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第40話『眠れる獅子の逆鱗』

「もうじき彼らが帰ってくる頃だと思いますリリオデール国王様」


『リオヴァ城』にある王の間でグラーティアが言った。

既に夕陽が沈む時刻。

玉座に座るリリオデールは「うむ」と答えた。


「いやしかし、まさかあの暴君タイラントを倒してしまうとは本当に驚いたな」


張り詰めていた息を吐くかのようにリリオデールは言う。

正直な話、レヴァンくん達には悪いが、負けたときのことを想定して市民になんと伝えようか考えていた。

市民にまた絶望感を与えてしまう不安がどうしてもあったから。


「はい。かなり危なかったですが勝ちは勝ちです。正直ホッしました」


グラーティアも安堵した様子で胸を撫で下ろした。


「シャルさんも凄いわねグラーティア。レニーさんに続いてあの子まで覚醒してしまうなんて。しかもたったの8日間で。さすがあなたの娘さんですわ」


「お褒めの御言葉ありがとうございますフレーネ様。私も驚きました。‥‥‥同時に嬉しいです。あの二人はきっと、とんでもない魔女になる力を秘めていると思います」


シャルくんとレニーくんか。

確かにあの二人は凄い。

魔女の覚醒とはとにかく時間のかかるものなのだが、あの二人だけは異例である。


王の身でありながら神など信じていなかったが、神はリリーザを見捨ててはいなかったと言える。


敗北寸前だった我が国に、これほどまでに優秀な戦士と魔女を与えてくださったのだから。


「そうですわグラーティア。あなたの得意な『同時詠唱』をシャルさんとレニーさんに伝授してはどうでしょう?」


「そのつもりですフレーネ様。しかしまだ早いと思います。あの二人はまだ『魔法第二階層詞セカンドソール』を詠めるようになっただけ。せめて『魔法第四階層詞フォースソール』まで詠めるようにならないと教えようがありませんし」


「ふむ、そうだな。ところであのシャルくんが使っていた蒼い炎の魔法はいったいなんだグラーティアよ」


あの暴君にとどめを刺した魔法。

シャルくんの声で『エクスプロード・ゼロ』と呼ばれていたのはテレビ中継で聴いたのでわかっている。


リリオデールの問いにグラーティアは首を振った。


「それなのですが、炎属性の魔法にはあのような蒼い炎を発するものは存在しません」


「なんと!?」

「やはり‥‥‥」


驚くリリオデールと、その隣に立つフレーネは予想していたらしい声を発した。

グラーティアは続けた。


「ですが効果はやはり『エクスプロード』と同じです。火力は桁違いですが、レヴァンくんの拳から出ていたのを見ました。なので『ゼロ・インフィニティ』で強化された『エクスプロード』だと私は見ています。魔法名からしても、そうだと思います」


やはり『ゼロ・インフィニティ』での強化版か。

予想はしていたが、なんて凄まじい。

魔法第二階層詞セカンドソール』であの威力だ。

このままシャルくんが覚醒していけば、どれほどの化け物になるのか。


手にした大いなる力に溺れて道を踏み外さないか心配だが、さすがにレヴァンくんとシャルくんに限っては、なんかそんなことにはならない気がした。


結婚して子供を出産すれば、それどころではなくなるだろうし。


「ふーむ。レヴァンくん達なら、本当にリリーザの領地を、いや‥‥‥グランヴェルトを倒してグランヴェルジュ帝国を終わらせてくれるやもしれんな」


だんだん希望が沸いてきた。

言ってしまえば戦争の終結である。

それを成し得てくれれば、どれだけ嬉しいことか。


「私は絶対にそうさせるつもりです」


それは厳としたグラーティアの声音だった。


「グラーティア、あなた‥‥‥」


グラーティアの過去を知っているフレーネが、心配そうに言った。

グラーティアは、このリリーザでシェムゾに召喚されてきた身だ。

刺客に追われ、暗殺される寸前に召喚されたと本人は言う。


リリーザにいる人間が、グランヴェルジュの人間を召喚するなど他に例がなかった。

いったい何の間違いかと当初は思ったが、その事故とも言える『魔女の召喚』でグラーティアは命拾いしたのだ。


しかし、自分の国に暗殺されかけたグラーティアの心の傷は、復讐の焔は、まだ消えていないようである。


「わかっていますフレーネ様。個人的にグランヴェルトを倒してほしい気持ちが私にはあります。でも、国への未練は断ち切っていますよ。それにグランヴェルトを放っておくわけにはいきません。奴にこの『リオヴァ城』を渡すわけにはいきませんから」


グラーティアの言葉には同意だった。

この『リオヴァ城』はリリーザを守る最後の砦のようなもの。

あの時のソルシエル・ウォーで負けていれば、この城はグランヴェルトに譲渡されるものだった。

レヴァンくんとエクトくんのおかげて事なきを得たが、もし奴の手に渡っていたらどうなっていただろうか?


