第33話『温泉は熱くて深くて濃厚』
『ついてくんな! おまえにおれのなにがわかるんだよ!』
『わかるよ! わたしも魔法つかえないもん!』
『だから、なんだってんだよ! それでともだちになろうなんてふざけんな!』
『だって、レヴァンしかいないもん‥‥‥レヴァンしか‥‥‥』
『あぁもう! すぐ泣く! めんどくせぇんだよおまえは!』
泣きじゃくる小さな少女に、一人の少年はただ怒鳴っている。
その光景は、すぐに消えた。
「はっ!?」
レヴァンは目を覚ました。
自宅の天井ではない、旅館の天井だ。
ボヤけた視界が鮮明になるにつれわかった。
敷かれた布団で俺は寝ていたようだ。
隣ではエクトが寝ている。
回りは暗い。
いま何時だ?
壁の時計を見れば深夜の1時となっている。
ゴルト戦から気絶して、ずっと寝ていたのか。
それにしても、さっきの夢は随分と懐かしい。
まだシャルと出会って間もない頃のやつだ。
俺の故郷である『リコリス』から移住して『エメラルドフェル』の孤児院に預けられた頃だったはず。
たしかシャルがいじめられていたから、それを助けたのがきっかけだったか。
いじめられていた理由が、俺には無視できない内容だったから。
魔法が使えない無能。
いじめっ子らがそう口にしていたのを聞いて、俺はシャルを助けた。
あのときの俺は本当にひねくれていたから、そんな理由でもないと動くような人間ではなかった。
それからだったな。
シャルが俺に引っ付いて回るようになったのは。
最初はシャルが嫌いでしょうがなかった。
幼い身ながらも同族嫌悪を感じていたのかもしれない。
いや、違うな。
寂しかったのに、正直になれなかっただけなんだ。
勝手に孤独になって。
無能の気持ちは、無能にしかわからないのに、俺はそれを拒んでいた。
『レヴァンしかいないもん!』
ずっとシャルが俺に言っていた言葉。
俺にしかシャルの気持ちはわからない。
シャルにしか俺の気持ちはわからない。
同じ無能だから。
こんな簡単な事が、あの時の俺にはできなかった。
シャルは素直に俺と一緒にいたいと言ってくれていたのに。
だが、今はもう違う。
ちゃんと応えてやれるくらいにはなった。
あいつを幸せにしてやりたいと、そう考えられるくらいに大人にはなったつもりだ。
俺は身体を起こした。
「うっ!」
全身がキシキシと痛む。
魔法ではない肉弾戦のダメージだから、そう簡単に抜けるダメージではない。
それにちょっと汗臭い。
激しい戦闘で汗をかいて、風呂にも入らず寝ていたのだから当然と言えば当然なんだが、さすがに気持ち悪い。
風呂って、この時間に使えるのかな?
俺は痛む身体をゆっくり立ち上がらせ、客室を後にした。
※
フロントにいた受付の人に聞いて、温泉は使えると教えてもらった。
深夜の温泉とは、考えてみればなかなか贅沢じゃないか。
そう思い、着替えの浴衣を持って俺は更衣室に入る。
ボロボロになった試合用の制服を脱ぎ捨て、肩にタオルを乗せる。
そして俺は温泉に続く扉を開いた。
深夜の冷たい風がふぅっと全身を撫でる。
寒い。
でも桜が舞うのはやはり綺麗だ。
この温泉の魅力だろう。
夜桜ってやつか。
湯気が上がる温泉に足を突っ込み、そのまま滑るように全身を浸からせた。
「はぁ~‥‥‥」
やっぱり極楽の吐息が無意識に出た。
もうこれは人間の本能なのだろう。たぶん。
「あの~レヴァン? 私に気づいてる?」
「ほあっ!?」
なんかシャルの声が聞こえたんだが!?
いや、良く見たら普通に俺の前で浸かっているし!
「ぁ、あ、ごめん! 気づかなかった! すぐ上がる!」
「待って待って! せっかくだし一緒に入ろうよ!」
片手を捕まれて俺は温泉に戻された。
なんで、シャルがここに!?
