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第51話『シェムゾ・ロンティア』続

「20キロの走り込み!?」


誰かが驚きの声を上げた。


それを機に他の生徒たちも焦りの雰囲気を見せ始めた。


「20キロとか、そんな距離走ったことねぇよ」

「無理があるだろ20キロは」

「人間の走る距離じゃねぇよ」


うーん。

人間の走る距離じゃないのか。


俺とエクトはほぼ毎日40キロは走ってるんだが。


「もちろん。付いてこれないヤツを見捨てるようなマネはしない。君たちは学生であって軍人ではないからな。できるようになるまで面倒を見てやる」


シェムゾが真顔で言った。

それは見捨てられるよりキツいような気がする。


他の生徒たちもシェムゾの言葉にゾッとして顔を青くしている。


「特訓は明日からだ。今日は国王様の用意した旅館で休むといい。『ローズベル』を見て回るのも自由だ」


「ただし食事の時間と風呂の時間などはしっかり守るように」


オープ先生がシェムゾの言葉に付け足すように言った。


「それじゃしばらく自由の時間だ。旅館には17時までに戻ってきなさい。以上!」


パンッと手を叩いて締め括ったオープ先生。

それを待っていたかのように他の生徒たちは『ローズベル』の街へと歩いて行った。


「お父さん久しぶり」


シャルがシェムゾの元まで来て声をかけた。

シャルは母であるグラーティアは嫌っていても、父であるシェムゾを嫌ってはいない。

現に父の日や誕生日などでは、シャルはシェムゾに必ずプレゼントを買っては贈っていたからだ。


「ああ、久しぶりだなシャル」


シャルを見てシェムゾは鋭い目付きを少し緩ませた。

やはり鬼神と呼ばれる団長様でも、自分の娘は気を許せる可愛さがあるのだろう。


ロシェルとリエルも近くまで来ていたが、シャルが久しぶりに父親と会話する姿を見て遠慮したように下がって行った。


「まさかレヴァンくんとパートナーになってこんなにも活躍する日がくるとはな。お父さんは予想できなかったよ」


「私もだよお父さん。レヴァンに召喚されたってだけで奇跡に感じるもん」


「そうだな奇跡だ。自分の娘が『奇跡の魔女』だったという事実も含めてそう思うよ。なぁグラーティア」


「ええ。本当に」


満面の笑みでグラーティアは頷いた。


「シャル。お母さんはな、お前が『奇跡の魔女』だと知ったときは泣いて喜んでたんだ。顔が真っ赤に腫れるほど」


「ええ!? そ、そうなのお母さん?」


「ちょ、あなた! 何言ってるのよ! 何言ってるのよ!!」


顔を真っ赤にしてグラーティアが怒る。

それを笑って流したシェムゾは俺の方を見てきた。


「久しぶりだなレヴァン」


「お久しぶりですシェムゾさん」


「お義父さんと呼んでいいんだぞ? どうせシャルと結婚するのだろう?」


なんで知ってるんだろう。

いや別に不思議ではないか。

今やかなりの人間に結婚のことは暴露しているし。


「いえ、それはまだ早いので‥‥‥」


思ったよりサバサバしているのがこの人のギャップなのだ。

厳格そうなのは顔だけである。

それでも実力はリリーザで間違いなく最強の人だ。


「シェムゾさん。お忙しいなか俺たちのために来てくださりありがとうございます!」


「お前とエクトくんのおかげでリリーザが巻き返し始めてるんだ。これくらい協力せんとな。だが正直に驚いたよ。お前があそこまで強くなっていたことはな。我流で大したものだ」


「ありがとうございます。でもグランヴェルトを倒すには、この程度ではまだまだ」


「そうだな。それが分かるなら見込みもある。お義父さんにまかせなさい。必ずお前をもっと強くしてやろう」


「ありがとうございますシェムゾさん!」


「お義父さんと呼んでくれないのか?」


「いや、だから早いですってば」


鬼神の異名を持つ正騎士団団長様は、なぜかやたらお義父さんと呼ばれたがっている。

理由はわからない。


「ところで」っとシェムゾが俺の肩に手を回し、互いに小声でも聞こえるほどの距離まで顔を近づけてきた。


「え、あの?」

「いつ産まれるのだ?」

「え?」

「とぼけるなよ。お前とシャルの子供だ。もうお腹にいるんだろう?」

「は、はいぃ!?」


いきなり何を言い出すんだこの人!


「お前はシャルとの結婚を急いでいると聞いたぞ。それでピンときたんだ。お前はシャルを妊娠させてしまったから結婚を急いでいるのだと」


「違いますよ! シャルは妊娠なんてしてません! まだ俺とシャルは何もしてませんよ!」


「嘘をつくなレヴァン。正直に言いなさい。お義父さん怒らないから」


「嘘なんてついてませんってば!」


仮にシャルを妊娠させていたら、さすがにシェムゾさんには謝りに行っているはずだ。俺は。


「自分で言うのもなんだが、俺の娘はみな可愛い。そんな娘と同じ屋根の下にいて手の1つも出さん男などこの世にいるはずがない」


「それは同感です。シャルが可愛すぎるから毎日が我慢ですよ。でも本当にまだ何もしてません」


「‥‥‥本当にシャルは妊娠していないのか?」


「本当です。なんなら病院に行って検査してもらっても構いませんよ?」


「そう、か‥‥‥」


あれ?

なんかシェムゾさんのテンションが見てわかるほど下がっているんだが?


「今年お爺ちゃんになれると思っていたのに‥‥‥孫が抱けると思っていたのに‥‥‥なんて事だ‥‥‥」


掠れてほとんど聞こえない声で、シェムゾは嘆いた。


なんだろう‥‥‥なんか、すいません。


俺は自分が悪いと思えず、とりあえず心の中で謝っておいた。







次回の更新は火曜です。

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