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第75話『初めての』


 レニーの変態な一面を目の当たりにし、エクトは「何やってんだこの変態」と声をかけてやった。


 そしたら『ひあっ!?』とか変な声を出してレニーが背筋をピンと伸ばして飛んだ。

 それはもう見事なほどの驚愕っぷりで、エクトは思わず吹きそうになる。


「エクト!? あ、や、こ、これは違うの! 違うのよ!」 


 ビュンと風切り音を響かせこちらに振り向いてきたレニーが顔を真っ赤にする。

 エクトのシャツを片手に首を振りながら否定するその姿は、哀れであったが面白くもあった。


「何が違うってんだ?」


 攻めるように歩を進め、レニーに詰め寄る。


「あの! せ、洗剤の量を考えてたの! それでどのくらい臭うのか嗅いでたのよ!」


 後ずさりながら必死に言い訳するレニー。


「はぁ? あんな何度も嗅ぐ必要あったのか?」


「あ、あったのよ! よく分かんなかったから!」


 ドンとレニーの背中が部屋の壁に当たった。

「あ」とレニーが血の気を引いたような声を漏らす。

 エクトはレニーの目前まで来て止まり、大きく溜め息を吐いた。


「やれやれだぜ。まさかお前がこんな変態だったとはな」


 言われたレニーはさらに頬をかぁっと赤くする。


「だだ、だから違うって! 誤解よ! 本当に違うってば!」


「うるせぇ!」


 ドンッ!


 エクトの片手がレニーの頬を過って壁に叩きつけられた。

 ひっ! と驚いたレニーが息を呑んで身体を硬直させる。


「わかったから、お前少し黙れ」


「‥‥‥っ!」


 言われて押し黙るレニーの顔は、エクトとの近すぎる顔の距離によって余計に赤くなった。


 それに構わずエクトはレニーを壁に押し付けたまま、レニーの身体の匂いを嗅ぎ始めた。


「エ、エクト‥‥‥!」


「じっとしてろ変態」


 またも強い口調でレニーを押し黙らせた。

 どの部位の匂いを嗅ごうとも、レニーからは石鹸の匂いだけが僅かに漂ってくる。

 朝からシャワーでも浴びたのか?

 何にせよムラッとくる良い香りだ。


「変態のくせに清潔感のある匂い出しやがって」


「へ、変態じゃ‥‥‥っ」


 レニーは涙目になりながらエクトを見つめてきた。

 ごめんなさい、もうやめて、と訴えているようで、今にも爆発しそうなほど顔が赤くなっている。

 おまけに身体も小刻みに震わせている。


 よほど恥ずかしさに耐えているようだ。

 それが妙に可愛いらしく見えて仕方ない。

 

「ん、悪くねぇな」


「え?」


 エクトは壁に追い詰めたレニーから身体を離した。


「良い匂いだよお前」


「‥‥‥っ!」


 レニーの目が今までにないくらい見開かれた。


「これでオレも変態だ。お相子だな」


 言ってエクトはレニーの頭を優しく撫でた。


「あ‥‥‥」


「今回はこれで許してやるよレニー」


 変態とは呼ばず名前を呼んで、エクトは背を向けた。


「それより今何時だ? そろそろ準備を‥‥‥」


 刹那、レニーがエクトの両肩に手を置いて、背に額をつけてくる感触が伝わってきた。


「レニー?」


「‥‥‥ごめん。本当はあんたの匂い、凄く良かったの。何度嗅いでも飽きなくて、凄く、落ちついて‥‥‥」


「なんだよ急に素直になって‥‥‥」


 エクトはレニーの方に再度振り返った。

 涙目のままのレニーがそこにいた。


 その顔に、エクトは不覚にもドキリとしてしまう。 


「嫌われるかと思った‥‥‥」


 震える声で絞り出すようにレニーが言った。

 エクトは苦笑する。


「あれくらいで嫌うわけねぇだろ」


 レニーの気持ちを知っているから、エクトはあえて安心させてやるようにしっかり見つめて言ってやった。


 レニーの青い瞳と視線が重なる。

 見つめ合う形になり、なんとも言えない空気が生まれてきた。


「エクト‥‥‥あたし‥‥‥」


 呟き、そして身を寄せて、レニーはエクトの胸にそっと手を置いてきた。


 胸に手を置かれて一瞬戸惑ったエクトは、寄ってきたレニーの両肩を優しく掴んだ。


 胸に手を置かれてから、レニーが何を求めているのか、エクトは気づいていた。


 それはきっと自身も望んでいたことだと理解して。


 柄にもなく、エクトの心臓は高鳴っている。

 レニーが、とても可愛く、愛しく見えて、身体の芯から沸き立つ熱が、思考を浮かせる。



「レニー‥‥‥」

「エクト‥‥‥」


 互いの名を呟き、互いの唇をそっと重ねた。

 

 眼を閉じて、互いの感触を感じ合う。

 熱に浮かされるままに。


 エクトとレニーは、しばらく唇を離さなかった。

 

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