頭の上の何か
ソイツは突然やってきた。僕の日常に突然やってきたのだ。
「えー、では、転校生を紹介する」
「山田太郎です。趣味は読書です。よろしくお願いします」
逆に珍しい位の平凡な名前。
身長も高すぎず低すぎず、制服もきっちりと着こなしている。
顔もブサイクというわけではないが、イケメンともいえない中途半端な感じだ。
そして、高校生にありがちな平凡な趣味。
最初は平凡なやつがやってきたなと思った。
しかし、自己紹介を終えて転校生がぺこりと頭を下げた時、僕の目は転校生にくぎ付けになった。
どういうわけかその男の頭には......
正体不明の何かが生えていたのだ。
◇
「山田君ってどこから来たの?」
「群馬だよ」
「おお~、ずいぶん遠くから来たんだね」
昼休みになり、転校生の周りにはたくさんの人が集まっていた。たわいもないことで盛り上がっているようだ。一見すれば転校生がやってきた教室のありきたりな風景なのだろう。
しかし、僕には違和感が半端なかった。
なぜなら、転校生の頭に何かが生えているからだ。
群がる生徒の頭の上から、ぴょこんと何かが飛び出して映る。しかも、たまにくねくねと動いているのだ。これほど奇妙な光景が、はたして僕の人生の中で一度でもあっただろうか、いや、ない。そう断言することに一切の迷いはなかった。
転校生に群がる生徒達は、違和感を感じていないのだろうか。まるで普通の転校生と接するかのように親しげにしている。
あれなのか?
僕が知らないだけで、頭に何か生えてるのって普通なのか?
いや、そんなわけないよな。
僕の頭の中ではこんな自問自答が何度も繰り返えされていた。
転校生を中心にクラスの輪ができている中、僕は一人、教室の窓から外を眺めていた。
◇
放課後になった。
どういうわけかクラスメイト達はすぐさま教室を後にし、教室の中は僕と転校生の二人きりになった。
いつもは帰宅部の僕が一番に出ていくのに、珍しいこともあるもんである。しかし、へんてこな転校生と二人きりというのはなんとも不気味だな。そんなことを考えながら、僕もみんなに続いて速く帰ろうと帰り仕度を進めていた。
すると......
「ねぇ、君さ、もしかして、見えてる?」
突然、転校生の顔が僕の目の前に現れた。
「うわ!?」
僕は突然現れた転校生の顔にビビって鞄をぶちまけてしまった。
「酷いな。そんなに驚かなくてもいいじゃないか」
そう言って、転校生はぶちまけてしまった僕の鞄の中身を拾ってくれる。
僕も本当は何もなかったような顔して鞄の中身を拾いたかったが、しゃがんだ転校生の頭の何かに目がいってしまい、固まって動くことができなかった。
転校生の頭の何かはどういうわけか、少し赤みがかって膨張しているように見えた。
「はい。これで全部だよ」
「あ、ありがとう」
転校生は僕が落とした荷物を全部拾ってくれた。僕はそんな転校生に対して、ぎこちなくお礼を言うことしかできなかたった。
「それで、さっきの話の続きなんだけど――――」
「――――ごめん。今日は忙しいから帰るね!」
僕は何やら話し始めようとした転校生の話を遮って、教室から出ようとした。何か聞かれる前に速く出ようと、僕はいつにもまして早歩きで歩いた。
あと少しで教室から出ようというその時、突然教室の扉がもの凄い勢いで閉まった。
「な......これはどういうことだよ!」
僕は必死に扉を開けようとしたが、どういうわけか扉が開かない。
「まだ、話の途中なんだ。帰らないでくれよ」
転校生がそう言って、僕の方へとゆっくりと近づいてくる。
「う、うわ~。こないでくれ。何も見えてない。何も見えてないから」
僕は慌てて近づいてくる転校生から距離を取った。
机やいすをなぎ倒しながら、必死に逃げようとする。
「もうその反応がおかしいんだよね。おかしいなぁ。至って平凡な姿に見えるように調節したはずなのに」
転校生はよくわからないことを言いながらゆっくりと僕との距離を縮める。
「誰にも言わないから。許してください。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」
僕は何が何だかわからなかったが、転校生からものすごい恐怖を感じ、必死に謝った。
転校生が僕の目の前に立った。
転校生と見つめ合う。
「そんなに謝らなくても大丈夫だよ。個人的に調整するからさ」
転校生はそう言うと、僕の頭にそっと手を添えた。
殺される!僕は恐怖できゅっと目をつむった。しかし、僕が思ったような衝撃は全くやってこなかった。僕は恐る恐るそっと目を開けた。
「ひっ!ひいいいいいい!!!!!」
僕の目の前には転校生の姿はなく、そこには言葉では言い表せないくらいおぞましい何かの姿があった。
僕は恐怖でそのまま眠るように気絶してしまったのであった。
◇
パチリ。
僕は目を覚ました。
どうやら最後の授業で眠ってしまったようだ。窓の外を見ると、日は沈み辺りは暗くなり始めている。
「よく眠ってたみたいだね」
「う、うわ!?」
突然、僕の後ろから声がかかる。
僕は慌てて振り返った。
「なんだ。山田くんか。どうしたの?山田君も寝ちゃってたの?」
「ああ、そうなんだよ。君が起きるちょっと前に起きたんだけどさ。もう遅かったし、起こそうかどうか悩んでたんだよね」
「そうなんだ」
「自分で起きてくれてよかったよ。ははは」
山田君はそう言ってはははと笑った。
平凡で普通の転校生の、なんてことないあきりたりな笑顔だ。
でも、なぜだろう。
僕にはなんだかすごく不気味な笑顔に感じられた。