第71話『大切な幼馴染』続
「実はレイリーンさんとマールさんは幼馴染で、本当は凄く仲良かったそうなの」
レヴァンとシャルと同じだなと思った。
正直どうでもいい情報だが。
「ふーん‥‥‥で?」とエクトはパンの耳をかじる。
「うん。なんか本当は婚約してたらしくて」
‥‥‥最近の幼馴染ってのは結婚の約束をしてるのが当たり前なのだろうか?
「でもマールさんが弱すぎて、その婚約を破棄されてしまったらしいの」
「弱すぎて? なんだよそれ」
「レイリーンさんの家系でグレイス家っていうんだけど、なんでも強い戦士を世に送り出してきた一族らしくて、その婿養子にマールさんは相応しくないって、御両親にレイリーンさんとマールさんは別れさせられたそうなの」
「そんなもんマールが強くなりゃいいだけの話じゃねぇか」
「それがダメなのよ」
「なんで?」
「マールさんの心はもうとっくに折られてるみたいで」
「は? レイリーンの両親にか?」
聞くとレニーは首を振った。
「違う。レイリーンさん本人に心を折られたらしいのよ」
「ちょ、ちょっとまて、意味が分からん。なんでレイリーンがマールの心を折るんだよ」
「折りたくておったわけじゃないの。レイリーンさんもマールさんもお互いに好きだったから、御両親に納得させるためにそれはもう一緒に特訓に励んだらしいわ。でもレイリーンさんってあんな家柄の人間だから剣の腕が凄く立つの。魔女なのに並の戦士じゃ歯が立たないほどに」
「‥‥‥まさかレイリーンがマールをボコボコにし過ぎて、マールの心が折れたってんじゃ」
「正解!」とレニーが椅子から立ち上がってエクトを指差した。
なんてこった。
さすがにマールには同情する。
でもマールってリウプラングの『魔女契約者高等学校』ではNo.2の実力者だと聞いたが。
心が折れた状態でもNo.2にまでなれるなら、そもそも素質はあるんだろう。
レイリーンの御両親がやたら求めすぎなのか、あるいはリウプラングの学生どものレベルが低すぎるのか。
なんにせよ、婚約までするほど好きだった相手の御両親に弱すぎと言われ、しかも恋人と別れさせられ、あげくに強くなろうとしてもその恋人にまず歯が立たないとなれば、マールの心が折れるのも仕方ないような気がする。
男は戦士。
女は魔女。
この前提があるから男は女よりも強くて当たり前という風潮が世界に蔓延している。
男女差別とかそんなレベルの話ではなく、もはやこれは常識で、仕方のない共通認識なのだ。
オレだってレニーやシャルよりも弱かったら恥ずかしくて死にたくなる。
だけど、オレだったら絶対に‥‥‥
「だからエクトにマールさんを立ち直らせてほしいの。男同士ならきっとマールさんの気持ちとか理解してあげられるんじゃないかって思うし」
簡単に言いやがって、
立ち直らせるって言ったってどうすりゃいいんだよ。
ったく面倒くせぇ。
「そ、そんな露骨に嫌な顔しないでよエクト」
どうやら顔に感情が出てしまっていたようだ。
「だって面倒くせぇし。それにマールには同情するが、オレだったら心折る前に死にものぐるいで強くなろうと努力するけどな」
「まぁ、あんたならそうでしょうね。負けず嫌いだし」
「心のバネが弱かったんだろうな。マールは」
「だからそれを分からせるためにマールさんを説得してよエクト。女のあたしが言っても説得力ないんだから」
わざわざレニーが俺を頼った理由が良く分かった。
マジで本当に面倒くさいが、大事なパートナーの頼みとなれば邪険にはできない。
「‥‥‥わかったよ。マールはどこにいるんだ?」
パンを食べ終えたエクトは溜め息混じりに腰を上げた。




