アイドルの価値3
【芸能リポーターの巻】
港区にある如月英治のマンション前には
TVクルーがひしめき合っている。
最近、芸能ネタに乏しかった為か
各社必死の構え
長期戦も考慮に入れて、簡単なテントも設営する始末だ。
「どうも可笑しいな・・・」
「可笑しいって何がデスか? 梨木さん」
ベテランリポーターの梨木とリポーター研修中の大柳が
マンション玄関前に陣取っている。
「新米には解からないだろうけどぉ 何か臭うんだなぁ・・・」
「臭うって そんな臭いますか、さっき食べたケンタッキー〜」
「バカッ その臭いじゃないよっ んっ 待てよっ」
「どうかしました?」
「ピザの宅配って、先ほど来たよなぁ」
「はぁ〜来ましたね〜ストロベリーコーンが 2人で」
「2人? 2人でピザの配達来るか? 普通・・・」
「そう言えば、帰る時の人って身長が高くなってたかも?!」
「判ってたんなら、それを早く言えっ!! 如月英治の今日のスケジュールを教えろ!!」
「スケジュールって、この事件でキャンセルでしょ? 梨木さん」
「いいからっ 早く教えろ!!」
「東京駅 八重洲口で月9ドラマ【ナニスヤ☆デカ】の撮影でしたね」
「よしっ 今すぐ車に乗れっ!!」
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【星野愛が居る個室病室】
「テレビにでていた如月英治のニュース、ここの看護師さんらしいんだよ」
「えっ 無事なのその人は? 」
「無事らしいんだけど、その看護師さんの容態はナースステーションの看護師は全員知らない様なんだ。」
「て事は、川崎君が誰かから聞いたってことぉ?」
「そっ そうなると多分、一番情報が早く入るのは如月英治のマネージャー山ちゃんってとこかな」
「えっ 川崎君がその情報を聞いたって事・・・」
「となると、さっき出て行った川崎君は如月くんに会いに行ったってことが濃厚な線かな!?」
「冴えてるわね★ 長谷川っ!!」
「どうする? 愛」
「もち現場に急行でしょ★」
「了解」
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『キキッ』
14時丁度に美術館前に拓都を乗せたバイクが停止
「着いたよ拓都っ」ヘルメットを取って後部座席の拓都に正徳が告げる。
「ありがとう正徳、ホント助かった。」
「しかし何で八重洲の美術館なん?」
「如月英治と待ち合わせ・・・・・」
「きっ如月英治ぃ〜?! お前と有名芸能人が待ち合わせってかっ?! 何冗談いってんだよ、だいたいさぁ〜あんな事件中に会えるわけ無いだろ〜」
そう言って正徳は酒屋の仕入れがあるとかで、早々帰ってしまう。
帰りはJRになりそうだ。
美術館の入り口前に大きな柱が数本
その影から如月英治が登場した。
(ホンモノの如月英治だ)
「よく逃げなかったなぁ!!」初めに発言したのは僕だった。
「もっと年がいってると思ったけど、随分と若い子だったんだなぁ」
そう言って如月英治がニヤケタ顔で握手を求め、手を拓都の前に差し出す。
「バカにするなぁ!!」拓都は差し出された手を跳ね除け如月英治の胸倉を掴むと
如月は、無抵抗だぜとばかりに両手を上にあげる。
「な・・なにをした・・」
「自己紹介も無しで、もう本題かい? 坊や」
「うるさいっ子供扱いするぅなぁ!!」
「これは失礼 坊や」
「くっ」
「おっとぉ そんな怖い顔しなさんな 名前を知らないから仕方ないないだろ 坊や」
「坊や坊や言うんじゃねーよぉ 僕は川崎拓都だ」
「そぉっ 拓都君か。 私はご存知 如月英治 ヨロシク☆」
「お前の名前を聞きたくて、ここに来たんじゃねーぞぉ」
「知ってるよ 裕子の事 藤川裕子のことだろう?!」
「そうだっ さっさとぉ話せ!!」
「つーかっ オレは裕子に何もしてねーぜっ 悪いけどぉ」
「何もしてないワケないだろぉ!! だったら裕子さんが、どうしてあんな事しなきゃいけないんだ!!」
「悪いけどオレは本当に何もしてないんだぜ、彼女がオレを何度も何度も誘ってきたから仕方なく付き合ってやったけどなっ・・・」
「おまえの言い訳だろっ!!」
「そうかなぁ〜1度でイイいから食事がしたいって言ってきたのは彼女なんだぜ」
「うそだっ!!」
「嘘なもんか、食事をした後は1度でイイから抱いてほしいって彼女が言ったんだよ」
「うそだっ!うそだっ!!」
「だからオレは、彼女の願いをかなえてあげただけ 感謝される側だと思わないかぁ」
「デタラメ言うなっ!!」
「結構イイ女だったし、あっちもイイ具合だったんで彼女が満足するまで何度も抱いてやったよぉ」
