アイドルの価値16
【ドッキリ★ の巻】
スタジオの扉を開けると
そこには宇宙センターの発射台が再現されたセット
「こっこれって・・・」僕は慎也さんの顔を見る。
「先週の木スペ【矢追純一のUFO特集】で使ったセットだヨォ〜ん♪」
慎也さんが言った通り、木曜スペシャルで放送されたスタジオセット
種子島宇宙センターの発射台をモチーフにしたものだった。
「慎也さん、どうしてセットが まだ残ってるってわかったんですか?」
「今週ゴールデンでやるドキメンタリー【スペースコロニーの全て】にセットを流用するのがわかってルンバ」
回りを見渡すと、セットの周りには新しいセットのパーツが準備されている。
僕が関心して各パーツのセットを確認していると
慎也さんは、イソイソとセットの配置を作り変えていく。
「マ〜マ(婦長)カメラのアングルを見るから、そこに立ってチョ」
「このパーツの位置はココでいいですか?」正徳も率先して手伝いはじめる。
(星野さんは何処に・・・・)僕はスタジオを見渡すと
入り口脇のデレクターチアに疲れた表情で座っていた。
「大丈夫ですか?」僕が近寄り声をかけると星野さんの表情が笑顔に変わる
先ほどまで体調が悪かったなんて思えないほど、本当に素敵な笑顔だ。
「大丈夫よ川崎くん、凄く楽しいわ★」
「楽しいって星野さん? 全国ネットの番組で誘拐犯扱いされているんですよ」
「ふふふっ だからイイんじゃない? 全国の視聴者にドッキリ仕掛けている様なものなのよぉ 傑作だと思わない?」
「でも、もしも ばれたら・・・」
「【でも】も【もしも】も考えちゃ駄目、川崎君らしくないわね〜成功することを考えなくっちゃ★」
「でも 星野さん・・・」
「ほらっ また、【でも】 って言った(笑)」
【ガチャ】Cスタジオの扉が開く
ビックリして振り向くと、長谷川さんがドトールの袋を抱えて入って来た。
その後ろから、もう一人 奇抜な衣装を着た女性も入室。
「ごめん ごめん 中々捕まらなくって、こちらメーキャップのガモウさん」
長谷川さんが入ってくるなり紹介されたのは綺麗な女性
ただ、オムツの様な変な衣装をまとっている。
「初めまして、ガモウです宜しくね♪」そう発せられた声は低音のゴツイ声
(えっガモウさんて、もしかして男?!)
その答えを聞く前に、無理やり慎也さん・正徳・そして僕が椅子に座らされる
どうやら有無を言わせず、メーキャップをするらしい。
「こちらのガモウさんはスティーブンスピルバーグも唸らせたSFXメーキャップの第一人者です。安心して顔を預けるように」
長谷川さんがニヤニヤしながら説明
星野さんも婦長さんも笑いを我慢してるしているのが判るほど肩が震えている
(ハッキリ笑ってもらった方が僕としてはスッキリするのだが・・・)
「顔のイメージは何がイイかしらぁ」ガモウさんが慎也さんに聞く
「一応、星野姫が火星に帰る設定なんでタコちゅ〜でオネゲーしやっす(@0@)/」
「うふっ、業界用語で言うとチューコッタね♪」そう言い終るとメイク道具を広げ作業開始
「3人を50分で仕上げるんだから、ジッとしてなくちゃだわ♪」
そうガモウさんが言うと、両手別々の作業を器用に開始
僕らのメイク中には長谷川さんと星野さん、そして婦長さんが打ち合わせ
耳から入ってくる会話を聞くと
中継車の運転手を藤原紀子さんにする様に、チャーター機の梨木に連絡を入れるらしい。
事前に携帯メールを使い、藤原さんには星野さんと打ち合わせは完了済みだ。
藤原さんがロケット発射台に入った瞬間に、こちらのスタジオのカメラに切り替える作戦
・・・成功するのだろうか?
