ラブソング22
神谷医院 スッポンの梨木と婦長
「本当に本人なのか・・・・・・・」
「はい亡くなってから、さほど時間は経っておりません」
「何故、ワシに最初に知らせる」
「星野さんの意思だからです」
「意味がわからん、最初に知らせるならマネージャーの長谷川か両親だろフツウ」
「そうですね、でも星野さんがそうして欲しいと言っておられましたので」
「ワシに自分が死んだ事を知らせて、どうなるか判って言ってるのか???」
「梨木様宛てのお手紙もお預かりしております。」
「手紙だとぉ・・・・・」
婦長から手紙を受け取り開封
暫し手紙を読み、黙り込む梨木
「う~ん・・・」
「・・・・・・」
「ワシを芸能リポーターと知っての手紙とは思えん内容だ・・・」
「どうされますか? 星野さんは全て梨木様に任せるとおっしゃってました」
「ぐうぅぅ・・・」
「写真を撮るのなら早く済ましてください、そろそろ森田プロに連絡しなければならないので」
「いやっ写真は止めとく、と言うか取材はなしだ・・・星野くんの件は聞かなかったことにする」
「本当によろしいんですね、電話した後では後戻りはできません。」
「ワシも男だ、二言はない!!」
「わかりました、それではこれを持って帰ってください」
婦長はそう言って梨木にA4の茶封筒を渡す。
「何じゃこりゃ」
「梨木様が取材を断った場合にに渡してくれと」
「手ぶらでは帰せないってことかぁ わっははは、こりゃ参った!! 死んだ後までワシをオチョクッテおるわ」
梨木が受け取った茶封筒の中にプラスチックケースとカードが1枚
カードには『よろしくね★』と一言、そしてキスマーク
「星野愛・・・ワシよりも何枚も上手だったわい」
そう呟いて梨木は、苦笑いしながら神谷医院を後にする。
玄関入り口で見送った婦長のところに
息子であるゴットシン
「マーマっ、本当によかったん梨木に渡しちゃって」
「イイのよ、全ては星野さんの決めたこと」
「でも、マーマ」
「でもじゃないわ、今から医者の務めとしてやらなければならないことが沢山あるんだから」
「医者の務めって、星野殿は本当は生きているんですかっちょ?!」
「慎也っシッカリシナサイ!! 嘘ついてるかどうか貴方も医者の息子ならワカルでしょ」
「・・・・・。」
「しょぼくれた顔してないで、あなたも手伝いなさい星野さんに失礼ですよ」
「・・・わかったでゴザル」
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翌日、僕は横浜中央病院で目が覚めた。
「男の勲章だな」
迎えに来た父は事情も聞かずに笑って
そう言ってくれたが
今の僕には慰めの言葉は逆に嫌味になる。
鈴原を助けられずに、男の勲章はないだろ・・・・
医局で手続きを済まし、家に帰る為にJRに乗る
萎えた面持ちで乗り込んだ車内に目をやると
中吊りのポスターが全て同じなのに気がついた。
【史上最強のスマイルガール 鈴原 藍】
「えっ」
改めて外の景色を見ると
ホームの外にある大型のポップやファションビルの垂れ幕も鈴原で埋め尽くされていた。
「あぁ・・・やっぱり夢じゃなかったんだ・・・」
この瞬間、鈴原をエムベックスの会長から救うことが出来なかった事が
現実だったんだと思い知らされる。
(・・・一晩でここまで出来るなんて・・・結局、僕は何にもできなかった)
僕の目の前では、中吊りポスターの鈴原がとびきりの笑顔で笑っていた。
(そんな顔で僕を見るなよ・・・・)
耐え切れなくなって、僕は窓辺に目線をおとす
外の流れる景色は
次第に涙で見えなくなっていった。