第72話『まともな思想』
「お見苦しいところをお見せしましたエクトさん」
「いや、構わねぇよ」
マールの個室内にある小さな椅子に座ってエクトは軽く返事をした。
「またなんで喧嘩してたんだ?」
ベッドに座るマールに聞いた。
「いえ、レイリーンさんに今日こそレヴァンさんかエクトさんを倒せって言われまして。それは無理だって言ってただけですよ」
確かに無理だな。
しかし、少し前にパンチ一発でノックアウトされたのを見ていただろうに、それでもマールを戦わせようとするレイリーンって女は随分とひでぇ女だな。
まぁ、さっきの出ていく間際の言葉を聞く限り、かなり一途な性格でもあるようだ。
唯一の可愛げだろう。
「お前も苦労してるな。レイリーンの御両親に弱すぎるとか罵られて、レイリーンにもボコられて、同情するぜ」
「‥‥‥全部、聞いたんですか」
「あぁ。レニーにだけどな」
「そうですか。レイリーンさんの御両親は、ボクのことを弱すぎると言っていますが、あれは建前なんですよ」
「建前?」
オウム返しに聞くとマールは頷く。
「本当はボクのこの容姿が気に入らないんです」
この容姿。
どうみても女の子にしか見えないマールの容姿。
茶色い髪も、今は短く整えられているが、シャルのようにロングヘアーにしたらそれこそ女の子にしか見えなくなりそうだ。
そもそもなんでこんなに女みたいな体つきをしているのか。
中身が男だとわかってるから全然ドキドキしないが。
「この女みたいな容姿が、グレイス家の婿に相応しくないってのが本当の理由なんです」
‥‥‥やれやれ、なんていう肩透かしだ。
とんだ器の小さい家系らしいな。
「くだらねぇ。それだけかよ」
エクトは切って捨てるように言うと、マールが意外そうな顔でこちらを見てきた。
「レイリーンさんも、同じこと言ってました」
あのレイリーンが?
ふーん。
両親の割にはまともな女だったみたいだ。
「そりゃそうだろう。まさかそんな理由でオレとレヴァンを倒せとか無理難題な条件を突きつけられてたとはな。マジで同情するぜお前には」
「‥‥‥実はもう1つ、出された条件があるんです。それもこの上なく不可能な」
「なんだ?」
「今回のソルシエル・ウォー。『獅子王リベリオン』と『死神サイス』の部隊に勝つことです」
「‥‥‥は?」




