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第37話『美女と野獣が現る』続

「お前がレヴァン・イグゼスか」


「あなたは?」


「我が名はジフトス・リベリオン! グランヴェルジュ帝国の将軍が一人。『獅子王リベリオン』だ!」


腕を組み、厳つい顔立ちをしたジフトスはそう名乗り上げた。

周りの住民たちが『獅子王リベリオン』の名に畏怖を覚えたのか一歩引いた。

シャルもジフトスに驚いたらしく俺の側まで寄ってくる。


ジフトスは油断のならない目をしていた。

闘気を全快にして俺を戦慄させてくる。


なぜここに二人目の将軍が?


「よくも我が友ゴルトをやってくれたな。近いうちにきさまに挑戦状を送る。本気で潰してやるから覚悟しておけ!」


友? ゴルト将軍とジフトスは友人関係なのか?

だとしたら彼がこれほど怒り狂っているのは、なんとなく分かるが。


『んもぉダーリンったら恐すぎよ? みんな引いてるじゃない』


ジフトスから女性の声が聞こえた。

どうやら魔女とリンクしているようだ。


『あら? そこにいるのはビジュネール?』


リンクを解除してジフトスから現れたのは、それはそれは美しい妖艶な女性だった。

ブロンドの長髪に真紅の瞳をした長身の女性だ。

長身といっても俺と同じほどの身長だが。


それにしても着ている軍服が妙に露出の多いものになっている。

ビジュネールと同じ軍服なのだが、所々違っている。

胸元が開かれ、彼女のやたら大きな胸の谷間が露出されている。

脚を隠すロングスカートにはスリットが入り、艶かしい脚線美を惜しみ無く露にしている。

いちいち色気を振る舞うデザインになっていた。


「相変わらず色気がないわねビジュネール」


「うるさい。何しに来たのレジェーナ」


レジェーナと呼ばれた女性は「私は別に用はないんだけど、ダーリンがね」とジフトスを指差した。

果たしてレジェーナは俺に目を向けてきた。


「あらあなた、なかなか素敵ね。お姉さん好みかも」


「え? お姉さんって歳なんですか?」


うっかり俺は口を滑らせて失礼なことを言ってしまった。

ジフトスを見ればどうみても40~50歳だから、つい。


当のレジェーナは一瞬だけ凍りついた。

しかしすぐに解凍した。


「お、お肌や身体はまだまだお姉さんレベルよ? ほら胸だってまだ張りがあるし」


自慢らしい巨乳を近づけて俺に見せてくるレジェーナ。

なぜかシャルの時のような興奮は生まれず、むしろ少し鬱陶しい気分にさえなった。

なんとなく分かっていたが、やはり俺はシャル以外の女性にはまるで魅力を感じない体質になってしまっているようだ。


まだ若いと訴えるように、己の身体を魅せてくるレジェーナ。

その対応に困っていると、シャルが割り込んできた。


「こら! いやらしい! レヴァンに近づかないでくださいよ」


「あら? やきもち? 彼の事が好きなのかしら?」


「好きもなにも結婚約束してますから」


「え!? そんなに進んだ関係なのあなた達は!?」


シャルを茶化そうとして予想外の返事が来てしまったらしいレジェーナが驚いた。


「もちろん! 愛し合ってますから私達。ね、レヴァン」


「ああ」


否定する部分がないから俺は頷いた。

するとレジェーナはふーんと嗤った。


「愛し合ってる、か。なら聞くけど、愛ってなにかしら?」


「シャルかな」

「レヴァンだよ」


俺とシャルはほぼ同時に答えていた。

別に打ち合わせとかはしてない。


「そ、そう‥‥‥」


こちらの即答にレジェーナは参ったようだった。

また茶化そうとして、また予想外の返事が来てしまったらしい。

そんなレジェーナの姿にビジュネールがクスリと笑う。


「まぁいいわ。そんなにラブラブなら壊しがいがあるもの。あなた達と戦うときが楽しみだわ」


そう言い残してレジェーナはジフトスの元へと戻った。

ジフトスと言えばゴルトに説教をしているようだ。

それを駆けつけたレジェーナが宥め始める。


「レヴァン。シャル」


俺たちを呼んだのはビジュネールだった。


「あの女の『スターエレメント』には気を付けて。私の『ウェポンズ・ブレイカー』よりも遥かに厄介よアレは」


「あれよりも? いったいどんな能力なんですか?」


俺が聞くとビジュネールはしばらく黙って、そして「ま、いっか」と呟いた。


「レジェーナの持つ『スターエレメント』の名は『ブロークン・ハート』。戦士を魅了して意のままに操る効果があるわ。なんの対策もなしにいけば良い餌食になる。気をつけることね」


