『将軍戦 暴君タイラント』4
高層ビルの屋上で、レニーの展開したマップをエクトは見ていた。
青い味方の点と敵の赤い点が交差している。
今この瞬間、レヴァンはゴルトと1対1で戦っている。
なのにオレは、この試合が始まってから何一つできてない。
「クソ! なんとかあいつを援護しねぇと!」
『エクト落ち着いて!』
「落ち着いてられるか! オレもビルを降りてレヴァンの加勢に向かう! 狙撃できねぇのならこんなところにいたって仕方ねぇ!」
『無理よ!『シュトゥルーム』でレヴァンのいる場所には近づけないわ! あの竜巻の壁を突破するのは自殺行為よ! 無理に行けば竜巻に巻き込まれてやられちゃう!』
「じゃあなんだ! レヴァンがやられるまで待ってろってのか!」
『違う! お願いだから落ち着いてエクト! 話を聞いて!』
「‥‥‥なんだよ」
『あの竜巻を相手に横からの狙撃じゃゴルト将軍には届かないわ。でも竜巻の真上からなら狙撃も届くはずよ』
「真上から?」
エクトは【南エリア】で巻き起こる約30メートルはある竜巻を見た。
確かに竜巻の真上からなら風の影響はないが。
「どうやって真上から狙撃するんだ? オレは飛べねぇぞ。それに下手に近づけばまた武器を壊される」
『エクト。あたしの『魔法第二階層詞』を忘れたの?』
「『アイスシールド』だろ? 覚えてるよ。でもそれがなんだってんだ?」
『あんたの射撃技術とあたしの『アイスシールド』で跳弾狙撃を狙ってみましょう。あたしがゴルト将軍の真上に『アイスシールド』を展開するから、あんたはそれを狙って狙撃して』
ゴルトの位置はマップにずっと映っている。
魔女ビジュネールがあの『シュトゥルーム』とやらを維持しているおかげだろう。
相手の位置が分かるのはデカいが、跳弾狙撃は正確性に欠ける。
止まっている物に当てるのもなかなか難しいほどにだ。
それをあんな高速で動くゴルトに当てるのは至難の技。
おまけに味方のレヴァンに当たる可能性だってある。
「レヴァンがいるのに、正気かお前」
『エクトの腕前なら、きっと大丈夫だと思ってるだけよ』
「簡単に言いやがって‥‥‥」
だけど、今は他にできることがない。
レヴァンがあのまま戦って勝てるとも思えない。
やるしかない。
「オレの言う角度にシールドを調整しろ」
『っ! 了解!』
レニーが『アイスシールド』の詠唱を開始する。
エクトは深呼吸をして、焦っていた自分を落ち着かせる。
‥‥‥狙撃のタイミングは、奴が止まった瞬間だ!
※
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「ぬあああああああああああああああああああ!」
俺とゴルトの拳打ラッシュが轟音を響かせる。
『がんばれレヴァン! がんばれレヴァン! がんばれがんばれ! フレー! フレー! レヴァン!』
大声でシャルが俺を応援する。
やはり、とういうべきか。
シャルに応援されると全身から力がみなぎってくる!
『レヴァン! レヴァン! いけええええええっ!』
「ええい! うるさいぞ小娘!」
『少し黙ってなさい!』
『そっちこそうるさいよ! 敵のくせに指図しないでよね!』
「構うなシャル! もっと声を出せ! 俺に全力になれ!」
『了解! いけいけレヴァン! 勝てたらディープなキスしてあげるから! がんばってええええ!』
「うおおおらっ!」
ゴルトの拳打ラッシュに打ち勝ち、俺の拳をゴルトの腹部に叩き込む。
同時にフレイムを発射しようとするが、その腕をゴルトに両手で掴まれた。
「離さんぞレヴァン!」
「くっ!」
俺は構わずフレイムを発射した。
大爆発が起こり、黒煙が舞うが、ゴルトの両手が弱まることはなかった。
「ぐぅ‥‥‥っ! 強力!」
唸るゴルトの声が聞こえて、いきなり俺の腕を掴んだ両手に力が入る。
物凄い力で引っ張られ、身体が浮いた。
次の瞬間には地面に叩きつけられ、あまりの勢いに全身がバウンドした。
「がはっ!」
魔法ではない生々しい痛みが全身に走る。
咄嗟に起き上がろうとするが、ゴルトの軍靴が俺の腹部を勢いよく踏みつけてきた。
「がああっ!」
『レ、レヴァン! レヴァン! がんばって! 負けないでよレヴァン!』
シャルの激励で全身にまた力が入る。
ゴルトがもう一度俺の腹部を踏みつけようと足を上げた。
そして降下してくる軍靴を両手で掴んで受け止める。
そのままゴルトの足をへし折るつもりで思いっきり捻った。
「くらえ!」
「こいつ!」
ゴルトは身体を捻らせ大きくジャンプした。
おそらく足をへし折られてはたまらないと思っての急対応だろう。
ゴルトは地面に派手に転倒する形になった。
この隙を逃さず、俺は立ち上がってまたフレイムを放っ‥‥‥。
「っ!? いない!?」
さっきまで目の前で倒れていたゴルトが消えた。
ドゴンッ!
