第46話『募った若き戦士と魔女たち』続
「その前にひとつ! このマール・ヒリアと私レイリーン・グレイスと手合わせ願おうか! 戦士レヴァン・イグゼス! 魔女シャル・ロンティア!」
30人が並ぶ学生たちの中で、一人の女性が声高らかに手を上げた。
この場にいる人間がその女性に視線を集中させる。
「あ、エクトあの人!」
「この間のやつじゃねーか」
知っている様子のレニーとエクト。
見れば背の高い女性だった。
深い海のような青い瞳は相手を射抜くような鋭さを持っている。
腰まで掛かる金色の長髪は先端部分を編み込みリボンで結んでいる。
なんというか凛とした気品を感じる女性だ。
妙に男っぽい逞しさも雰囲気に出ている。
「手合わせ? 今からか?」
俺は腕を組んで聞き返す。
するとレイリーンと名乗った女性は「当然だ」と当たり前のように返してきた。
「そこのロイグよりも、私のマールの方が優れていると証明するために、今ここでソルシエル・ウォーを申し込む!」
「またお前かレイリーン! 2年の分際で前に出るな!」
ロイグが怒鳴った。
しかしレイリーンは相手にせず、ふんと鼻息を吐いてそっぽ向くだけだった。
「む! マールきさま! どこに行く気だ!」
レイリーンが誰かに向かって声を張り上げる。
彼女が向いた顔の先には、やや小柄な‥‥‥少女?
「ひ、いや、あの、ボク、ちょっとトイレに‥‥‥」
「後にしろ。来い!」
「そ、そんな!」
レイリーンに引っ張られて連れ戻された少女は、なぜか男子の学生服を着ている。
俺は目を疑った。
目の前にいるのは少女じゃないのか?
容姿を見れば、顔は女の子そのもの。
茶色の髪も短く整えられていておとなしめだ。
体つきも細身で女性らしいラインがある。
確かにレイリーンやシャルと比べたら、いろいろボリューム不足な身体をしているが。
「あ、その、どうもマール・ヒリアと申します。えっと、リウプラングの『魔女契約者高等学校』の2年生です」
俺の前に無理矢理立たされたマールが丁寧に御辞儀した。
レイリーンとは対称的に腰が低い。
しかも2年生とは。
「ど、どうもです先輩。自分はレヴァン・イグゼスです。エメラルドフェルの『魔女契約者高等学校』の一年生です」
「そ、そんな先輩だなんて。レヴァンさんの御活躍はかねがねお聞きしております。リウプラングを取り戻していただき、ありがとうございます」
「俺のことは呼び捨てで結構ですよマール先輩。今日からよろしくお願いします」
俺はマールに握手を求めた。
マールは慌ててこれに応じてくれた。
握った手は、意外にも男の手だった。
武器を握ったことのある戦士の手だ。
やはり彼は見た目こそ少女のようだが、立派な男性である。
「馴れ合っている場合か! マール! レヴァンと勝負しろ! 勝ってお前はトップに立つのだ!」
「ちょ、レイリーンさん! 前にエクトさんに負けたばっかりじゃないか! ボクの実力じゃレヴァンさんには勝てないよ」
「何を情けないことを。お前はやればできる男だ。私はそれを知っている。自分を信じて前に進め! さぁ!」
「いや、だからボクは‥‥‥」
「レヴァンの前に! この俺ロイグ・カーニーを忘れるなよレイリーン? このリウプラングのNo.1である俺をな!」
「ふん。レヴァンとエクトさえ倒せばお前などどうでもよいのだ。マールがいまNo.2の座に甘んじているのは他ならぬマールが本気になっていないだけ。マールはその気になればお前など相手にもならんさ」
「なんだとキサマ! たかが『魔法第二階層詞』を詠める程度でいい気になるなよ!」
「なんだ僻みか? お前の妹ロミナは3年のくせに未だに詠めないらしいが?」
「キサマ! 妹を侮辱する気か!」
「うるさいやめろ!」
俺はロイグとレイリーンに腹の底から怒鳴り上げた。
その俺の剣幕にロイグはともかくレイリーンはビクリとして押し黙った。
当のロイグは相手をやり込めた得意気な顔を浮かべるので
「お前もだぞロイグ」
と釘を刺した。
「今日から俺達は『獅子王リベリオン』と『死神サイス』を倒すために一緒に苦楽を共にする仲間だ。学校でNo.1だのNo.2だのお山の大将なんかにこだわっている場合じゃない。勝負なら受けてやる。ただしこのソルシエル・ウォーに俺達が勝てたらだ!」
目的を思い出させるためにと俺は言い切った。
するとレイリーンとロイグはグッと言葉を詰まらせてバツが悪そうに顔を背けた。
※
集まってくれたリウプラングの学生30人はリリオデール国王様がとってくれていたホテルへと案内された。
そしてお昼を迎え、俺はシャルたちと机をくっ付けて昼食を食べる。
俺はシャルからお弁当を受け取る。
当たり前のようにレニーもエクトにお弁当を手渡した。
「やれやれだな」
至福の時だというのにエクトは嘆息を吐いた。
何を嘆いているのかは検討がついているので俺も「ああ」と短く答えた。
「今回はマジで連携が必要なのに。さっそく仲の悪い二人を見つけちまったな」
「そうだな。あのマール先輩はともかく、ロイグとレイリーンだ。よりによってNo.1の戦士とNo.2の魔女ときた。リウプラングのメンバーで上位の彼らが仲悪いのは困るな」
上に立つ者たちが険悪だと、下につく者たちのストレスは結構なものだろう。
戦いに支障をきたしそうで恐い。
「大丈夫だよ」
そう言い切ったのはシャルだった。
「あのレイリーンって人も、ロイグって人も、ギュスタさんと同じ雰囲気があるよ」
「あの二人が?」
俺が聞くとシャルは頷いた。
パクりとタコさんウィンナーを食べてから再度口を開く。
「レイリーンさんは『私のマール』とか言ってマール先輩を凄く評価してた。ロイグさんは妹さんをバカにされてから凄く怒ってた。ただの目立ちたがり屋さんかと思ってたけど、どうも違うみたいだし」
「言われてみると、確かにな」
俺はどこか納得できるシャルの言葉に、少し安堵を覚えていた。
ギュスタ先輩のように、自分の相棒のために必死になれる奴らなら、俺は好きになれるかもしれないからだ。
今回の強化合宿で彼らのそういう面を見られれば良いが。
次回は更新は明日です。