呪われし赤い髪
アンリ曰く、この場所からアンリの村までは半日も東に行けば着くとのことだ。驚かされた事といえば、身長や見た目だけでなく、教わったこともない剣術までもが体得されていること。一度、大蛇に襲われた際に体が勝手に反応して倒してしまったのが不思議な体験の始まりだった。
この間もアンリが山賊に襲われた際に悲鳴を聞いた瞬間に、頭の中で居場所・距離が特定出来てしまった。
これも全て、悪魔との契約なのだろうか。レインが考えている間にアンリが走り出す。
「この山頂から私の村が……」アンリは村の方角を見た瞬間、顔面蒼白になりながらその場にへたり込む。
レインは慌てて駆け寄ると、その場から見えたのは全て燃やされた後の村だった。
「そ、そんな……、ママ……、パパ……」
「大丈夫、きっと無事だから」レインはアンリを抱き締め、自分にも言い聞かせるようにそうでありたいと願った。
フラフラのアンリを抱えながら村に着く。アンリの家だったであろう場所でアンリは泣き出す。
アンリの涙が頬を伝い地面に落ちた瞬間に土が光りだした。
激しい光の中から見たこともない美しい女性が姿を現したのだ。
「アンリ、あなたの帰りを待っていました」
「だ、誰?」泣きじゃくるアンリは目を擦りながら女性の姿を何度も確認する。
「あなたが私を知らないのは当たり前です、私は天界に使える天使、この世界の救世主である、あなたが成人した時に始めて私の姿が見えるのです」
「私が救世主……、赤い髪なのに?」
「赤い髪は神の申し子の証、あなたは救世主なのです」
「い、意味分かんないよ!なら、なんで私は捕まったの?」
「少し話は長くなりますが、今から1000年前に青髪の悪魔と赤髪の神の申し子がおりました。青髪の悪魔は民を従えさせ国を大きくしていき、国に止まらず世界までを我が物にしようと考えたのです。しかし、神の申し子の結界により、悪魔は動きを制限されていたのです。そこで悪魔は赤髪は不吉な子とし、捕らえて殺そうとしました。しかし、神の申し子と命が繋がっていることを知った悪魔は、死ぬまで牢獄に閉じ込めることにしたのです。」
「そんな……父上も母上も悪魔だったなんて……、僕も悪魔なのか……」
「いえ、あなたも含め、あなたのお父さん、お母さんは、この事実は知りませんし、あなたからは悪魔のオーラが出ていません。きっと先祖が何らかの方法で封印させたのでしょう」
「でもなんで、私が赤髪として産まれて来たの?おかしいでしょ!」
「赤髪の子は亡くなるとまた新しい赤髪の子が選ばれ、産まれてきます。アンリ、あなたが神の申し子になったのは必然ではなく偶然なのです」 アンリは平常心を保とうとするも同様を隠せずにいる。
「ふざけないでよ!何が神様よ!パパやママだって辛い思いをして、私だって……」レインは怒りで拳を
握り締め震えているアンリの手をそっと握る。
「アンリ、僕だってこの状況を素直には受け止められない、けど、これは運命なんだと思う」
アンリの拳からは力が抜け、天使を見る。
「私達にどうしろっていうの?」
「成人した赤髪の子が行うことはただ1つ、悪魔を倒すことです。今、悪魔の力は弱まっています。現にあの時、悪魔はあなたの寿命が尽きる年月まで飛ばそうとしました。しかしあなたの力のほうが勝っていたので時空の歪みが生じて途中で魔力が尽きたのです」
アンリは黙って頷く。
「私がアンリに出来ることは、この魔法を託すことだけなのです」
天使はアンリの頭に手をかざし魔法を唱えた。アンリの頭が一瞬光り、すっとその光は消えた。
「い、今のは?」アンリは自分の頭を何度もさすってみる。
「時期に分かるでしょう、今は教えられませんが、あなた自身で気付いた時に初めて習得出来るのです。私の役目は終わりました、アンリ……天界はいつもあなたを見ています」天使は徐々に薄くなっていく。
「まって!ママとパパは?」
「大丈夫です……」
それだけを言い残し、天使は消えていった。焼け野原となった村に二人だけの静寂がより一層、孤独感を与えていた。