「お、お前まさか待ち伏せ?」
「違うよ! なんか眠れないから温泉に浸かってただけだよ」
「そ、そうなのか。いや、その、ごめん」
「謝らないでよ恋人同士なのに」
そう言ってシャルは嬉しそうに俺の隣まで来た。
この温泉は透明だからシャルの裸体が歪みながらも少し見えてしまう。
俺は見入ってしまう衝動を押さえて目を桜の木に移した。
「身体はもう大丈夫?」
「いや、まだ痛む。けどまぁ、すぐ治るさ」
「よかった。レヴァンが気絶してからリリーザはもう凄いお祭り騒ぎだったよ。将軍の一角を倒したーって」
「まぁそうだろうな」
「テレビはもうそのニュースしかやってないし、あと『リウプラング』の『魔女契約者高等学校』からもお礼が来てたよ」
「ん? なんでだ?」
「今までグランヴェルジュの制圧下だったから、ここの学校の生徒達はソルシエル・ウォーの参加権を剥奪されていた状態だったんだって。でもレヴァンとエクトくんがゴルト将軍に勝ったからリウプラングはリリーザの物になって、ここの学校のみんなもまたソルシエル・ウォーに参加できるようになったの。だからお礼を言われたんだよ」
「そうだったのか。そんなシステム知らなかったな」
「そうだね。それよりレヴァンも約束は覚えてるよね?」
「ああ『添い寝』か」
「うん! 帰ったらさっそくやろうね!」
「そうだな。今回はお前のおかげで勝てたんだしな」
「エクトくんとレニーも忘れちゃダメだよ? 最後の最後で飛んできたあの弾はエクトくんの狙撃なんだし」
「やっぱりそうなのか!? でもどうやって?」
「レニーの『アイスシールド』を壁にして弾丸を跳弾させたって言ってたよ。ゴルト将軍の頭をぶち抜くつもりだったんだけど肩に当たっちゃったんだって」
「いや、当てるだけ凄いけどなソレ」
「でもエクトくん言ってたよ」
「え?」
「勝てたのはレヴァンのおかげだって」
「なんでだよ‥‥‥」
「一番危ない場所に立って、ふんばってたからって言ってた」
「そう評価してくれるのは嬉しいけど、今回は全員いないと勝てなかったさ。誰かが欠けていたら、勝てなかった」
エクトの狙撃。
レニーのアイスシールド。
シャルの覚醒。
そして俺。
この全てが揃ってようやく勝てた戦いだったんだ。
間違いはないだろう。
「そうだね」
シャルも同意し、またさらに身を寄せてきた。
今度は俺の腕に、シャルの豊満な胸が当たるまで。
やわらかい感触が腕から伝わる。
しかもその胸の少し固い部分まで当たっている。
これは、あれだ。
シャルはいま完全に裸だから、あれまで当たっているんだ。
想像してしまって、のぼせそうにねる。
シャルはもう故意に当てて来てる。
俺の腕に、自分の腕を巻きつけてさらに密着してくる。
シャルの女の身体はとても柔らかく、ずっと密着していたい気持ちになるほど気持ちよかった。
気持ち良すぎて、シャルを受け入れている俺がいた。
どける気にもなれず、せっかくの温泉で二人きりならば、これくらいもういいやとなった。
というかもう、混浴してる時点であーだこーだ言うのもどうだろうという気になってしまった。
シャルの肩を抱いて、密着OKの意思を示す。
シャルはまた嬉しそうにし、顔を俺の肩に預けてきた。
「シャル見ろよ。星が綺麗だぞ」
俺は桜の木より上に視線をやって言った。
青みのかかった夜空には星がたくさん輝いている。
「うん。凄く綺麗‥‥‥」
しばらく二人で美しい夜空を見上げていた。
いいもんだな、と素直にそう思った。
幸せな時間を過ごしてる今が、とても素晴らしく思う。
そしてふと思い出した。
シャルのあの時の言葉を。
「なぁシャル」
「うん?」
「お前言ってたよな。ゴルトに勝てたらディープなキスしてあげるって」
「え? あ、うん。言ったよ。も、もしかしてしたいの!?」
なんかシャルさん凄く嬉しそう。
「したい」
熱に浮かされたように俺は頷いた。
一線さえ越えなければいいんだ。
一線さえ。
「レヴァンからそう言ってくれるなんて、感激だよ私!」
「わ、わかったから。していいのか? ダメなのか?」
「いいですよ。してください!」
「なら‥‥‥」
シャルと一旦身を離して、互いに向かい合った。
できるだけ優しく両の頬に手を添えて、シャルの顔を固定した。
愛しいシャルの顔を見つめる。
シャルは少し赤くなりながら、そっと目を閉じた。
俺のキスを待ってくれている。
シャルの胸の鼓動が聞こえる。
俺の胸も高鳴っている。
これからする行為に。
「好きだ。シャル」
そう言って、俺はシャルの柔らかい唇に自分の唇を重ねる。
そして、ゆっくりと、俺はシャルの中へと侵入した。
※この後のレヴァンとシャルのイチャイチャは『ノクターンノベルズ』にて記載しています。
※内容がR18なので18歳未満の方はお控えください!
https://novel18.syosetu.com/n2009ej/