「魅了に対する対策なんて、いったいどうすれば?」


俺が聞くとビジュネールは。


「あなたなら大丈夫じゃない? レジェーナにあれだけ近づかれて動揺一つしてなかったし」


「俺には『ブロークン・ハート』は効かないってことですか?」


「たぶんね。仮に集団戦を挑まれたら、ジフトスの相手はあなたがしなさい。それが一番被害が少なくて済むはずよ」


「‥‥‥あの、ビジュネールさんも、ゴルトさんといっしょで才能主義に反対なんですか?」


やたら情報を提供してくれる協力的なビジュネールに疑問を持ったらしいシャルが聞いた。

するとビジュネールはくるりと後ろを向いた。


「昔はそうでもなかったわ。でも‥‥‥」


ビジュネールは空を見上げた。



『なによ!『有能者』のお母さんに『無能』の私の気持ちなんか分かるわけないじゃない!』


ビジュネールの胸に突き刺さった娘の一言だった。


『ま、待ってエリリア! 私が悪かったわ! だから!』


それでも、娘エリリアは出ていってしまった。


『スターエレメント』持つビジュネールから産まれたエリリアは『スターエレメント』を持っていなかった。

それだけのことで、グランヴェルジュに浸透した才能主義のせいで、親子の関係さえ簡単に崩れ去る。


あのソルシエル・ウォーでレヴァンというとんでもない学生に敗北したティランとエリリア。

あのレヴァンのせいで、エリリアはティランと共に底辺の仲間入りを果たしてしまった。


無能に敗北は許されない。

一度でも負ければ、高校を退学させられ、安定した職につけなくなる。

この国の無能はいつもギリギリの社会で生きている。


しかし『有能者』は違う。

産まれたときから勝ち組が確定している。

負けても『スターエレメント』の所持者として『滑り止め』が効くのだ。

自分がそうだったから。


でも、人の親になってから考えは変わった。


恵まれた才能に溺れて才能主義に疑問さえ持たなかった過去の自分を、今では呪いたい。


家族なのに、これだけ心の距離が離れてしまうこの制度が疎ましくてたまらなかった。


自分だけ幸せになってもダメだ。

娘にも幸せになってほしい。

いや、今では自分さえ幸せになれていない。


『スターエレメント』の有無が全てなら、魔女というのは余りにも報われない。


現実を背負って支える者。

理想を追って現実に抗う者。


本当ならば一人の大人として前者を選ぶのだろう。


しかし今は‥‥‥一人の親として、後者を選択せねばならないのかもしれない。



「‥‥‥自分の娘が無能無能って言われるのは、どんな親でも辛いのよ」


どこか砂を噛むような様子でビジュネールが言った。


「そうなんですか?」


シャルが聞いた。


「そうよ。自分が不幸ならまだいいわ。でも子供には幸せになってほしい。親ってのはそういうものよ」


「‥‥‥」


シャルはビジュネールを怪訝な表情で見つめている。

シャルの中では複雑なのかもしれない、と俺は察した。

グラーティアとビジュネール。

この二人の親としてのレベル差が激し過ぎるのだ。


「ビジュネールさんの爪垢もらってっていいですか?」


「なに急に?」


「いやお母さんに飲ませようかと思って」


シャルの発言に俺はおもわず「おいおい」と言ってしまった。

ビジュネールもプッと吹き出す。


「仲悪いんだっけ? あなたとグラーティアは」


「はい」


「今もグラーティアはあなたを嫌っているの?」


「‥‥‥さぁ、どうなんでしょうか」


「もし、以前ほど冷たくないなら反省したのかもしれないわ。一度だけでいいからゆっくり話してみるのもいいかもよ?」


「そう、ですね」


苦笑して、シャルはビジュネールにもう一言付け足した。


「ビジュネールさんがお母さんだったら良かったのに」


「冗談。あなたみたいな『スターエレメント』を持った娘なんかごめんよ。もしあなたが娘だったら、私は考えを改めなかったはずだから」


この人は、やはりグランヴェルジュの制度に嫌気が差しているようだ。

ゴルト将軍と一緒で。


「‥‥‥あなた達には期待してる。頑張ってね」


ビジュネールはそう言い残してゴルト将軍の元へ歩き出した。

その小さな背中は幼女のそれだが、どこか大人びて見えた。


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