
「何年前の事言っちゃってんのぉ (笑)」
僕と星野さんは顔を見合わせて笑ってしまう
マネージャーの長谷川さんは、見た目と違い気さくなひとだった
口数は少ないのだけど、いいタイミングで面白いことを言ってくる。
こんな人が、星野さんを幸やわせにできる人なんだと心底思う
「愛が看護師の青木さんに、ギター弾いている人が誰かって聞いただけなんだろう?」
ベットサイドに置いてあるギターを品定めする様に確認しながら
長谷川さんが星野さんに聞く
「そうなのぉ そしたらその15分後には直接会って弾いてくれるって言ってきたのよぉ♪」
「えーー僕っ そんなこと言ってないんですけどぉ」
「青木さんが芸能リポーターだったら、芸能界は崩壊するなっ」
また、ポツリと長谷川さん
「バカね長谷川っ 川崎くんにふれ込まないでぇ」
星野さんの目じりは緩んだままだ。
「ねぇ また弾いてくれないかなっ 昨日の曲」
「自分も聴きたいなぁ〜」顎を右手で撫でながら興味深げな長谷川さん
「長谷川はマネージャーをする前は、曲のアレンジャーをしていたのよぉ
未完成の曲にアドバイス出来るかもね」
「アレンジャー・マネージャー・電子ジャー」と長谷川さんがまたポツリ
「・・・・たまに、外しネタもあるから注意して 川崎くん (プッ)」
「ぶはっ(笑) 了解です。」
外しネタの発言は、僕が力んでギターを弾かないように
計算された長谷川さんの技だったことを後で知る。
お陰で今日の演奏は昨日以上のデキ
綺麗な、そしてセツナイメロディーがギターの弦から溢れ出す。
一通り弾き終わると長谷川さんが、「凄くイイね〜うん、イイよ川崎君っ でも・・・」
「でも? でもってなによっ 長谷川っ、、こんなにイイ曲なのにぃ〜」と星野さん
「でも何かが欠けている・・・」僕が長谷川さんの顔を見て答える。
「そっ何かが・・・後半のサビ部分になるメロディー?、情熱的な何か? ・・・かなっ」
「顔の擦り傷とか見ると、十分情熱的な感じするんだけどぉなぁ〜 私には」
星野さんが悪戯っぽく僕の傷のある頬を親指で撫でる。
僕が赤くなって照れると長谷川さんが
「その顔は、情熱と言うより根性って感じだけどぉ?!」
昨日の夜を一部始終知っているかの様な発言にドギマギしてしまう。
「その曲って10日後までに完成出来ないかしら?」と星野さん
「ムリですよぉ10日なんてぇ だいいちに退院していると思うし・・・」
「退院?!」
「今朝、正式に担当医の磯崎先生から言われたんです。」
「じゃ川崎くんの携帯の番号教えてくれないっ 連絡するからさっ」
「僕っ携帯電話持ってないんです・・・」長谷川さんが困ったぞぉ て顔をする。
「ん〜」星野さんは少し考えて 「私の携帯電話あげるわ★」
「えーーーーーーーーーっ」
「私の携帯は長谷川からの着信時だけ、着メロが違うのよぉ ほらこれ♪」
【ピッポロピッポロピッポロピピピー】ラーメン札幌一番のメロディーが流れる
「長谷川の生まれ故郷が札幌なだけに、札幌一番よぉ☆」
「でもぉ・・・・・・・・」
「私用で使っても構わないし、通話料金も長谷川もちっにするから
川崎くんにはお金がかからないわ、
かかってきた電話も知らない人なら出なくていいんだし」
「おいおいっ」こまった顔しながらも仕方ないと言った長谷川さん
「その代わり、10日後に曲の完成ヨロシクね♪」
「がっ頑張ってみますけど、何故10日後までに完成なんですか?」
星野さんはニコニコしながら黙ったままだ
すると長谷川さんが「愛の誕生日なんだよ、ワガママ聞いてもらえると助かるよ川崎君」
そう言って深々と頭を下げた。