「ゆっ裕子さんは、そんな人じゃないっ!!」
「くくっウブな坊ちゃんだね〜 イイ男やイイ女を抱きたいと、みんな思っていることだろ? 違うか? 拓都君だって、そう思っているだろう?」
「僕は、そんな事・・そんな事を思って・・ない・・・」
「だから、オレのマンションであんなマネされるとホント迷惑なんだよね」
「お前は、デタラメを並べてるだけだ!!」
「勝手にオレに近づいてきて、あんなことして 彼女は狂ってるね頭オカシイよ」
「裕子さんを侮辱するなぁーーー!!!」
【バギッ!!】
「いってぇぇーーーー!!」
怒りに任せて、僕は如月英治の顔を力一杯殴ってしまった。
【パシャ!! パシャ!!】その時、フラッシュが横から焚かれる。
横を見るとビデオカメラを回している男とカメラを持った男が近づいてきた。
「いやー恐縮ですっ恐縮です!!」
そう言って近づいて来た男の右手にはマイクが握られ
左手には赤色の名刺
特ダネ取材を山の様にスクープしている通称スッポンの梨木リポーター
一瞬見ただけで、僕でも芸能リポーターとわかる風貌だ。
「恐縮ですが〜お二人はどんな関係ですかぁ〜」
中年太りの体に紺色のスーツ姿、いやらしい笑みを浮かべながらマイクを差し出される。
「くっ スッポンの 梨木っ」
殴られた頬を押さえて如月英治がイソイソと美術館の中に消える。
僕は、スッポンの梨木ともう一人の男に囲まれ質問攻めに遭うことに・・・
「VTRは回っているんで、あんまり騒がんほうが利口だよ」
梨木は同行させている新人にビデオカメラの撮る角度など指定しながら
着々と取材の準備を進めていく。
「あっ この取材が終わったら取材料も出るから安心して」
そう言って背中をポンポンと叩かれる。(安心ってなんだよ・・・)
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【美術館の影に止めてあるワンボックスカーの中】
「まずいわね〜川崎君 梨木に捕まっちゃった・・・」
「如月英治を殴った瞬間もVTRに収められた様だし マズイなぁ」
「何とかならない長谷川っ」
「んーーーーっ」こめかみを押さえて唸る長谷川修
「いいわっ 私の独占取材と引き換えで揉み消しなんてどう?」
「スッポンの梨木に独占取材は正気の沙汰ではないぞぉ」
「仕方ないでしょ 私の大事な川崎くんを梨木の餌食にしたくないもん☆」
「・・・たく・・わかったよっ愛」
そう言って車から降りると、身軽な足取りで梨木と拓都の前に長谷川が向かう。
「お久しぶりです梨木さん」
長谷川の突然の登場にさすがの梨木も言葉を失ったようだ。
「これはこれは長谷川マネージャー」梨木から笑みが消える
「この状況でこのタイミングの登場ってことは訳有りってことですかな、長谷川君」
「お察しの通りで・・・・」
「色男のゴタゴタを追っかけていたら、えらい大物ネタが喰らいついてきましたなぁ」
「その話は場所を替えて」
長谷川さんは梨木さんと助手らしき人をつれて、近くの喫茶店に入っていく。
スッポンの梨木リポーターの登場だけでも気が動転しているのに
長谷川さんまで現れて、一言も言葉を発する事が出来なかった。
僕が、その場に立ち尽くしていると突然ケイタイが鳴った。
着メロは札幌一番のテーマ
「はい・・カワサキです・・」
「川崎君っ後ろっ見て」電話の相手は星野さんだった。
後ろを振り向くとワンボックスカーの窓を開けて
星野さんが手を振っている。
言われるまま車に向かうと、星野さんの優しい笑顔が待っていた。
「一人で看護師さんの仇を討ちに行くなんて凄いわね、川崎くん」
「僕は、ただ・・ただ・・悔しくて・・」
「いいのよっ 英治は殴られて当然なんだから」
星野さんの言葉を聞くたびに、僕の瞳から涙が止め処なく溢れだしてくる。
「本当は、殴るつもりなんて無かったんだ・・・」
「わかってるわ・・・」
止まらない涙のおかげで、それ以上喋ることが出来なくなってしまう
僕は、何時の間にか星野さんに優しく抱きしめられていた。
「川崎君っ 英治も悪気があってやったんじゃ無いって事も覚えておいてほしいのぉ」
「・・・・」
「彼は自分のやっていることが悪い事だと本気で思ってないのよ」
「・・・・」
「天然のスケベたらしってとこかしらね・・・・」
「・・・・」
「でも、殴られた時の英治の驚いた顔っ笑っちゃった。 私もスッキリしたわ★」
「・・ぐぉぐっ・・・ぐごぉ〜」
「あれっイビキ?! 川崎君もしかして寝てるぅ〜 ふふっ可愛い (^0^)/」
その後
僕は長谷川さんが車に戻ってきたことも知らずに、病院に到着するまで熟睡してしまった。