ラブソング21
エムベックス本社ビル屋上に3人が到着すると
ヘリのプロペラ音が轟いている。
早速、社長の水上里香がパイロットに近づき
何かを話をするが、パイロットは首を横に振るばかり
「急いで離陸、そして横浜グランデューナ国際ホテルまで最速で飛ぶのよ!!」
「いくら社長の命令であっても、この悪天候じゃ死にに行く様なものです。」
「貴方の操縦技術をかって雇ったのよ、何とかしなさい!!」
「操縦技術とかの問題じゃないんですよ、この風の強さではここからの離陸も出来ません」
「キィィィー何とかならないのぉ!!」
「運良くここを離陸出来ても、神奈川上空に巨大な積乱雲と雷雲が点在しております・・・」
「くっ・・・八方塞か・・・・」もの凄い形相の森田毅
「もっ森田様・・・何とか離陸させますので・・・」
「もういい・・・・」
「・・・毅・・・・」
「碧、今の私らでは打つ手が無い・・・最短の公共機関で行こう」
「でも・・・藍はどうなるの?」
「・・・・・・・・・・・・。」
森田毅と鈴原碧は黙ったままエレベーターに戻る。
「本当に申し訳ございません。」
後姿の2人に頭を下げた水上里香は、何かを思い出した様に携帯電話をかける。
「エムベックスの水上よっ、フロントの伊藤支配人を出して頂戴」
かけ先は横浜グランデューナ国際ホテル
「はい、伊藤です」
「ご無沙汰です、伊藤支配人」
「大至急、会長と繋いでほしいのです」
「それは無理です、お嬢様」
「無理ってどう言う事、お父様はそこに居るのでしょ?」
「いくらお嬢様の頼みであっても、水上会長は裏切れません」
「ワタクシの一生のお願いであっても無理なのね?!」
「・・・・3度も会長に助けていただいた身分の私が、裏切ることなど到底できません」
「あの優しかった伊藤さんは、どこにいったの・・・お願い!!」
「・・・・・・・・・。」
【ツーツーツー】
(あちらから通話を切るなんて・・・・)
改めて父水上健一の力の大きさを知った瞬間だった。
「初めからワタクシが止めるべきだったのね・・・」
一人 立ち竦む水上里香
エムベックスのヘリポートに大粒の雨が降り出していた。
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【ドサッ】
横浜グランデューナ国際ホテル裏口から路地裏に放り投げられた拓都
そのショックで意識が戻る。
「くっつぅー、グフッ」体中の痛みで声にならない。
【ビカッ ゴロゴロゴロォ】
降っている雨は激しさを増し、近くで雷鳴が轟いている。
「ぼっ・・・僕は・・・鈴原を一生守るって約束・・・したのに・・・」
【ゴロ ゴォゴォォ】
「なのに・・・あいつに・・・会うことすら・・・できなかった・・・」
【ゴロゴロゴゴォ】
「・・・僕は・・何やってんだぁ・・・・」
【ビカッ ゴォゴォォ】
「ちくしょぉ!! ケホッ」
僕はそう叫ぶと、血へどを吐いてまた気を失った。
その様子を見覚えのある男が見守っていた。
「予想的中ですね」
「ワシの勘にハズレなしじゃ」
拓都をマークしていたスッポンの梨木と助手の大柳。
「この少年の写真を何枚か撮っておけ」
「わかりました。」
「カメラを濡らすなよ、ワシは裏口から最上階に忍び込む」
「あっあー梨木さん、写真撮ったらこの少年はどうします?」
「そのままじゃ不味いだろなぁ、とりあえず病院に連れて行け」
「わたし一人でですか?」
「当たり前だ!!」
そう言ってホテルの裏口の扉を開けようと梨木が手を伸ばすと
携帯電話が震える。
(くっ邪魔するなってんのぉ)
「はいっ梨木だ」
『梨木隆弘様の携帯電話でよろしいですか?』
「ああっワシは梨木だが、どなたかな?」
『神谷医院の者です・・・・・・・・』
「かっ神谷医院からとは驚きだなっ」
『驚きと言うよりは、願ってもないなんて思ってらっしゃるのでは』
「ふふふっ、そりゃ星野愛が居るかもしれない場所だしね」
『そしてアイドルブロガー・ゴットシンの根城だからかしら・・・』
「そちらからカミングアウトとは、説明の手間が省けるねぇ・・・って事はワシに特別な話ってことなのかな?」
『さすが察しが早いわね、今すぐあなた一人で神谷医院に来て下さるかしら』
「今すぐか?!」
『ええっ、今すぐです。』
「う~ん、こちらもスクープの取材中なんだがなぁ」
『無理にとは言いません、今すぐでなければ この話は無しと言うことで』
(こちらのネタもあちらのネタも星野愛カラミのネタって事かぁ・・・)
「わかった、今すぐ行くよ」
スッポンの梨木は、助手の大柳に後を任せて神谷医院に向かう。
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横浜グランデューナ国際ホテル
「もう体はピカピカになったしょ、そろそろ出てくるしょね」
幾ら待ってもバスルームから出てこない鈴原藍にシビレを切らし
会長の水上はベットルームから出てきて声をかける。
「あっはいっ今、行きますのでもう少し待っててください。」
「またそれしょ、もう少し待っててくださいは聞き飽きたしょ」
【ガチャ】
水上が強引にバスルームの扉を開ける。
「キャッ!!」
「イイしょイイしょ、その恥じらいの声、タマラナイしょねぇ」
「もう少し、もう少しだけ待って下さい!!」
「ウェイティングタイムは終わりしょ」
「・・・・・・・・。」
「そして右手にある携帯電話の電源も切るしょね」
何もかも見透かしているんだぞという表情の会長
いやらしい笑みをつくり、指でベットルームを指差す。
鈴原は持っていた携帯電話をパウダールームの前に置き
バスローブの帯を巻きなおす。
(早く来て・・拓ちゃん・・・お願い!!)
心で念じながら髪の毛をアップに束ねる。
「おおっこれまたイイしょねぇ、仕草にも色香があるしょ。」
一連の動作を食い入るように観察していた会長から言葉が漏れる。
「今宵のデザートは史上最高の物になるしょ」
数分後、2人は静かにベットルームに向かった。