あいドルのフェロモン7
「まだ間に合うかしら」
入ってきたのは神谷医院の看護師 藤川裕子
「藤川さん・・・ごめん、今からスタジオに入らなきゃいけないんだ」
「長谷川さんの情けない顔、似合わないと思いますよ」
そう言って鞄からディスクを取り出す。
「星野さんから念のためって、預かってたディスク・・・必要ですよね」
「預かっていたディスク? そんな物ホントにあるのか!?」
「何かあったら長谷川さんに渡してくれって」
「3枚目があったなんて聞いてないぞぉ」
「長谷川さんには知らされてなかったんですね」
「それが本物なら、ギリギリセーフだ」
「良かったぁ、時間までに間に合って・・・」
「でもタイミングが良すぎるな、誰の仕業だ」
「テレビの状況みてたら持って行かなくてもイイって思ってたんですけど、慎也さんが持って行った方がいいって」
「ゴットシンは何でもお見通しか・・・」
「長谷川さん、早くしないと時間じゃいですか?」
「ああっ、わかっている!!」
(これで、少しは川崎君の役に立ったのかしら)
長谷川がディスクをセットしている姿を見ながら藤川は上手く行くことを願った。
スタジオでは一通りアイコンタクトについて解説が終わり
いよいよ楽曲の演奏の時間
『ベールに包まれたユニット アイコンタクト それではお願いします!!』
VJの合図と共に、長谷川修がセットしたDVDが再生を開始する。
映し出されたTV画面には、もちろん星野愛
「ハローみんな元気★アイコンタクトのボーカル星野愛です。」
ワンピースに長めブーツ、そして手袋
すべて白に統一された衣装で登場した星野さん
やっぱり笑顔が素敵だ。
「あまりテレビに出てないので死んだとか噂に流れてませんか?
私に断りなしで、そんなの情報つかっちゃたりするマスコミさん
少しは自重して頂きたいものですわ★私はもちろん死んでませんから(笑)
私は今でも、火星でゆったり休暇中ですからね(フフフッ)
冒頭から
放送中に流れた臨時速報を打ち消すコメントをぶちかます。
おっと相棒の拓都くんは何処かなぁ?」
テレビの画面が二元中継に変わり、僕らのいる場所がライブで映りだす。
「あっあっはじめまして、かっかっかっ川崎拓都です。」ハニカミながら僕
「元気そうね★」星野さんが手をふって答える。
「ええっまぁまぁ元気です」僕はVTRだと言うことを忘れ、素直に答えをかえしていた。
「まずはこの曲が出来た訳をお話しなくっちゃね」
星野さんは改まった表情でマイク越しに話す。
「そこにいる、川崎くんが作った曲を聴いちゃったら
どうしても詩をつけてみたくなっちゃってね★
そしたら自分でもビックリするぐらい凄くイイ感じのデキになっちゃって
マネージャーの長谷川に相談したら、みんなにも聴かせようってなことになったの
だからスッポンの梨木に宣伝部長になってもらって
いろいろやってもらっちゃったってわけ
それがこの楽曲【ラブソンング】ってことなの」
モニター越しに見た星野さんは
やっぱり綺麗で、しなやかな振る舞いで、色っぽい喋りで
どんなタレントやアイドルにも負けないフェロモンを放っていた。
僕の前でモニターを覗き込む 如月英治が何故か涙を流して泣いている。
スッポンの梨木はハンカチで目頭を押さえ、車の陰に消えていった。
そんな状況で
僕は鈴原とハマミク、そしてあけみさんに見守られながら
鈴木バイオリン製のギターをケースから取り出す。
【ボロロン】弦の音色を聴いて微調律し何時でも演奏できるようにスタンバイ。
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その様子を観ていた、横浜グランデューナ国際ホテルの水上は
「ホントに 長谷川の持っていたディスクを処分したと報告があったしょ?」
「はっははい、間違いありません。会長が調べた通りディスクは2枚あったそうで
両方のディスクとも破壊したと・・・・・」
「なら、どうして星野愛がテレビに映っているしょね」
手に持ったグラスが怒りで震え、中のワインが床に飛び散る。
「ぬぐぐぐぅー」
「会長ぉあまり興奮すると血圧が・・・」
「うるさいしょ」
「しかし・・・・」
「こうなったらテレビ番組ごと闇に葬るしょねぇぇぇ」
水上は携帯電話をかけようとテーブルに手を伸ばすが
口から泡を噴いて、そのまま倒れこむ。
「ぐうぅぅぅぅ~」
「かっ会長ぉぉ、大丈夫ですか!! 」
「うおうおぉぉぉ」
「たっ大変だぁ!! きゅっきゅ救急車ぁ!!」
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【番組モニター室】
「このディスクはバージョンBの複製だったんだな」
モニターを見つめる長谷川修が進行の状況をみて呟く
「そうなんですか?」
藤川裕子が渡された時の状況を思いだしながら言葉を返す。
「渡されるときに何か言ってなかったかい?」
「ごめんなさい、内容までは聞いてません」
「いやいいんだ、複製だろうがリテイク版だろうが川崎君が演奏する気になってくれれば問題ない」
「最初で最後の共演ですね」祈る様な手つきでこたえる藤川
「ああっ後にも先にも、これ一回きりだ」
そう言うと長谷川は子供のような笑顔で再度、モニターの星野愛を見つめる。