カメラがスタジオに切り替わった後
放送関連の作業を長谷川さんが受け持つ事に
藤原さんの役を婦長さんがすることに決定した。
「左手に持ったドトールの袋が映る様に、この角度で・・・」
カメラの撮り方を長谷川さんからレクチャー
そんな事をやっているうちにタコ顔の宇宙人 チューコッタのメーキャップが完了
銀色の宇宙服らしき衣装を星野さんと、特殊メイクをした僕らも着用し 準備万端
全員で中継カメラの切り替わった後の最終段取りを打ち合わせする。
何時の間にか、約束の2時間後が迫っていた。
運転手を藤原さんにする様に、機内に連絡を入れる長谷川さん。
そして、スタジオのモニターを使い 放送中の種子島宇宙センターの様子を確認
長谷川さんが怪訝そうな表情になる。
最終段取りで
種子島にいる慎也さんの親友 ワカピー(若林さん)が宇宙船に見立てた花火を最後に上げる予定があったからだ。
事故防止の為、上空のヘリを撤去する必要があった。
モニターに映る凄い数のヘリを見て、長谷川さんは再度梨木の携帯に連絡を入れる。
慎也さんは
隣のスタジオにある大きなUFOのセットをCスタジオに持込
チューコッタのメーキャップのまま最後の作業をすすめる
不気味だ(笑)
僕と正徳は、放送中に踊りを入れるから何か考えろと言われ模索中
「UFOってことでピンクレディーのUFOでいいんじゃねぇ」と正徳
「ピンクレディーって踊りわかんのかよぉ」
「ユーフォーって言って右手を頭から出せばいいんだろう?」
「それじゃ鼠先輩のポッ だろっ」
「ヤッパ駄目か?!」
「つーか、パクリって直ぐわかんのはNGでしょ」
「じゃどーすんだよ」
『紀ちゃん(藤原紀子)がもう直ぐ発射台に到着するぞぉ!!』
長谷川さんが大きい声で叫ぶ
「みんなっこっちよっ★」星野さんがUFOのセット前で手を上げる。
僕と正徳、そして慎也さんが素早く星野さんの前へ集合
「ヤッベー踊りどーする?」と僕
「ピンクレディーでいいんじゃねぇ」と正徳
「星野姫を応援って事で、応援団をパラパラ風にやってクレパス」と慎也さん
「えっ? 応援団っ?」と僕と正徳
「中継が切り替わったら、マ〜マ(婦長)の所に突撃朝ごはんでちゅ♪」と会話にならない返答の慎也さん
『中継ぇ切り替わるぞぉ!!』操作ルームから長谷川さんの声
すると星野さんの気合の号令
「さあっ日本の試聴者全員にドッキリするわよ★」
婦長さんの構えた中継カメラのランプが赤から青に切り替わった。
この後は、TVで放映された通りの内容
僕と正徳の歌と踊りのタドタドしさを抜かせば
ほぼ完璧な演技だったと思う。
慎也さんのリクエスト、応援団の踊りをパラパラ風にやるって事
これには完璧に答えられなかったけど
何とか高校の応援団でやっている感じで踊れたので僕らは満足している。
特殊メイクのお陰で、僕らの学校の生徒も絶対気がつかない筈だ。
そして大きなハプニングも無く
最後の難関
スタジオのカメラから宇宙センター藤原さんのカメラに
中継を戻す仕事
長谷川さんが難なくこなし無事完了となった。
『無事終了ぉ〜 お疲れ様でした!!』長谷川さんが右手を上げて完了の合図
すると みんな 安堵の表情
「やったね★」星野さんが両手でブイサイン★
「さすが愛だ、あそこで涙を流せるなんてなっ 昔やったドラマを思い出すよ」
と笑顔の長谷川さん
「しかし それ そのメイクっ 傑作ね 王族チューコッタ3人衆 フフフッ」
星野さんも笑顔だ
「マ〜マのカメラワークも絶妙ベイベー」チューコッタの格好で親指を立てる慎也さん
「ね〜セッカクなんで皆で写真撮りません?」僕が言うと皆 即答で承諾(笑)
ゴットシン愛用のデジタル一眼レフカメラが、まともな撮影に使われることとなった。
宇宙服の星野さん
王族チューコッタ3人衆
オムツ風の奇抜な衣装のガモウさん
ナース服の婦長さん
そしてスーツ姿の長谷川さん
【カシャッ!!】
異様な取り合わせの7人が写る記念写真がカメラのフレームにおさめられた。
写真を撮った後は、跡片付け(証拠隠滅)の為に長谷川さんはスタジオに残った。
星野さんは、ガモウさんに血のりを塗られ軽く特殊メーク(けが人バージョン)
メイク中に失礼ですが、随分凄い服ですね」僕がガモウさんに聞いてみる。
「オムツですか?」続いて、正徳が言ってはいけない単語を口にした(汗)
「あらっ パリコレで今年の最先端なのよっコレ!! オートクチュールで120万だったかしら?」
軽く回答され僕らの口は空いたままだ。(120万でオムツかよぉ・・・・・・)
星野さんのメイクが終了すると、そのままストレッチャーに乗せられる。
「笑ってないで、痛がってる顔をするのよぉ」
ガモウさんが言うが、手鏡で自分の顔を見た星野さんはケラケラと笑ったまま。
僕らは再度、看護師の衣装を身につけ(もちろん特殊メイクは落とした後)
堂々と正面玄関から外に出ることに成功した。
救急車のサイレンを派手に鳴らし、ムジテレビを後にする。
サイレンの音がお台場のビル街に反射して
沢山の人が笑っている様に僕には聞こえていた。
なんたって、日本の試聴者全員にドッキリを成功させたのだから
そんな風に聞こえても不思議ではない。
もちろん、車中の僕らも笑いっぱなし
ホントに無邪気だった。
無邪気すぎて、些細な事なんか気がつくことなんかできなかった。
星野さんが、どれだけ無理して笑顔を作っていたのかなんて・・・・・・。