リリーザの民を殲滅させた可能性もある。


あの男ならやりかねん。

考えただけでゾッとする。

この城はそれが可能な兵器だから。


「そうですね。この城は、いずれ再来すると言われている『悪魔のソールブレイバー』のために我々がしっかり保管しておかなければいけません」


フレーネが真剣な眼差しでこちらを見て言った。

リリオデールは頷く。


「この城を造り上げた我々リリーザの先祖たちが残した文献にあったな。『悪魔のソールブレイバー』と」


「私はその悪魔とやらをグランヴェルトとルネシアの事だと思っています。奴は、本当に化け物です」


過去の悔しさを思い出したのか、拳を握り締めるグラーティア。

有り得んことではない。

そうリリオデールも思った。

なぜならルネシアが『スターエレメント』を発動したとき、次の瞬間にはシェムゾが倒れていたのだから。


何が起きたのか?

観ていたリリオデールやフレーネ達にも分からなかった。


「化け物、か。まさにその通りだな。レヴァンくん達が、本当に勝てる相手なのか‥‥‥、いやそもそも人間が勝てる相手なのか?」


先程まで沸いていた希望が冷めて、そんなことを呟いてしまっていた。


「ネガティブですよ二人とも」


言ったのはフレーネだった。


「今はシャルさんの『ゼロ・インフィニティ』があります。こちらにも『スターエレメント』があるのです。あの時とは違います。勝てる可能性はあると信じましょう。ね、グラーティア」


リリーザには『奇跡の魔女』など本当は産まれないという事実を知っているフレーネは、グラーティアにウィンクした。


「やはりあなたは、か弱いリリーザを助けるためにシェムゾさんに召喚されたのだと今でも思っていますよ」


「‥‥‥もしそうなら。奇抜な人生です」


「ふふ、そうですね」


苦笑するグラーティアとフレーネ。

昔は呆れるほど仲が悪く、会うたびにケンカしていた二人だが、大人になったものだ。

それに言ってしまえば二人は、リリーザの王女とグランヴェルジュの王女だったのだから、ケンカで済んでいるのはある意味凄いと言えなくもない。


「国王様!」


突如として王の間に駆けつけてきて兵士が、リリオデールの前にひざまづく。


「どうした?」


「はっ! たった今『獅子王リベリオン』から挑戦状が届きました!」


「なんだと!? もうか!」


なんだこの早さは。


「これです!」


兵士がグラーティアに手紙を渡した。

グラーティアはそれに害がないかだけ確認してリリオデールに手渡した。

そして読む。


「こ、これは‥‥‥」


内容に絶句してしまう。

グラーティアとフレーネがこちらに不安な視線を向けて次の言葉を待っている。


「ソルシエル・ウォーの最大人数での戦いだ。獅子王め、50対50で勝負しろと言っている」


「ご、50!?」


フレーネが驚愕した。


「将軍の一角を落としたレヴァンくんとエクトくんを、本気で潰すつもりですね」


冷静そうに言うグラーティアだが、その顔には焦りの色が窺えた。


「国王様。二枚目の出場メンバーをご覧下さい」


「む?」


兵士に言われて、もう一枚の手紙に目を通した。

そのソルシエル・ウォーに参加する者たちのグランヴェルジュ側の名前だ。

上から獅子王のジフトス・リベリオン。

それから死神レナード・サイス‥‥‥。


死神サイス!?


「将軍が二人も出るだと!?」


「はい。最初は目を疑いましたが、間違いありません!」


いよいよもって場が凍りついた。

あの暴君タイラントも、2対1という有利な条件でギリギリ勝てたというのに。


こればかりはダメだ。

もしレヴァンくんたちがこれに挑戦したいなどと言ったら、それこそ止めねばならない。



次回の更新は月曜日です。

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