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生活保護課長・森山直樹2  作者: 泉北亭南風
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16 山下さんが「サービス付き高齢者住宅」に転居する

 「課長。ちょっとご相談があります」


 広瀬さんがケースファイルを持って、私のところにやってきた。


 「山下千代子さん…覚えておられますか? 2009年に課長がケースワーカーをされていた時に保護を開始したケースです」


 「千代子さん。よく覚えてますよ。糖尿病起因の視覚障がいと聴力障がい両方がある単身女性ですよね。近所に娘さんが住んでいて…。もう80歳くらいになられますよね。千代子さん、どうかされたんですか?」


 「介護サービス利用と娘さんのサポートで頑張ってこられたんですが、視力低下がさらに進んで、ついに要介護5になりました。そこで、娘さんが『サービス付き高齢者住宅』に入所させたいということで、駅近くの『さわやかホーム』というところを見つけてこられたんですよ。そこへの転居を認めていいものかどうか、ご意見を伺いたいんです」


 「さわやかホーム」…町内の老舗不動産業者「さわやか不動産」が手がけた「サービス付き高齢者住宅」…略して「サ高住」である。開設からは3年ほど経っているようであるが、ウチの入所ケースはまだない。


 広瀬さんが娘さんからもらってきたパンフレットによれば、家賃も生活保護基準額内で、サービス利用料も生活保護費で何とか回る程度に設定されている。介護サービスは、隣接のデイサービスセンターと訪問介護の利用が可能である。提携の医院もあり、千代子さんに必要な医療的ケアも特段問題なさそうである。


 「広瀬さん。パンフレットを見る限りでは問題なさそうですね。でも百聞は一見にしかず…千代子さんが見学に行かれる時に同行してみはったらどうでしょう? 私も興味があるので、都合が合えば一緒に行かせてください。久しぶりに千代子さんにも会いたいし…」


 年も押し迫った12月21日、私と広瀬さんは、千代子さんの施設見学に同行した。


 「千代子さん。森山です。覚えてますか?」


 耳の遠い千代子さんに大声で呼びかけると…


 「あーっ! 森山さん! 生きとったんか! 私を放ったらかしてどっか行ってもうてからに!」


 「千代子さん、すんません。公務員には異動があるんですよ。また去年から南大阪町に戻ってきてますんで、よろしく頼んますわ!」


 視力は低下しているが、相変わらず元気である。こうして自分のことを覚えていてくれるとうれしいものである。娘さんも、私のことをよく覚えてくれていた。


 「さわやかホーム」…完全バリアフリーで、職員も快活な印象である。おそらく勤務環境が良いのだろう。広瀬さんは興味津々で、千代子さんそっちのけで職員に質問攻めをしている。


 結局、千代子さん自身と娘さんもホームを気に入り、年明けに入居することになった。そして営業担当と相談の結果、敷金礼金は全額免除で、利用料のみで入居できることになった。今後の生活保護受給の入所ケースも、同じ取扱いをしてくださるとのことである。


 役場への帰路、公用車の中で広瀬さんと話をした。


 「本来ならば、千代子さんのような人は特別養護老人ホームの入居が検討されるべきなんでしょうけど、絶対的な施設数が足りない。『サ高住』は今後どんどん増えていくんでしょうねぇ…」


 「広瀬さんのおっしゃる通りやと思います。でも、私はちょっと心配です。冷たい言い方をすれば、住居と介護サービスの『囲い込み』でしょ? 業者が儲かる構図がそこに出来ています。2000年の社会福祉基礎構造改革で、『措置』から『契約』へと福祉サービスの形態が変わり、民間の参入が進みました。結果、一部の地域では過当競争が生じて食い合いをして、儲けられないところはどんどん潰れてしまってます。実は『サ高住』も、経営主体がコロコロ変わってるところもあるんですよ。今は事実上野放しですが、私はある程度の規制は必要だと思うんですよね。そういう意味でも、少なくとも自分のところのケースが入る住宅は、我々の目でも確かめておく必要はあると思いますよ」


 「なるほど…。課長は『措置』の時代から福祉の仕事をされてますもんね。私はこれが当たり前だと思っていたので、課長のご意見は目からウロコです」


 「そうか…私もいつまでも若いと思ってたら…間違いなんですよね。広瀬さん、千代子さんのことよろしくお願いしますね。口は悪いけれど、すごく気持ちの温かい人ですから…。私の中では、『山下さん』やなくて、『千代子さん』なんですよ」


 「課長。おまかせください! 千代子さんも、課長のことは大好きなようですよ。以前課長のことをお話しした時、すごく恩を感じてると言っておられました!」


 「相思相愛…やね。いいのか悪いのか…」


 狭い車内は笑いに包まれた。

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