第62話『グレイス家の魔女』
ロイグが通りすぎてからすぐにギュスタが通過した。
「ギュスタ! 無理はしないでね!」
「もちろんだ!」
ロシェルから紙カップを受け取ったギュスタが飲みながら走り去っていく。
次いで来たのはシグリーと、その少し後ろを走るマールだった。
「シグリー!」とリエルが紙カップを差し出す。
「ありがとう」とシグリーはそれを受け取った。
実に簡単なやりとりで終わらせた二人だが、なんだがこの二人はこれでいいのかもしれないとシャルは思った。
「マール! 受け取れ!」
「あ、はい!」
レイリーンに言われるがままマールは紙カップを受けとる。
「レヴァンやエクトどころかロイグにまで置いてかれてるぞマール! もっと速く走れんのか!」
「無理言わないでくださいよ!」
怒鳴るレイリーンにマールも怒ったように返した。
そのマールの怒声に驚いたのか、レイリーンはグッと声を詰まらせる。
「ダメじゃないですかレイリーンさん!」
見ていられなかったシャルは指摘する。
「もっと優しい言葉を掛けてあげてくださいよ。マールさんせっかく頑張ってるのに」
「頑張ることぐらい誰だって出来る」
「20キロ走るのって簡単じゃないんですよ? マールさんの気持ちを考えてあげてください。それにこれはレースじゃないんです。走りきるのが目的なんですから」
「‥‥‥うるさい! わかっている!」
一年のシャルに言われて腹が立つのかレイリーンは腕を組んでそっぽを向いた。
どうしてこんなにマールには厳しいのだろうか。
レイリーンがマールを嫌いじゃないのはわかっている。
嫌いだったならば、昨日メイド服を着こなしてあんな風に奉仕するはずがないからだ。
「あの、どうしてそんなにマールさんに厳しいんですか?」
「キサマには関係ない」
切り捨てるように言われて、さすがのシャルもムッとなった。
「マールさんのこと嫌いなんですか?」
あえて聞いてみた。
「そんなわけないだろう!」
この場にいる女子生徒たちにも響く大声でレイリーンは否定してきた。
あまりの大声にシャルもだが他の女子生徒たちも驚く。
女子生徒たちがレイリーンに視線を向ける。
注目の的になった事を自覚したレイリーンは赤くなり、また腕を組んでそっぽ向いた。
さすがに迂闊だったとシャルも反省して、レイリーンの隣まで身を運ぶ。
「あの、ごめんなさいレイリーンさん。軽はずみでした私‥‥‥」
小声で謝り、返事を待つ。
「あの‥‥‥」
「マールの事は嫌いじゃない」
「え?」
「あいつには強くなってほしいだけだ。我がグレイス家の婿に相応しい男となるために」
婿?
「え、婚約者なんですか?」
「違う」
「は、はぁ‥‥‥?」
なんだろう。
結局レイリーンとマールの関係がよくわからない。
「男らしく強くなってくれないと困るのだ。‥‥‥私は、あいつじゃないと嫌だ」
「え? どういうことですか?」
聞けどレイリーンはしばらく目を瞑ったまま答えなかった。
それから目を開けて。
「お前には関係ないことだ」
と一蹴された。
ロミナさんやレイリーンさん。
どちらも一癖ありそうな面が見えてきた。
これは思った以上にスマートにはいかないかもしれない。




