フェロモンの香り1〜8
汗と涙と笑にあふれた、疾走感に満ち溢れた青春物語です!!
気軽にぞうぞ★
【Pheromone,1 キスの巻】
僕はノートパソコンの電源を入れる。
消灯されて真っ暗闇の部屋に
パソコンの画面の明かりが眩しく光だす。
味気ない部屋にカラフルな光源があたり
別な世界に来たようだ。
ベットの下に隠しておいたDVDをとりだすとトレイにセット
夕方、悪友の正徳から受け取ったDVDだ。
正徳の話によるとカナリの上物らしい
静まり返った小さな部屋に
DVDの回転音とパソコンへの読み込み音がカタカタと響く
何故か、その音が滑稽に聞こえて笑えてしまう。
作品がメディアプレイヤーで再生されると
ヘッドホンからは、あり得ないストーリーで進行される物語が
淫らな会話とともに展開されていく。
刺激の少ない
退屈なこの小さな部屋にいる僕には
十分すぎるほど刺激的。
我慢しきれなくなった僕は、ジャージを少し下ろし
後ろにあるテッシュを取ろうと振り返る。
「おわぁ!」
僕は、慌ててノートパソコンの画面を畳む
後ろに人が立っていたからだ。
「あら、ごめんなさい 夢中だったみたいなんで声かけそびれちゃった。」
後ろにいたのは、夜勤勤務の看護婦
裕子さん。
整形外科病棟で一番の美人だ
「ノックぐらいして入ってきてよぉ!!」
恥ずかしさを隠すように大声で怒鳴りベットの中にすべりこむ
「もちろんノックはしたわよぉ 拓都くん」
「・・・・。」
自分がしていたことを棚に上げ
裕子さんを怒鳴ってしまった。
見られてはいけないものを見られた思いと
恥ずかしさで舞い上がっている。
顔が真っ赤に火照っているのが、手で触らなくても感じるほどだ。
「ごめんなさい 拓都くん 傷ついちゃった わ よね」
「・・・・。」
「返事が出来ないぐらい傷つけちゃったぁみたい」
そんな言葉を悲しそうな声で裕子さんが言うと
ベットの中に裕子さんの両手が滑り込んでくる。
そして、その両手が僕の頬に・・・・・
ヒヤッとする手の感触と消毒液の香り
僕の熱くなった頬と裕子さんの冷たい手が、ゆっくりと同じ温度に成っていく
僕の気持ちも、ゆっくりと落ち着きを取り戻していく。
不思議な感覚
その時、どうしてなのか解らないけどぉ
裕子さんの気持ちと僕の気持ちが同じに成っていく気がした。
ゆっくり、布団を裕子さんがめくる
「ホンモノ 経験してみる? 拓都くん」
「ほっほんものって・・・・・・」
僕の真上にある裕子さんの顔は
とても綺麗で色っぽくって、真剣だったけど
僕は
気の利いた言葉も経験も持ち合わせていない。
「ぼっ僕っ 経験ないし、上手に出来るかわからないし
突然で心の準備が出来てないって言うかっ 日を改めてと言うか・・・」
そこまで言うと、僕の唇が裕子さんの唇に塞がれてしまう。
(もしかしてっ、キスされてる?)
