ラブソング20
エムベックス1F受付フロアに森田社長と長谷川修
「いいから社長を呼べって言ってんだろう!!」
「ですから先客と まだお話が・・・・・・」
「そんな待ってる様な時間はないんだっ!」
「社長ぉミーティングルーム8番にいます。」
長谷川は受付のPCを勝手に操作して社長の居場所を確認
「東側の階段が一番早く行けます」
長谷川の指示で森田は駆け出す。
同じタイミングで受付横の詰め所から警備員が出ようと扉が開く。
その扉に長谷川がタックル
大きな音をたてて開けかけた扉は再度閉じ
詰め所の中からドカドカと人がひっくり返る音がする。
「社長ぉ早く行ってぇ!!」
森田が階段を上がると幾つもの部屋が並ぶ
突き当たりにミーティングルーム8番があった。
ダッシュで近づくと部屋から聞き覚えのある声が2つ
水上里香と鈴原碧だ
【バタン】
「碧っここで何してるんだ!!」
「あんたこそっ、ここにデートしにでも来たのかしら!!」
「森田さんとワタクシがデートですってぇ?!」
「いやっ違うっ、今こんな話してる場合じゃないんだっ!!」
「こんな話って失礼ね!!藍をこんなワケワカラナイ会社にいれちゃってぇ!!」
「ワケワカラナイ会社だなんて失礼ですわっ!!」
「何が失礼ですってぇ、このおかち面子がぁ」
「おかち面子って何言っちゃってるのかしら、このネイチャーババア」
「うるさい!!」
「 ! 」
「私の娘が、君のお父さんに貞操を奪われようとしてるんだぞぉ!!」
「なっなっなっ 何ですってぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
「えっ 鈴原藍さんって、森田様のお嬢さん???」
「森田の娘じゃなくて、私の娘よっ!!」
「この際、どっちの娘でもイイ!! 会長を止めてくれぇ!!」
「わっわっワカリマシタわっ!!ではこちらに急いで・・・」
そう言うと水上里香は社長室に向かう
社長室に入ると早速金庫に手をかけ 開錠
中から取り出したのはゴールドメッキされた携帯電話
「緊急時には絶対連絡とれる携帯電話ですの」
早速発信ボタンを押すと、間髪入れづに社長デスクの方から着信メロディ
「どういうことだ?」
森田が水上里香に確認する
デスクを空けてメロディの鳴っているシルバーメッキの携帯電話を2人に見せながら
「緊急用の携帯電話を持っていかなかったようです・・・・」
「持っていかなかったって、そしたらどうなるのよウチの娘は」
「マサカ、連絡の手段が無いなんて言うんじゃないだろうな?」
「ええっ連絡の手段はなくなりました。」
「なんだとう!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「会長の居るのはホテルなんだろう!!フロントに連絡して止めるように伝えろ!!」
「そうよっその手があったわ、さすが毅」
「駄目ですのっ、3時間は絶対連絡シャットアウトですので・・・」
「何言ってのよ、あなたが意地悪してるだけなんでしょ」
「頼む、このとおりだ!! 止めてくれ!!」
土下座して願い出る森田
それを見て鈴原碧も土下座して願い出る。
「意地悪してるワケじゃないですの・・・本当に連絡とれませんの」
本当に困った表情で水上里香が答える。
「頼む!! 一生のお願いだ」
「私からも一生のお願い!!」
その様子を見て水上里香はデスクから電話をかける。
『屋上から至急ヘリ発進準備』
「間に合わないかもしれませんが、車や電車よりも早いかと・・・」
硬い表情のまま、3人は屋上に向かった。
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ラブホテル ランランを飛び出した僕は
鈴原から聞いた横浜グランデューナ国際ホテルに向かっていた。
中華街の南門を出て、幾つかの交差点を抜ければホテルが見える距離だった。
吉田さんと僕をずぶ濡れにした雨は小雨に変わっていたが
遠くの方で雷鳴が聞こえている。
中華街の混雑をフットワークで避けながらの全力疾走
(大丈夫、フットワークも体力も戻っている)
僕は自分に言い聞かせるように心で念じる
「絶対に間に合わせてやる、待ってろ鈴原ぁ!!」
交差点が赤に変わったばかりでも死ぬ気で走り抜けた。
サッカーの練習でも経験したことの無いほど長い時間の全力疾走
どの位時間が経過したのだろうか?
とにかく僕は、目的の横浜グランデューナ国際ホテルに到着した。
そして
迷わずフロントに緊急事態だと伝える。
「スゥイートルームに居る鈴原が助けを呼んでいるんだ!!」
「その様なお客様は当ホテルにはご滞在しておりません。」
「なら、エムベックスの会長がスゥイートルームにいるんだろう?!」
「そちらのお客様も当ホテルにはご滞在しておりません。」
「そんなワケ無いだろっ、今さっき僕の携帯電話に連絡があったんだぞぉ」
その場で携帯電話を開き、鈴原に電話をかける
フロントの男を信じさせる為だ。
しかし、雨で濡れた携帯電話はビクリとも反応しない。
「どうですか? 助けを呼んだ人とは連絡がとれましたか?」
「くそっ本当にこのホテルに居るのは間違いないんだ!!」
「先ほども言いましたが、このホテルにはその様な方々は滞在しておりません!!」
僕はフロントの男が喋っているのを無視してエレベーターに駆け込むが
待機していたかのように、体格のイイ男が2人
僕の方に走りこんで来る。
僕は最上階のボタンと閉じるボタンを連打するが
エレベーターが閉まる前に男の手が扉を開く。
「坊ちゃん、勝手にエレベーターに乗り込んじゃ他のお客さんに迷惑になっちゃうよ」
そう言うと
もう一人の男が僕の腕を掴もうと手を伸ばしてくが
僕は、それをかわし続ける。
体力・筋力共に完全に回復している様だ。
そうこうしている間に
エレベーターの扉は閉まり最上階へと動き出した。
「チョロチョロとすばしっこい坊ちゃんだ」
フットワークとフェイントでかわし続けるが、狭いエレベーターでは
捕まえられるのに時間はかからなかった。
「無駄な抵抗はやめるんだな」
「うるさい!!」
僕は、つかまれた腕と反対の腕でパンチを繰り出すが
体格のイイ男は、簡単に手で受け止めてしまう。
更に
受け止めた大きな手で、僕の拳を握り潰しにかかる
「ぐぅぅ痛っーーーーーーーー」
「ほらほら、静かにしてれば痛い目に会わずにすんだのに」
【チンッ】
停止音が響き、エレベーターは最上階に停止し扉が開く
一瞬
大柄の男たちは、扉が開いたことに気を取られたようだった。
その隙をみて
僕は潰された右手を押さえつつ、エレベーターの外に飛び出す
がしかし、男の一人に腰の辺りを捕まれ
再びエレベーター内に
【ドカッ】
「勝手に動かれちゃ困るんだよぉ」
完全に体を掴まれ身動き不能に
そして無常にもエレベーターの扉は閉じてしまう。
「鈴原あぁ!! 鈴原あああぁぁぁー!!」
「煩い坊ちゃんだなぁ」
【ズドォ、ドゴォ、ボゴォォ】
そう言って、大柄の男2人は僕をボコボコに殴りかかる
1Fに到着前に僕は気を失っていた。