第36話『暴君の真意』
シャルと旅館を出て、一緒にギョッとなった。
そこには街の住民たちから注目を浴びる二人組の姿があったのだ。
それはあの親子‥‥‥あ、ちがう。
ゴルト将軍と魔女ビジュネールだ。
ビジュネールがあまりにも幼女の姿をしているせいで親子に見えてしまう。
俺たちを見つけたゴルト将軍が手を振ってきた。
「おおレヴァンよ! 会いたかったぞ!」
「おはようございます」
ビジュネールもペコリと頭を下げた。
いきなりフレンドリーな対応に、俺とシャルは困惑する。
「おはようございます。あの、どうしたんですかこんなところで?」
シャルが聞いた。
するとゴルトが答える。
「うむ、ワシらはもうじき帰るのでな。せめてお前たちと話だけでもしておこうと思ったのだ」
「話?」
俺は首を傾げる。
するとビジュネールが口を開いた。
「昨日はお見事でした。まさかあの土壇場で彼女が覚醒するとは思ってもみませんでしたが」
シャルをチラリと見やりながらビジュネールが言うと、シャルはフフーンと胸を張った。
ビジュネールはそれを軽く無視して続ける。
「あなた達は、いつか本当にグランヴェルト様に勝つつもりなの?」
「もちろんです」
「即答だなレヴァンよ。あの方に勝つとは世界最強のソールブレイバーになるということだ。お前は最強になりたいのか?」
ゴルトの問いに俺は首を横に振る。
「最強には興味ないです」
「なに?」
「俺はただシャルと早く結婚したいだけですから」
「なんと!?」
「結婚したい、だけ?」
ゴルトとビジュネールが怪訝な表情を浮かべた。
俺はとりあえず敬語で続ける。
「リリーザは18歳にならないと結婚を許されていません。だから全国制覇を達成して、国王さまに俺達の早期結婚を認めてもらう。そのために俺とシャルはグランヴェルトを倒します」
一切の偽りもなく俺は告げた。
隣でシャルもうんうんと頷く。
そしてよほど驚いたのか、前に立つ当の二人は唖然としている。
ちゃっかり聞いている周りの住民達は逆に騒然とする。
「あの二人は結婚目的で戦ってるのか」
「熱いねぇ」
「やれやれ最近の若い者はなっとらん! もっとマシな動機で戦えんのか!」
「え? この動機だめなのか? 爺さん自分が何言ってるか分かってるかい?」
「愛し合っているのね。羨ましいわ」
「国のために戦ってるわけじゃなかったのね‥‥‥」
賛否両論の声が聞こえる。
その声をかき削すほどの大声でゴルトが急に笑いだした。
「がっはっはっは! そうかそうか! お前はその娘が好きで戦ってるのか! これはいい! 気に入ったぞレヴァンよ!」
ゴルトに背中を豪快に叩かれ咳き込みそうになる。
「ど、どうも‥‥‥」
「うむ。しかしそうか。お前は最強になりたいわけではないのか」
「ええ。でもならなきゃいけないわけですが」
「レヴァンよ。お前はティランを覚えているか?」
「『豪腕のティラン』のことですか?」
「そうだ」
「覚えてますよ。あの時のソルシエル・ウォーで一番手強い相手でしたから」
「そうか。そのティランの魔女だがな、ワシとビジュネールの娘なのだ」
「え?」
「娘さん!?」
シャルが驚愕してビジュネールをガン見する。
「なに?」
「お、お母さんやってらっしゃるんですか?」
「そうよ。何か文句ある?」
「あ、いえ、何も‥‥‥」
恐ろしいオーラを出すビジュネールに威圧されてシャルは押し黙った。
「正直に言うとな」とゴルトが話を再開した。
「今回お前たちに挑戦状を送ったのは、娘をやられた親としての報復のつもりだった」
「‥‥‥」
「それともう一つ。お前たちが本当にあのグランヴェルト様を越えられる逸材か見極めたいという気持ちもあったからだ」
「なぜそんなことを?」
「知っとるか知らんが、ワシらの国は『スターエレメント』を持たぬ魔女は無能として見られる。ワシらの娘も例外ではない」
ゴルトの言葉にビジュネールの表情が曇った。
それを見たゴルトは、少し声の音量を下げて話した。
「グランヴェルジュの才能主義は、個人的に好かん。誰かブチ壊してくれんかと常々思っていた。あのグランヴェルト様を撃ち破れる強者が存在せぬか、とな」
意外だった。
将軍の一人が才能主義を好かないと言っている。
意外だったが、肉親関係がある話なら納得もできた。
「グランヴェルト様は、それはそれは御強い方だ。ワシら将軍が束になっても敵わんだろう」
「そんなに!?」
つい口をついてそう言ってしまっていた。
俺はたった一人の将軍に、あそこまで追い詰められ、仲間の助けがあってやっと勝てたというのに。
グランヴェルトとは、いったいどれだけ化け物なんだ。
「大丈夫だ。お前はまだ若い。これからまだまだ伸びるだろう。それに『スターエレメント』を持った魔女もついている」
ゴルト将軍は俺の肩に手を置いて、励ましてきた。
するとビジュネールが。
「なぜリリーザに『スターエレメント』を持った魔女が産まれたのか。私は疑問に思っていましたが、あなたがあのグラーティアの娘だと情報が入り納得しました」
シャルを見ながら言う。
「またお母さんの名前。なんですか? 私のお母さんってもしかしてグランヴェルジュの人間なんですか?」
シャルが腰に手を当てながら聞くと、ビジュネールは目を丸くした。
「あなた、聞かされてないの?」
「え?」
「グラーティアはグランヴェルジュ帝国の元王女。グラーティア・ゼロ・グラムスよ?」
「ぉ、お、お母さんが元王女!?」
これ以上にないくらいシャルは驚いた。
端から聞いていた俺もさすがに驚愕してしまう。
グラーティアさんって敵国の王族だったのか!?
なんでそんな人がリリーザにいるのだろう?
次回の更新は水曜日です。