ほんの数秒なのに
何時間にも感じるキス
この病院に来てから、ずっと憧れてた看護婦 裕子さん
今、その憧れの人とキスをしているのだ。
裕子さんの髪が僕の頬にあたり
やさしい花の香り
柔らかくマシュマロのような唇から
裕子さんの体温が伝わってくる。
まじかにある裕子さんの顔
その長いまつげがゆっくり開くと
唇と唇がゆっくりと離れていく
裕子さんは、前髪を少し直して
「おやすみなさい」とだけ言って病室をでていく
何故か瞳には、少し涙が潤んでいる様に見えた。
静まり返った部屋に取り残された僕は
キスの余韻で心臓の鼓動を早めたままだ。
病室の窓を少し開けると、初夏の香りと共に
夜風がするりと忍び込んでくる。
僕はこの時、裕子さんがしたキスの意味を
考えることすら出来なかった。
【Pheromone,2 幼馴染の巻】
翌日
朝一番の検温が終わると、決まってあいつがやって来る。
【ガガーバタンッ!!】
騒々しく病室の扉が開く
「おっはよぉーサン♪」
「病院に囚われの身の青少年は、清く正しく勉強に励んだのかしら」
「あさっぱらから うっせーなぁ 鈴原ぁ」
入ってきたのは、幼馴染の 鈴原 藍
運動しか出来ない僕と違って、成績優秀、スポーツ万能、容姿端麗と
根本的にすべてのデキが違っている。
「うるさい とは随分失礼ねっ せっかく朝の挨拶に来てあげたのにさぁ」
「扉ぐらい静かに開けろよぉ 女の子なんだからよぉ」
「ハーイッ カワサキ タクト先生 気をつけまーす!!」
「僕は先生じゃないし・・・・」
鈴原藍はベットサイドにあるノートをペラペラとめくり始めると
「あ゛っ 昨日の宿題 全然やってないじゃん」そう言って拓都に詰め寄ってきた
「けっ検査とか色々あってさぁ、やる暇なかったつーかぁ」
ポリポリと拓都が頭をかいて答える。
「いくら沢山検査あったって、ノート1ページぐらい目通せるでしょーよぉ」
「いやっそのぉ」
「いやそのぉじゃないわよぉ 一緒に卒業出来なかったらどーするのぉ もぉ」
真顔で言う鈴原は、結構迫力がある。
僕は迫力負けしてベットの上で後ずさり
「あっれ〜」そう言うと鈴原は枕の下から素早く何かを抜き取った。
「ジャジャーーーーン 何か変なのみーーつけたぁ♪」
「なっなにすんだよぉ〜」
鈴原が高だかしく掲げ持っているのは、昨晩の悪友正徳のDVD
「かえせよぉ!!」
「あれれれ〜そんなにムキになっちゃってぇ」
「私の推測によると、このDVDにはエッチなものが入っているとみたわ!」
「なななっに変な想像してんだよぉ」
「こんなのバッカ見てるから、勉強に身がはいらないのよぉねー」
「だから違うっつーのぉ」
「駄目デスっ、これは没収致します★」
そこに配膳係りのおばさんがやって来る。
「はいっ朝ごはんですよ」
「おはよう★おばさん」
「登校前のデートかいっ お熱いね〜」
「えへっ」鈴原が照れ笑いした後、僕の方を向き直って
「午後に担任の山形先生っお見舞いに来るって言ってたわよぉ そいじゃーね★」
と一言残してバタバタと病室を出て行く。
(何が えへっ だよ デートじゃねーんだから否定しろってんのぉ)
相変わらず騒々しい鈴原が帰り
相変わらず不味い病院食を食べながら
担任の山形先生が来ることを思いユウツになる。
鈴原にDVDを取られてしまったのも気がかりだが
先生が来るほうが、テンションが下がってしまうからだ。
何故かって?
僕が事故って入院した経緯を学校で知っているのは山形先生だけなのだ。
【Pheromone,3 ガッキーニの巻】
3ヶ月前のことだ
近所にあるマクドナルドに【新垣結衣】似の可愛い子がいると聞きつけ
早速、正徳とマックに向かう。
もちろん、仮病をつかって部活をパスしての計画だ。
僕らの所属しているサッカー部は
県大会でも決勝まで残るサッカー名門校
だから部活顧問の先生も半端じゃなく怖い。
それでも見に行く価値があると踏んでの行動
男と言う生き物は、本当にどうかしてる
ガッキーニ(僕らが彼女に勝手につけたあだ名)のいる
カウンターに並び、早速注文
「メガマックバーガーとコーヒー2セットでお願いします」
「すいませーん、メガマックバーガーの販売は終了しております。」
「えっそうなんですか?、じゃ ビックマックに変更します
それとぉスマイル メガマックスでお願いします!!」
「承知致しました、ビックマックとコーヒー ツーセット」
「それから、スマイル メガマックス ツーはいります クスッ」
うおおおぉぉぉぉっ チョーーーーーーカワユス ガッキーニ♪
正徳と僕はボーゼンとガッキーニに見とれていると
早速、ハンバーガーとコーヒーがカウンターに運ばれてくる。
「ハイ お待ちどうさまでしたっ ビックマックとコーヒー ツーセットですね」
「それと、スマイル メガマックス でーーーーす ★(^o^)★」
どぇぇぇー ガッキーニ スマイル メガマックス サイコォォォー!!
