ラブソング1
【夕焼けの巻】
翌日
夏休みだと言うのに、朝早く母さんに起こされる。
本日も補習授業があるからだ。
昨晩は、あのまま家まで救急車で搬送(送って)してもらい帰宅
置いてきた正徳のバイクは後日とりに行く話となった。
「超ねみぃ〜んですけどぉ・・・」
正徳は補習授業を欠席
僕も休みたかったが、休むわけにはいかなかった。
星野さんと約束した曲の披露が明日へと迫っていたからだ。
自宅で曲創りをしてもよかったのだが
ギターの音で近所から苦情が来たことがある為
家では思いっきりギターは弾けない。
本気でやるなら、音量など考えずに集中したかったのだ。
そんな訳で、ギターは補習授業の初日から吹奏楽部の部室に置いたままだったりする。
吹奏楽部の部室と言っても音楽室なのだが・・・
眠い目を擦りながら、なんとかヤマセン(山形先生)の授業をクリア。
寝不足のせいか
体がフワフワして昨日の出来事が夢だった様にも思えていたのだが
信じられないことが補習教室内でおきていた。
補習に来ている生徒が、昨晩の【特ダネ特捜部隊】の話題でもちきりなのだ。
どうやら昨晩の出来事は夢ではなさそうだ。
今日の補習授業はヤマセンで終わり
僕は音楽室に向かった。
吹奏楽部の部員が登校しているわけもなく、音楽室は蛻の空だ。
北東の校舎にある教室は、昼に近いこともあり少し薄暗くなっていた。
静まりかえた教室にはいり
北と東側の窓を開けて、教室に風を入れる
すると東の窓から
穏やかな風がサラサラと入ってきた。
「ん〜気持ちイイ・・・・・」
補習授業の一般校舎とは比べられない位すごし易い。
僕は西側の一角にある
楽器の収納庫をあけて、ギターをとりだし
『ボロロン』
早速、ギターを弾いてみる
楽器を鳴らす為に作られた教室(音楽室)だからなのか
更に輝きを増した音色を奏でる
(いい響き・・・・)
ギターを乗せた股のポジションを直し、またアノ曲を弾きはじめる。
いつもより、少しスローな感じでのイントロ演奏
窓から入ってくる風が、北側の窓に変わり
先ほどの入ってきた風よりも温度が低めの風が、僕の首筋を撫でる。
真夏の教室だと言うのに信じられないくらい心地いい。
僕は穏やか気持ちでギターを弾いていた。
弦を弾くと、昨日の出来事が脳裏に浮かんでは消えていく
ドキドキしたり
ハラハラしたり
ビックリしたり
みんなの顔が現れる。
7人で撮った記念写真
みんなの笑顔
どっかで見たことがある笑顔・・・・・?
ほしのさん?
いや違う・・・・・。
すずはら
そうだ、いつも鈴原が僕にむける無防備な笑顔だ。
僕の弾くギターからは
綺麗な、そして情熱的な
今までとは違うメロディーが奏ではじめていた。
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校舎の東側校庭にあるプール
「ちょっとぉ藍っ藍ってばー」
【ザバァ〜】プールから水しぶきが飛び散る
「なによっ美穂 せっかく気持ちよく泳いでいるのに」
プールから上がってきたのは、鈴原 藍
「ホントにソフトボールの練習しなくてイイのぉ〜明日決勝なんでしょ?」
「いいのよっ、私は正式な部員じゃないんだし」
「だけどぉウチのソフト部が決勝まで来るなんて奇跡なのよぉ助けてあげなさいよぉ」
「もともと私の正式な所属部は、水泳部じゃん だからイイのよっ」
「だってさぁ準決までピッチャーやってたんでしょ?」
「私が投げなくったって、エースの里中さんがいるのよっ問題なしよ☆」
「なんか冷めたくないぃ?、どうしちゃったのよ最近の藍は」
「どうもしてないわよ・・・・・」
そこまで言うと校舎の3Fからギターのメロディーが聴こえてくる。
「吹奏楽部って、今日 学校に来てたっけぇ?」と美穂
「吹奏楽部じゃないわよぉ、あの演奏は拓都のギターね★」
「へぇ〜川崎君って楽器やるんだぁ」
「うんっ マジ上手いよ★拓都のギターは」
「あれぇ〜今日ここで泳いでいるのって川崎君のギター聴くためぇだったりしてぇ」
「美穂ったら、なに変な想像してんのよぉっ!!」
「おっ?」
サラサラと上空からやわらかい風がふきだし
音楽室からのギターの音がはっきりと聴こえはじめる。
「気持ちいい曲ね」美穂が目を閉じて聴き入っている様だ。
「そうね・・・」
鈴原も目を閉じて耳を澄ましてみる。
(何時ものアレンジとは違うわね・・・気持ちイイ・・・)
聴いたことの無い後半のフレーズが弾き終わるとギターの音がパタリと止まった。
「んっ?」
いくら待っても演奏は再開されない
「ちょっと見てくるわ」タオルを手に取り鈴原が音楽室に向かう。
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「グゥゴォー」
音楽室では寝不足がたたり
拓都は腰掛けていた机の上で熟睡していた。
音楽室を覗き込み、爆睡しているのを確認して入ってきたのは
ライブハウスで鈴原を襲った2人組みの情報源【小林しげる】
丸刈り頭の中央部がより深く刈られている。
いわゆる 逆虎刈りだ。
「お前たちのおかげで酷い目にあったんだ・・・」
憎悪に満ち溢れた顔で拓都に近づく 小林しげる
そして周辺を物色する、拓都を殴る物を探す為だ。
(おっ随分っとイイものをもってるじゃねぇかっ・・)
しげる は拓都の横に置いてあるギブソンのギターを静かに手に取る。
(殴るのは変更だ!! 悪いが、これは戴いていくぜっ)
しげるは音楽室を出ようと歩き出すと、入り口からはスクール水着姿の鈴原が現れる。
『なにやってるのぉ!!』
「ヤバッ」茂はギターを抱えたまま鈴原に体当たりして廊下に飛び出す!!
