アイドルの価値10
【要求は? の巻】
梨木の動作が一瞬止まる
「星野愛を誘拐? 誘拐ってどう言うことだっ!!お前は誰だ何ものだっ!!」
『おとなしく要求をのまなければ、命の保障はないぞぉ・・・・・。』
「要求? ホントに星野愛を誘拐したのかね?」
「信じなくても別にイイんだよぉ、星野愛がどうなってもイイのなら・・・」
「うぅ〜んっ それはぁ〜困るな・・・どうすれば星野くんを帰してくれるんだ」
「・・・・・。」
(ヤバッ要求まで考えてなかったぞぉ・・・・)
「要求はなんなんだ!!」TVカメラを意識した迫真の演技? の梨木
「よっ要求は・・・・」
「要求は?!」
「よっ要求は・・・次の電話で詳しく話す」
【ピッ】僕は通話を切った。
「くっ切りやがったぁ」
梨木が長谷川の携帯電話を凝視しながら言葉を吐く
「愛を誘拐ってぇ ホントにそう言ったんですか?」
長谷川が驚いた顔で聞き返すと、小声で梨木は聞き返す。
〔長谷川くんの仕組んだ企画じゃないのかね・・・〕
〔いやっ私は別に何も知らないですよ・・・〕
そう長谷川修が言い終わると梨木はカメラに向き直り、しんみりと喋りだした。
「犯人の要求は次にかかってくる電話で話すそうです。」
「愛を誘拐って、どう言うことよぉ」困惑した顔の藤原紀子
その隣で心配そうに様子を伺う坂本あけみ
「みんな落ち着け、相手は通話時間を短時間で済ますような知能犯だ。下手な動きはできんぞぉ」
そう梨木が言うとTVクルーに一旦CMに行く様に指示
TVカメラのランプが赤に替わりCMに切り替わる。
すると、そのタイミングで藤原紀子が
「何言ってんのよっ、早く警察に連絡しなさいよ!!」と興奮気味に梨木に食って掛かる。
「それは出来ないな藤原ちゃん、そんな事したら番組は即中止になってしまう」
「あんたは愛の命より、番組の方が大事だって言うのぉ?!」完全にキレタ藤原紀子が大声でかえす。
「まって紀ちゃん、今 警察に連絡するのは得策とは言えないぞぉ」
長谷川が顎を擦りながら冷静に答える。
「どう言うことですか?」坂本あけみが静かな面持ちで聞き返す。
「犯人は生放送中に私たちにコンタクトしてきているんだよ」
「全国放送をしていることを知っていて連絡してきたってこと?」
「そっ つまり全国の視聴者にも、このやりとりを知ってほしいって思っている可能性が高いんだ」
そこまで 長谷川が喋ると今度は梨木が喋りだす。
「何か意図があってのコンタクトってことだろう、下手な動きをして犯人を刺激することになると 場合によっては放送中に星野くんの命が本当に危なくなる。」
そこまで言ってスタッフの1人に何やら耳打ちをし出す。
長谷川は顎を擦りながらフト考える
(愛の携帯電話って川崎君が持ってたんだよなぁ・・・誘拐の犯人は川崎君・・・なのか?)
『間もなくCMからカメラ戻ります』タイムキーパーが慌ててコールする。
スッポンの梨木は、マイクを握り直しカメラの前に立ちニヤリとする。
(くくっ 面白くなってきやがったぜ!! 俺の人生最大のスクープネタだ、本当に星野愛ってアイドルには価値がある・・・。)
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病室で僕は唖然としていた。
もちろん、婦長さんも正徳も同じ状態。
「どーすんのよ拓都、テレビの梨木やマネージャーさんの表情から 冗談ではすまされないぞぉ」
「どうしよう・・・・」テーブルの上に携帯電話を置き、僕は力なく椅子に座り込む
「でも、これで星野さんは現場に行かなくて済んだようね」婦長さんが大人なコメント
「だけど、また電話をして要求を連絡しなきゃないんだろ、何を要求するんだよ拓都」
「別に考えてないよぉ そんなのぉ」
「そうね〜本当の誘拐犯じゃないんだし、どうしたらいいかしら・・・」
そういい残し考え込む様にして婦長さんが病室から出て行く。
僕と正徳は、何も考えられず生放送中のテレビを見つめるだけだ。
テレビの中では、星野さんの突撃取材をする予定だった話から
現状までの経緯を、スッポンの梨木が大げさに手振りを交え解説して行く。
話の合間に長谷川さんにコメントを求めたり、歌手の藤原さんに星野さんとの秘話を話させたりと視聴者が引き込まれる話術
僕自身、その番組を観て楽しんでしまっている。
でも、その番組の中心にいるのが星野さんを誘拐した犯人がいるのだ。
つまり、僕たちだ!!
(ガーン)
その現実に我に返り、冷や汗が背中を流れるのがわかる。
テレビ画面の中では、ネタが尽きないとばかりに梨木が喋りっぱなし
「このこの長谷川マネージャーの携帯電話に犯人から連絡がかかってきたのです!!」
長谷川さんの携帯電話をテレビ画面に突き出して、アップで見せると
「犯人の要求は まだ来てありません。要求は、また連絡して来ると言ってましたが星野愛さんの安否が心配です・・・」
そう言って目を閉じ神妙な面持ちをする。梨木が喋るのをやめた為、バーの店内は静まりかえった。
暫くその表情のままでいると突然目を開き「安否だけでも確認いたしましょう」
梨木は、長谷川さんの携帯電話にある、着信リダイヤルボタンをカメラの前でプッシュした。
その瞬間、僕と正徳は思わずテーブルの上の携帯電話に目を向ける。
するとテーブルの上で携帯電話がバイブレーションでブルブルと踊りだし
長谷川さんの携帯電話からの着信だとばかりに、札幌一番の着メロが鳴り出した。