「たったったっ沢山スマイル頂きましたので、少々お返しさせていただきます♪」
【微笑み返し メガマァァーーークスッ ★(^0^)★】
正徳と僕はそう言って、2人揃って満面の笑みを返した。
ガッキーニを含めたカウンターの女の子たちは大爆笑
すると
「今日、サッカー部 休みだったかなぁ〜」
そんな声が、僕たちの後ろから聞こえてきた。
僕らの前では、ガッキーニが涙を出して笑っている。
ギガントカワユス状態のガッキーニから
目を離したくはなかったが
恐る恐る振り向くことに。
すると
そこには、担任の山形先生がいるではないか
「サッカー顧問の鬼瓦先生に知れたら大変だゾォお前ら」
『げげっ ヤマガタせんせぇいぃ』
「げげっ って何ハモッテルんだぁ」
「なっなんかお腹痛くなってきたぁ」と僕が言うと
「おっ俺も おお腹が・・・・・」と正徳
「カウンター前での漫才してたと思えば、今度は仮病か?」
「そう言うことで、先に帰りまーす」
「鬼瓦には黙っててやるから、明日はちゃんと部活に出ろよぉ!!」
「ハーーーーイ♪」
ガッキーニと仲良くなりたかったが
僕と正徳は
イソイソとマクドナルドの店内から外に出る。
そのマクドナルドの店先で
僕は黒塗りのベンツに自転車ごと跳ねられると言う
最悪のシチュエーションのオマケつき
後ろで衝突の瞬間を見せられた正徳の証言によると
20mは吹っ飛んだらしい
着地点が畑だったのが幸いして、大腿骨の骨折だけ
頭部等その他には怪我らしい怪我は見当たらなかった。
顧問の山形先生もマックの店内から
その瞬間を目撃していたらしく
あまりにも綺麗に飛んだんで、ピアノ線で吊っていたんだろっ
と言っていた事を後で、正徳の口から聞くことになった。
まっ そんな感じの運がイイのか悪いのか、ビミョーな出来事があり
僕的には現実ばなれしていて夢のようだったが
3ヶ月たった今
病院に まだ入院しているのは確かなようだ。
【Pheromone,4 リハビリの巻】
味気ない病院の食事をすませると
松葉杖を取り、リハビリ棟に向かう。
リハビリと言っても、
薬品の入った小さなジャグジー風呂に浸かり膝を曲げるだけの運動だ。
リハビリ棟にあるバイブラバス室でリハビリの受付を出すと
中から、ピンク色のジャージを着た女の子が出てくる。
「おはよう 川崎くん」
「おっ 吉田さん」
同じリハビリを受けている中学2年の吉田めぐる(よしだ めぐる)ちゃんだ。
「私の次は、誰も待ってないからスグ川崎くんのばんだよ」
「そっ でどう? 膝曲がるようになった?」
「うん だいぶイイ もしかしたら2、3日で退院できるかも だってぇ(^o^)」
「よかったねー吉田さん」
(無邪気な笑顔がカワイイッよ 吉田さん、このまま純粋無垢に育って欲しい)
そんなことを考えてしまう僕は、やはり欲求不満がタマっているのだろうか?
毎日サッカー尽くめで発散していたのに
小さな病室に閉じ込められた日々では、間違いなく不可抗力だ。
(まてよっ だったら、昨晩の裕子さんの挑発にのらなかったのは何でだろうか・・・???)