顎から強烈な衝撃が広がった。
脳が揺らされ、視界がブレる。
かがんで正面から突撃してきたゴルトのアッパーを見事にくらってしまった。
怯んでしまった俺に、ゴルトは容赦なく拳打ラッシュを俺の身に撃ち込んできた。
「ぬあああああああああああああああああああ!」
※
レヴァンがゴルト将軍のラッシュをもろにくらってしまっていた。
顔面を、胸を、肩を、腹を、腕を、上半身の全てを拳打の嵐によって攻撃され続けている。
レヴァンの顔から血が飛び散った。
口を切ったものか、それとも鼻血か。
『ぁ、あ‥‥‥レヴァン! レヴァン! 負けないで! 負けないでよ‥‥‥っ! お願い!』
泣きそうになりながら絞り出したシャルの声に、レヴァンは応えてくれた。
バシッ! とゴルトのラッシュを止めたのだ。
レヴァンとゴルトは互いの拳を握り絞め、まるで力比べのように押し合った。
歯を食い縛ったレヴァンの口からは、やはり血が出ている。
鼻からも流血している。
レヴァン自身、ダメージも相当なはず。
応援で全身の疲れを誤魔化しているようだけど、それもいつまで持つか分からない。
どうすれば‥‥‥。
シャルは自分の目前に浮かぶ魔道書を見た。
『魔法第二階層詞』が載るであろうページには、何も書かれていない。
白紙だ。
『なんでよ‥‥‥』
シャルは頭を抱えた。
もういい加減に覚醒くらいしてよ。
また今回も私は見てるだけで終わっちゃうよ。
今まさにレヴァンが負けそうなのに、何もできないなんて。
応援だけじゃダメ。
もっと、レヴァンを勝利へ導けるような力がほしい。
『あなたとシャルちゃんは完成され過ぎてるのよ』
母グラーティアの言っていた言葉を思い出す。
私とレヴァンが恋愛で完成され過ぎてる?
キスしかしたことないのに?
まだ身体を重ねたこともないのに?
子供もいないのに?
結婚もしていないのに?
ふざけるな!
こんなの完成されてない!
これを完成された恋愛だなんて、言っていいはずがない!
私はまだ、レヴァンの望みを何一つとして叶えてあげられていない!
四人の子供が欲しい。
家族を築きたい。
その願いを、一つも叶えてあげられていないのに!
こんなのを完成され過ぎてるとか!
恋愛とは、そんなに浅いものではないはずだ。
少なくとも、私とレヴァンはそうだと思ってる。
答えてよ私の魔道書さん。
これが本当に完成され過ぎてる恋に見える?
恋心が無いように見える?
大好きな人の願いを全部叶えるまで、私の恋は成就したことにはならないんだ。
レヴァンの願いを早く叶えてあげたい。
早くレヴァンの真の女になりたい。
そのためには全国制覇をしなければ早く達成できない。
レヴァンは今、ゴルトに勝とうとしてる。
私はレヴァンに勝たせてあげたい。
ううん。
勝たなきゃいけない!
だから!
魔道書さん。
私に力を貸して!
魔道書から返事は返ってこない。
だが、応えてはくれた。
魔道書の表紙に刻まれた『スターエンブレム』が力強く光を放った。




