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第67話『見たのは二つの影』

 リウプラングを代表する二人の魔女が不在。

 それはさすがに不味いとシャルとレニーは二人を探すことにした。


 訓練用コロシアムに集まってくれた女子生徒たちはロシェル姉さんとリエル姉さんに任せて走る。


「レニーはホテルの方を探してみて!」


「わかったわ!」


 レニーはホテルの方へと駆けていった。

 彼女の背中を尻目に、シャルは走りながら溜め息を吐く。


 何かしらの問題は起きるだろうと思っていたが、まさか初日からとは。

 

 幸先が不安になるのを感じながら、シャルは『ローズベル』の街中を駆け抜けた。



 ロミナさんの居場所は、あらかた想像はついていた。


 それは、母グラーティアが言っていた近くの休憩所でロイグさんを休ませているというセリフ。


 20キロマラソンのルートの途中にある休憩所はそう多くない。

 少なくともロイグさんは10キロ地点を越えていたから、その先にある休憩所と絞られてくる。

 

 ロミナさんはおそらく第4休憩所にいるはず‥‥‥。


「え‥‥‥っ!?」


 シャルは思わず足を止めた。


 レニーと別れてから少し走った先に、公園があった。

 その公園の中心に噴水がある。

 この『ローズベル』の特徴とも言える噴水だが、シャルが目にして驚いたのはそこじゃない。


 それは二人の男女の姿。

 今まさにシャルが探していたロミナと、その兄であるロイグの姿がそこにあった。


 シャルはその二人の行為に息を呑んでしまった。


 二人は噴水をバックに、抱き合い、互いの唇を重ねていたのだ。


 ウソ‥‥‥あの二人、本当に?


 自分で予想しておいて、驚愕してしまった。

 だってあの二人は、血の繋がった兄妹のはず。


 私は今、見てはいけないものを、見ている?


 なのに見入ってしまう。

 この禁断の行為に。


 ロミナとロイグはしばらくして唇を離した。

 とろりと、離した唇と唇から糸が引いていたのが見えた。


 す、凄い濃厚なキスしてたんだ!


 そう確信したら、シャルはつい生唾をゴクリと飲んでしまう。


「お兄ちゃん。お願いだからもう無理はしないで」


「ロミナ‥‥‥」


「見てて辛いよ私」


「‥‥‥そこにいるのは誰だ?」


 突然だった。

 ロイグさんの視線が、完全にこちらを見据えている。


 驚いてシャルは一瞬逃げようかと考えたが、時はすでに遅かった。


「あなたは‥‥‥っ!」

「レヴァンの魔女か!」


 二人に正体がバレてしまった。

 隠れもせずに堂々と見てしまっていたのだから仕方ないが。


 ロミナは秘密を知られてしまったように青ざめた顔になり、ロイグは敵を見るような眼でシャルを睨み付けてくる。


 ど、どうしよう、これ。

 レヴァン、どうしよう。


 いないのにレヴァンに助けを求めたくなる。


「あ、えと、その、ロミナさんが練習に来てなかったので、それで探しに‥‥‥」


 動揺を隠し切れずに身体を小刻みに振るわせながらシャルは言った。


 すると攻め入ってくるような迫力でロイグが前にやってきた。


「いつから見ていた?」


 恐ろしい形相で見下ろされながら問われた。

 怖かった。

 相手の鋭くなった眼光は、シャルを刺すように睨み付けている。


「い、いえ、あの、今さっき来たばかりで‥‥‥」


「嘘をつくな!」


 怒鳴られて、シャルは弾けるように身体をビクつかせた。

 はずみでヒィッと声が漏れてしまう。


「お兄ちゃんやめて! 怖がってる!」


 ロミナに制止されロイグは舌打ちする。

 そのまま彼はシャルから一歩引いた。 


 かわりにロミナがシャルの前に寄ってくる。


「ごめんね。大丈夫?」


「は、はい。あの‥‥‥」


「ん、歌とダンスの練習だったね。ごめんね忘れてた」


「は、はぁ」


「じゃお兄ちゃんはもうホテルに帰ってて。わたし行くから」


「‥‥‥わかった」


 どこか締まりの悪そうなロイグは踵を返してホテルの方へと歩いて行った。


 ロミナも訓練用コロシアムがある方向へ歩き出した。


 何事もなかったように、ただ淡々と。


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