「はい 次の方」
リハビリ室の看護婦に促され、スゴスゴと入る。
ここのリハビリ用風呂は1台しかない。
誰かが入ってしまえば、その薬品風呂に入らざるおえない。
つまり、薬湯は使いまわしなのだ
だから
脂ぎったオヤジやオバサンの後に入ることになったら
ギガント級に最悪。
だけど、吉田さんの後なら喜んでは入れてしまう僕は
正に不謹慎。
やはり僕は
欲求不満がタマリ過ぎて変態化しているのかもしれない
下着を脱いで、その薬品の浴槽に静かに浸かると
白衣にハゲ頭の先生がタイミングよくやってくる
黒縁の眼鏡のレンズも厚く
見方によっては加藤茶の酔ぱらいキャラにも見えてしまう。
「おはようさんです 川崎君」
そう言って、浴槽の脇にあるスイッチを入れると
浴槽の薬湯がブクブクと音を立てて泡立ち始める。
「はいっ 手術した方の足を曲げて伸ばして〜」
毎日繰り返し行うリハビリ運動をしながら
ふと考える。
この先生って
吉田さんもこんな風にリハビリさせてんだよなぁ
て ことは 吉田さんの裸を見たり、足を触ったりしてるのかぁ?
もちろん、しなきゃリハビリできないか・・・・。
んー いかん いかん
どうしても不謹慎な方に想像が行ってしまう
「川崎君」
「あっ はっ はい?!」
「随分膝も曲がる様になってきましたので」
「なってきましたので、なっなんでしょうか?」
「後 10日位ですかなっ」
「10日くらいって、退院出来るんですかっ!?」
「このまま順調に行けばですが」
「やっやったぁーーー!!」
退院の話を先生から頂いて、テンションを上げつつ
リハビリ棟から整形外科の病棟に戻る。
【Pheromone,5 アコースティクギター1 の巻】
僕のいる病室は個室
黒塗りベンツのオッサンが払ってくれているらしいが
どうせ保険か何かで支払っている筈だから同情はしない。
お陰でプライベートは守られるが
毎日が退屈。
楽しかったのは最初の1週間だけだった。
読みたかったマンガや映画も全部制覇してしまったし
DSの携帯ゲームも僕の性格では1日もたなかった。
ちまちました物はスグに飽きるのだ。
見かねた父が、ギターを持ってきてくれた
古びたアコースティクギター
中学1年の時
父のマネごとをして弾きはじめたのだが
高校入学と同時にやめてしまった。
ん〜やめた と言うのは正しくないかなっ
サッカーの練習で手が回らなくなったというのが正解
退屈な入院生活には練習時間は山ほどある
最近は自分でもさまになってきたと思うほどイイ感じ
お陰で退屈だった毎日がマシになった。
しかし、しかしだ
夜までは弾くことは出来ないわけであり
いくら個室といっても防音設備はないのである。
もっぱら夕食後は
鈴原の持ってくる授業の写したノートや宿題で
時間を潰す
これでも高校3年生なのであり
勉強は真面目にしなくちゃいけないのである。
あくまでも それは理想 だったりするのだが・・・
消灯してからは正徳の持ってくるDVD
これが気になって、勉強が
【理想だったり】になってしまう。
とまぁこんな充実?! した毎日を送っていたのだが
一昨日
ギターの弦が切れてしまい
午前中の時間も持て余しているのが現状だ。
だったら宿題出きるだろって思っちゃうけど
だからこそ何にもしたく無くなる事
みなさんなら、解るでしょ・・・解らないか・・・ハハハッ(汗)
リハビリから戻ると
あっという間にお昼の時間
ここんところ
ワイドショーを見ながらマズイ昼飯を食べるのが日課になってしまっている。
変態化の他にもオバサン化も進行している様だ。
今日のワイドショーの話題は、
●温暖化が影響か?イルカの大量死体がぁ東京湾に!!
●グラビアアイドルとマネージャーの失踪は本当か?!
