第54話『料理の指導者』
指定された5時になり、俺はシャルをつれて『ローズベル』にあるホテルへ入った。
広々としたホールに入れば、まず目についたのは天井にある巨大で黄金のシャンデリアだった。
次いで室内にも関わらず吹く噴水と流れる水路に目がいった。
「わぁ綺麗。凄いねレヴァン」
「すげぇな。金持ちが来るようなホテルじゃないかこれ?」
「だね。学生が泊まるようなホテルじゃないよ」
さすがリリオデール国王様が選んだホテルなだけある。
内装がどれも高級そうな雰囲気を見せている。
一見して高価だと分かるソファーがたくさん並んでいるからだ。
「おお、お前たち来たか」
迎えてくれたのはオープ先生と、あのいつでもメイド服の。
「数日ぶりですね。お二人様」
「アノンさん! どうしてここに?」
俺はおもわず聞いた。
「フレーネ王妃様の御命令でありますが、私なりにもリウプラングを取り戻して頂いた御恩を返そうと馳せ参じました。そちらのシャルさんが、何やら凄い大企画を考えてもいらっしゃるようでして」
ニコリとしながらも淡々と喋るのは相変わらずのアノンさん。
俺はシャルの方を見ると、当のシャルと目が合った。
シャルは笑った。
「フレーネ様に料理上手な人をお願いしたらアノンさんが来てくれたよ」
料理上手な人を?
なんでそんな人を呼ぶ必要があったんだ?
いったいこの幼馴染は何を考えているのだろうか?
するとオープが口を開いた。
「当然だ。アノンは『リオヴァ城』のメイドを束ねるメイド長だからな。料理の腕はそこらのコックに劣りはせんぞ?」
「お褒めに与り光栄です」
「え、アノンさんって『リオヴァ城』で働いてたんですか?」
シャルが聞くとアノンさんは「はい」と頷く。
「以前のパーティーでも腕を振るわせて頂きました」
思い出した。
ドレス姿のシャルと夜景を楽しんだあの日か。
たしか知らない人ばかりで落ち着かなくて、料理の味を楽しむ余裕があんまりなかったのを覚えている。
いや、リリオデール国王様に暴君タイラントの件で話があったから、そっちに気がいってしまっていたんだ。
「アノンさんなら私たちの料理の指導者として申し分なしですよ! どうかよろしくお願いします」
「もちろんですシャルさん。御期待に添えるよう全力を尽くしましょう」
※
ホテル内のホールで全生徒が集合するまでの間はやることがなく、俺とシャルは室内の水路を泳ぐ鯉を眺めていた。
「なぁシャル。お前はいったいどれだけ大掛かりな計画を立てているんだ?」
「んーとね。とりあえず魔女のみんなには料理を勉強してもらって、それからダンスと歌を練習して、それから‥‥‥」
「まてまて。料理の勉強させてどーすんだ?」
「男の子に徹底的に尽くす企画ですから。やっぱり女の子の手料理は男子も嬉しいんじゃないかと思って」
「それは、そうかもしれんけど。その、なんだ? 他の女子たちがちゃんとそれやってくれるのか?」
「一応、みんなには姉さんやレイリーンさん等が伝えてくれているはずだけど。正直、最初の数週間はキッツいと思う」
シャルが真剣な声音でそう言った。
みんなをまとめるのは難しい。
そんなことは分かり切っている顔だった。
「けど、私もそうだったんだけど、やっぱり頑張っている人を目の前で見ているとね、自然と感化されてその人を応援したくなるものなんだ。これはきっと男も女も同じだと思うの」
なるほど、経験則で言っているのか。
頑張っている人とは、きっと俺のことなんだろう。
昔、エクトと俺で毎日のように特訓をしていたら、いつからだったか、シャルが俺とエクトにご飯を作ってくれたり、飲み水を持ってきてくれたりし始めた。
その辺はかなり雑だった俺とエクトには、本当にありがたい支援だったのを覚えている。
「他の女子にも頑張ってもらうためには、まず男子達に頑張ってもらわなきゃね。そうすればきっとこの企画は全て上手くいくはずだから」
「俺達が頑張って、女子たちの心を動かすってわけか」
「そうだよ。これが『ブロークン・ハート』対策の第一歩だね」
「なるほどな。いやしかしシャル。お前最近なんか本当に凄いな」
「えへへ。レヴァンのためならこれくらいはね」
「‥‥‥ありがとうなシャル」
「うん。ご褒美期待してるからね」
「もちろんだ」
次回の更新は明日の16時過ぎです。