【ズダン】
「キャッ!!」体当たりされた反動で、鈴原が壁に激突
「んっ?・・・どうした・・・・」
寝ぼけ眼を擦りながら拓都が目を覚ます。
「たっ拓都ぉ ぎっギターがギターがっ!!」
廊下の右を指差しながら鈴原が絶叫ぎみに叫ぶ
「ギター?」
机の横を確認して我に返る拓都
ギターがなくなっている事に気づくと、机から跳ね起き
鈴原の指差す方向に走り出す。
「スクール水着 エロイね 鈴原ぁ」鈴原の脇をすり抜けるときに一言声をかける。
「くっ エロ拓都ぉぉぉぉぉぉぉー!!」拓都の後を高速で追いかけてくる鈴原
「ダァァァァァァァァァァァァァ」
小林しげるが後ろを振り向くと
拓都と鈴原が超高速で近づいてくる。
2人とも物凄い血相だっ
「ゲッ なんなんだっ」
「まてぅゴラァー(怒)!!」
廊下の突き当たりにある階段近くでスピードが落ちた小林しげるに
スライディングする拓都
『ザシュー ズダン!!』
足が引っかかって 小林しげるが派手に転ぶ
間髪いれずに
速度の乗ったまま しげるに蹴りを入れる鈴原
『ズドッゴ!!』鈍い音
「うおっ ゲフッ」白目を剥いて気負うしなう小林しげる
【バビョンッ ピン ガンガン ゴッゴッ バビョ〜ン】
「なんだっ 今の音?」
「あれっ拓都のギターは?」
「無い」
「ん? ん? ん?」
『誰だぁ上からギター落とすヤツはぁー死ぬところだろ!』
階段下から怒鳴り声
(げっあの声はサッカー部の顧問 鬼瓦っ)
鈴原と僕は鬼瓦と知りつつも、仕方なく下の階に下りていく。
『なんだ川崎か、推薦取り消しの腹いせか?』
「そっそんな事するわけないです。」
いろいろな意味を含めて、話が長くなりそうだったが
鈴原がテキトーに話をまとめて短時間で開放される。
「さすがだな 鈴原」
「そんな事ないわよっ先生の特性をしっていれば誰でも出来るわよ」
「そんなもんかよ」
「それよりもギター・・・壊れちゃってる・・・」
「ああっ派手にいっちゃってるね・・・・」
「わたし・・勢いよく蹴りこんじゃったから弾かれたのかも・・・」
「僕がスライディングしたからだよ」
「でも・・・・」
「仕方ないよ、それよりも鈴原のお陰で曲完成したんだ!!」
「私のお陰? どう言うことぉ?」
「どう言う事と言われると、どう言うことなのだろうか・・・?」
「言っておいて聞かれると解かんないなんて変なのぉ」
「ん〜そうだよぉなぁ・・・何言ってんだろ・・・・」
「変なのって言えばっ 昨日の【特ダネ特捜部隊】も変だったわよね★」
「ギク!!」
「何驚いた顔してんのよぉ★」
「いやっ別に・・・・・・・」
「拓都は番組を観たんじゃなくて、出演していたからかしら」
「 ! 」
「図星だったりしてね 王族チューコッタくん(笑)」
「なっななななっ」
「学校帰りながらジックリお話 聞きましょうか 拓都殿」
「ナハハハハッ何言ってるのかなっ鈴原藍くん」
「拓都が嘘つくと鼻の穴開くのよね〜」
「なぬっ!」急いで鼻を両手で隠す拓都
「わっかりやす〜いっ 鼻が開くなんて嘘よっ(笑)」
「ひっかけたな鈴原っ(汗)」
「嘘は良くないぞぉ拓都くん」
「うっく・・・(汗)」
下校しながら昨晩の事を鈴原に話すハメになってしまった。
星野さんと病院で友達になった話や昨晩TVで放映されていない裏話など
素直に話す。
僕の話を聞きながら、時折みせる鈴原の笑顔に
いままで味わったことの無い気持ちになっている自分に驚いていた。
(なに鈴原にドキドキしてんだよ・・・・。)
西に傾いた太陽のせいなのか、今日の鈴原の顔は妙に眩しい。
空を見上げると
綺麗な夕焼けに染まり始めている。
何時の間にか
僕の心も夕焼け色に染まり始めていた。