の2本
司会者のテンポよい解説と証言フィルムを使い
結構見てて飽きない作り
暇つぶしには最適の番組なのである。
温暖化の影響で東京湾以外にもイルカや鯨の死体があがっている話は
海面温度の上昇やイルカの習性などを大学教授のデータを使って解かりやすく
まとめられている。
ん〜明日からは変態化とオバサン化から脱皮して
エコロジー化せねばなるまい
次のグラビアアイドルとマネージャーの失踪の話は
深夜放送でブレイクしている【星野愛】さんが
レギラー番組をすっぽかして、連絡が取れていないと言う話
マネージャーも連絡が取れないということで
駆け落ち説や妊娠説・海外で整形手術説などなど
あることないことコメンテーターの妄想で盛り上がっている。
しかし、ホント スタイル抜群で綺麗な人
僕がマネージャーでも駆け落ちしたくなるな 絶対!!
でも駆け落ちする意味あるのかぁ
んっ?? 駆け落ちの意味って なんなんだっけぇ・・・・?
食事が終わるころになると
母さんが着替えなぞ持参して現れた。
何時になく暗い表情の母さん、その暗い表情の意味が
冒頭の発言で明らかになる。
「昨日の夜、山形先生から電話がきてね〜」
「えっ母さんに?」
「そっ それでね〜 大学のスポーツ推薦取り消しになったって」
「えっ あ そぉ・・」(それでかっ 山形先生が今日来るってんのは・・・)
「落ち込んでも仕方ないから、気持ち切り替えてね タクちゃん」
「だいたい予想はしてたよ だから毎日やってんじゃん 勉強ぉ」
「授業の写し、毎日持ってきてくれているのかい鈴原さんちの藍ちゃん」
「ああっ 毎日ケンカ売りにきている様なもんだけどなっ」
「そんな罰当たりなこと言うもんじゃないよ、退院したらチャンとお礼するんだよ」
「お礼なんて、あいつの毒舌に毎日付き合ってやってんだから逆にお礼をしてもらいたいくらいだよぉ」
「イテッ 何すんだよぉ 母さん」
お母さんに頭を殴られ、拓都が頭を抑えて言い返す。
「鈴原さんちは、お父さんの代わりにお母さんが朝から夜遅くまで働いているの
だから、家の掃除・洗濯・食事は全部藍ちゃんがやっているのよぉ」
「だから、何だってんだよ」
「バカだねこの子は、その他に自分の受験勉強とお前の相手をしてくれているんだよ」
「そっ そうなんだ・・・わかったよぉ・・・母さん」
そして程なくして、俺をはねた黒塗りベンツのオッサンがやって来る。
毎回、高価な手土産とお詫びに両親はお手上げだが
僕は全然許す気きなんてサラサラ無い。
アイツのせいで
大学の推薦入学も取り消され、普通の受験生の仲間入りなのだ。
だいたいこの男、どうみても普通じゃない
体格は大柄のプロレス体型
妙な日焼けに丸坊主頭は一般人には見えない人種
いったい何ものなんだってんだよぉ!!
「拓都君、ギター壊れたんだって?」そのオッサンが話しかけてくる。
「あっまぁ 壊れたって言っても、弦が切れただけです・・・」
「ちょうどオジサンの使ってないギターがあってなぁ〜」
そう言って渡されたギターは高価なギブソンのアコースティクギターだった。
「別にいらないです・・・親父のギター 直して使いますので・・・」
すると、ベンツのオッサンはそれっきり黙りこくってしまった。
だいたい、ちょうど使ってなかったギターに値札ついてるかってんのぉ(怒)
母さんがパートの時間だと言って先に帰ると
病室には、ベンツのオッサンと僕だけになり
喋る気ゼロの僕とオッサンの間には異様な雰囲気が漂いだす。
バツが悪くなったオッサンは
ギターを置き去りにしたまま帰ってしまった。
おいおいっ ちゃんと持って帰ってくれよぉ〜
【Pheromone,7 山形先生と青木看護士 の巻】
夕方
鈴原が言ってた通り、担任の山形先生がやってきた。
「やっぱり 暇そうだなっ拓都ぉ」
