人生で一番最悪だった日
これは私だ。
午前7:50、すし詰め状態の電車の中で、とてつもないいびきが鳴り響く。
その出元からは想像もつかない…なんとも情けない腑抜け顔を見せ爆睡する女子高生から、たくましい雄叫びのようないびきが鳴り響いている。
これは…私だ。
電車通学というのがこんなにも疲れるということさえ気付かず、ただ制服が可愛かったという理由だけで高校生になったのが間違いだった。
運良く座れたことに安堵しきったアホな私は、アホ丸出しで爆睡してしまったのだ。
情けない…、本当に情けない。
朝の通勤電車というのは小粋なもので、どうやらここにはオーディエンスがいるらしい。
目の前のサラリーマンたちがいびきに合いの手を打つかのように、くすくすと笑いあっている。
最悪だ…
だけれどもっと最悪なのは
隣にモデル顔負けのイケメン君が座っていたことだ…!
「ぐがあああああぁぁぁぁぁあああ~」
ピクリとも目を覚まさない私は、何に抗うことも出来ないままに、どんどん電車に揺すられていく。
起きろ私!
電車に揺られて私のこめかみが隣のイケメンの肩に乗る。
よし、そこだ。そこで目を覚ますんだ。
そこならまだ間に合う。
まだ恥ずかしかったで済むんだ私!
ガタンゴトンガタンゴトン!
カンカンカンカンーー
ああ来てしまう…
その先は…!
ふいに電車がガタンッと弾む。
そして私はイケメン君の肩から落ちる。
「四ツ谷~、四ツ谷~、お降りのお客様は足元をお気をつけください。」
「あのぉ…」
「んぁ?」
目を覚ました私の頭は
イケメン君の股間にダイブし、あろうことか墜落したその衝撃で、それまで垂らしに垂らした口の中の唾液をぶちまけてしまっていた…。
「ーーーーッ!!!!?」
イケメン君の股間と濃密な唾液の架け橋で繋がる私。
車内からくすくすくすと、笑い声が微かに聞こえる。
「スッスッスッ、すみませぇーーーんっっ!!!」
人生最悪の醜態をさらした私は、顔を鬼のように真っ赤に染め上げ、逃げるように電車を飛び出した。