そんな第一声を言って紙袋からベットの上にぶちまけられた物は
大学受験必勝法やら合格一直線やらマル秘暗記術などなど、参考書やドリルの山だった。
「 ! 」
「まーそぉー嫌な顔をするなっ」
「・・・・・。」
「お母さんから聞いたと思うけど、まっ そう言うことだ」
「受験の出願は10月だがセンター試験は来年1月、半年以上ある。まだ何とかなるぞぉ」
「は〜・・・そのつもりですが・・・こんなに持ってこられるとテンションさがりますょ」
「マクドナルドでのパッワァーは、どうしたんだっ【スマイル メガマーーーックス!!】なんだろー相方の正徳が居ないと実力発揮できんのか?!」
「それとこれとは話が別って言うか・・・」
「そう言えば、正徳もスポーツ推薦取り消しになってしまってな〜」
「えっ なんでぇ?」
「お前が入院したら、あいつも部活に来なくなってしまったんだよ」
「どっどうして?」
「こっちが聞きたいよ、テッキリ拓都なら知っていると思ってたんだがなっ」
「アホかぁ・・・まさのり・・・・」
「今年のサッカー部は有望FW二人欠けて準々決勝もあやしいらしいぞぉ」
「まさかっ 僕と正徳ぬけたくらいであり得ないでしょ」
「部活顧問の鬼瓦は期待してたんだよ、お前ら2人を」
「へっ?!」
「まっ恋愛も遊びも悪いとは言わないが、一時の迷いで一生棒に振らないようになっ」
「わかってます・・・」
「まっ そう言うことだ。」
決まりゼリフの【まっ そう言うことだ】で締めくくり山形先生は帰っていった。
一息つく間もなく、夕方の検温の時間
小太りの看護師 青木さんがやって来て
体温計を僕に手渡しながら得意のお喋りが始まる
「リハビリ順調なんだってね〜このまま行けば退院もう直ぐよね 拓都くん」
「誰から聞いたんですか?!」
「あらっ青木の耳は地獄耳って言って、何でも聴こえてくるのよ ホホホホッ」
「普通 そー言うのは自分から言わないと思うんですがぁ・・・」
「普通じゃないから何でも聴こえてくるのぉ たぁくぅとぉくん♪」
「オエッ キモチワルイ喋り方」
「36度1分っ平熱ね、若いんだからもっと体温高くてもイイのょぉ エルネギッシュにね」
「・・・・・・・・(汗)」
「あっそうそう、婦人科病棟の人が拓都君のギター聴きたいそうよ」
「えっ ダメですよぉ今ギター無いから弾けないし、聞かせるレベルじゃないですから」
青木さんが、ベットの脇にあるオッサンが置いていったギターを横目で確認して
「オホホッ 明日のお昼なら大丈夫と伝えておきまするぅ〜」
「こっこのギターは、僕のじゃないんですよぉ!!」
聞こえない と言った素振りで病室から青木さんが出て行く
そして、扉から顔だけ覗かし
「結構、美人よ その人っ 私には負けるけどぉねっ ホホホホッ」
美人で青木さんには負けるって、どんな人だょぉ
美人って言ったら、ヤッパリ裕子さん
藤川裕子さんだょ!!
あーーーー昨日の晩の事を考えただけでドキドキする。
今日の夜勤も裕子さんだったよな
【Pheromone,8 星野 愛 の巻】
夕食前に登場する2人
鈴原も正徳も今日は珍しく顔を出さなかった。
誰も来ない、ギターも弾かない時間がゆっくりと流れる。
「あー超ヒマなんですけどぉ」
今さらながら2人の偉大さに気づく
あまりにもヒマで
ベンツのオッサンの置いていったギターを手に取っ手しまった。
僕は なんて節操がない男なんだ・・・・
「ふ〜ん 結構イイじゃん」
ネックの持った感じや腿に乗った収まりの良さに、思わず関心してしまう
左手でコードを押さえて、右手で弦を弾いてみる
【ボロロロン♪】
「いい音色・・・・」
ギターが奏でる綺麗な音の響きに戸惑ってしまう
今まで使っていた親父のギターとは、かけ離れた音色 (ギブソンってスゲー!!)
音色の余韻に浸っていると
「トントン入ってもイイかしら」と病室の外から声がする
「あっ ハイ どうぞぉ」
病室に入ってきたのは
白いリーボックのジャージと帽子を身に着けた女性
ジャージをスタイリッシュに着こなしているのか
何故か見とれてしまう。(カッコイイ☆)
「何でしょうか?」
僕の知らない人の訪問に戸惑いつつ問いかけてみる
「明日のお昼って、青木さんに聞いたんだけど 今日の今じゃ フライングだったかしら」
「ああっ 婦人科の・・・・」
「良かった 話がとおってるみたいね」
「青木さんにも話しましたけどぉ 今 ギターが無いんで弾けませんよ」
僕がそう言うと、その女性は僕のいるベットに腰を下ろし帽子を取る
「これは 何かしら ふふっ」左手でギターを軽く撫でられる
帽子を取ったその女性は
昼のワイドショーで話題のグラビアアイドル【星野 愛】そっくりだった。
「うわっ! でたぁ〜」
「なによぉ それっ オバケでも出てきた驚きようね」
「ほっ ほ ほしの・・さん・・ですよね?」僕はアタフタしながら声を絞り出す
「それは芸名、佐藤愛 これが本名よぉ」
「!!!」
「この病院では本名で呼んでね、病院の看護師さんには星野愛のそっくりさんでとおしているんだから」
そう笑顔で答える星野愛
この人はホント笑顔が似合う
間近にいる芸能人
それも超綺麗で話題の人にリアクションできずに固まってしまう。
「あっあっあー」僕の口から言葉にならない声
「そんな畏まらないで、私も同じ人間よぉ ふふっ」
「だっ大丈夫なんですか? お昼のワイドショーで探しているみたいな事いってましたよ」
「大丈夫じゃないかもねー でも、川崎君が黙っててくれれば大丈夫かもよぉ(^0^)」
「えーーーーーーーっ そうなんですかぁ」
「ふふっ 冗談よぉ」
「それより それ弾いてくれないかなぁ〜」
「このギターは僕のじゃないんですよ」
「ふ〜ん さっきの音色は そのギブソンくんからだと思ったわ」
「いや あの そっそれは・・・」
「まっイイわっ でも チョット忠告させてもらうけど」
「・・・・」
「川崎君がどお思っていようと、楽器は奏でる為にあるのよ」
「・・・・」
「もしそのギターが川崎君や他の人の考えで、一生弾くことがなくなったら」
「・・・・」
「何のために作られたのかって思わない? 可愛そうだと思わない?!」
「もし そうなったら、悲しいと思わない? 」
「・・・・」
「だって そのギブソンくんには、何の罪はないのよぉ」
星野さんがそう言い終わると
僕の脳裏に、さきほどのギターの音色が蘇って来る
(あの音色って・・・嬉しいって言ってたのかも・・・)
僕は無条件でそう感じていた。
「夕方に弾いてるヤツでイイですか」僕がポツリと言うと
星野さんは笑顔でコクリと頷く
病室の窓には、夕焼けの赤が妙に鮮やかに写りこんで幻想的な空間
そんな病室の中で、ギターの奏でる音が僕と星野さんを包み込んでいく
(このギター・・・なんてセツナイ音色を奏でるんだろう・・・)
弦を弾く微妙な強弱を忠実に
そして語るように響かせて・・・ギターが鳴いていた。
「いい曲ね・・川崎君が作ったの?」
「はいっ でも まだ未完成と言うか・・・完成した曲では無いんです」
「ふ〜ん・・・ありがとう、また聴きにきてもイイ?」
「あっ はい もちろん」
星野さんが病室を出て行く
現実離れした出来事に、気持ちの高揚が止まらない
窓を開けて外の空気を吸うと
外の風景は鮮やかな夕日の赤から黒い夜空にかわり、星が瞬きはじめていた。
落ち着きを取り戻し、ベットに戻ると星野さんの座ってい場所に
温もりが、まだ残っている
彼女が この部屋に居たことを主張しているかのように・・・・。
http://www.webstation.jp/syousetu/rank.cgi?mode=r_link&id=4195