第3話『学内のNo.1とNo.2』
1年1組の教室を後にした俺たちは、美術室に向かうため廊下を歩く。
天気が良いせいか窓からの日光が眩しい。
「それにしても良かったわねレヴァンくん。魔女契約高等学校に借金背負って入学にならなくて」
そう言ってくれたのは左隣を歩くレニーだった。
「本当に良かったよ。これからは迂闊な行動は慎むつもりだ。それと俺の事はレヴァンでいいぜ? 今日からいっしょなクラス仲間なんだ。お互い呼び捨てでいこう」
「それもそうね。あぁそれとさ、あのエクトってトンガリ頭のヤツはお金持ちか何かなの?」
「お金持ちも何もエクトはIG社の御曹司だぜ? なぁシャル」
「そうだよ。社長さんの息子さん」
「うそ! あの大手企業の!?」
レニーが開いた口を両手で押さえた。
よほど驚いたらしい。
確かにIG社と言えば誰もが知る大企業だ。
IGとは【イナズマ・グライセン】の略称だが、この会社を知らない人間はリリーザにはいないだろう。
多くの電化製品を開発し、人々の暮らしを著しく豊かにしたのだから。
「凄いのと契約しちゃったわ‥‥‥」
「やったねレニーさん! 玉の輿を狙えるよ!」
「レニーでいいってば。玉の輿とかどうでもいいわよ。アタシそもそもお金にルーズな人は嫌いだから」
「おい! 聞こえてるぞ貧乏人!」
「なっ! 悪かったわね貧乏人で! このトンガリ頭!」
「うるせバーカ」
「こら喧嘩は帰ってからしなさい。許可するから」
オープ先生がレニーとエクトの口喧嘩を仲裁した。
そんなこと許可してどーするよ先生‥‥‥。
「うーん。エクトくんとレニーってなかなか良いコンビになりそうな気がする。私の第六感がそう告げているよレヴァン」
出たよシャルの第六感が。
俺は肩をすくめて言い返す。
「第六感? なにそれ? いつもの当たらない女の勘じゃなくて?」
「失礼だね! いつも当ててるじゃん!」
「ウソつくんじゃねぇ」
※
「君たち待ちたまえ!」
廊下の突き当たりを曲がったところで俺たちは呼び止められた。
なんだが聞き覚えのある声だ。
俺は振り返り、シャルたちも声の主に身を向ける。
そこには俺たちと同じ青い学生服を着た生徒が四人立っていた。
前に男子生徒二人と、後ろに二人の女子生徒がいる。
「なんだアイツら? 上級生か?」
エクトは腕を組ながら疑問を口にする。
「あの人たちは!」
シャルが露骨に嫌そうな表情を浮かべた。
理由はさすがに知っている。
あの女子生徒二人だ。
あの二人はシャルの姉たちで、3年生の長女ロシェルと2年生の次女リエル。
この二人は魔法が使えないシャルを無能と馬鹿にして絡んでくる。
血をわけた姉妹なのに酷いもんだ。
シャルがこのように嫌そうな顔を浮かべるのも無理はない。
「オープ先生‥‥‥彼らですか? 明日のソルシエル・ウォーに参戦する1年どもとは」
向かいに立つ男子生徒二人の内一人が前に出て来てそう言った。
「1年どもだぁ?」
エクトが相手の言い方が気に入らなかったようで一歩前に出ようとした。
それを俺が片手で制する。
「君たちは‥‥‥え~と、誰だ?」
オープ先生が首を捻る。
「わ、忘れないで頂きたい! この魔女契約者高等学校のNo.1であるギュスタ・ベルトンの名を!」
ギュスタと名乗った男子生徒は、俺とエクトよりに顔1個分は背が高く、肩幅も広くたくましい。
そんなギュスタより細く、身長は俺と大差ないもう一人の男子生徒が前に出てきた。
「自分はNo.2のシグリー・アベスターといいます。以後お見知りおきを」
ムスッとした表情でシグリーが名乗ると、エクトが肩をすくめた。
「へぇ~、この学校のダブルエースがわざわざ挨拶にでも来てくれたのか? 明日はリリーザの存亡が掛かった戦いがあるのにずいぶん暇なんだな」
「ちょ、ちょっとアンタ!」
いきなり上級生相手に皮肉をブチかましていくエクトにレニーが焦りの声を上げた。
「ふん、君は確かにエクト・グライセンだったね。噂はよく耳にしているよ。口の悪さは特にね」
「そりゃどーも」
怒気を放ってエクトとシグリーが睨み合う。
レニーは冷汗を流してエクトの袖をただただ引っ張る。
かわいそうに‥‥‥。
「そこにいるのはシャルなの?」
シグリーの脇を通って前に出てきたリエルが疑惑の目をシャルに向けながら言った。
「あ~‥‥‥どうもです」
嫌そうな表情をなんとか引っ込めたシャルがペコリと頭を下げた。
「あなた召喚されたの? 魔法が使えるようになったってこと?」
リエルが腰に手を当ててシャルに問う。
シャルは苦笑した。
「ええ、まぁ、理由はわからないんですけど」
「お母様に報告はしたの?」
後で出てきたロシェルが聞くとシャルは首を振って返す。
「あらそう。報告すれば家に帰ってこれるかもしれないわよ?」
「ご心配なく。帰る気はありませんから」
「あら、どうして?」
「私の帰る場所はロンティア家ではなくレヴァンの元なので」
ニッコリ笑顔で恥ずかし気もなくシャルは言ってのけた。
実際にシャルは、ロンティア家を出て俺の家に住み着いている。
「ホンット仲睦まじいわね」
リエルが気分悪そうに吐き捨ててそっぽを向いた。
仲悪いより良いと思うがね。
「話はそのへんにしなさい」
中断の達人ことオープ先生が言う。
「これから彼らは明日の準備がある。君たちも明日のために特訓などをしてはどうかね?」
オープ先生の言葉にギュスタの顔が怒りに染まり出した。
「特訓の前に彼らと模擬戦をやらせて頂きたい」
「なに?」
「このレヴァンという1年。彼が明日のチームに加えられたことによって3年のディオネがチームから外されました。この件に関しては3年だけでなく2年も誰一人として納得していません!」
「レヴァンくんの編入は国王様からの推薦だ。今更変えられんよ」
「ふざけないで頂きたい! あのエクトとかいう1年も最初からチームに加えられていたことにも疑問がありました。 こんな大事なソルシエル・ウォーを前に何を考えているのですか!」
ギュスタの怒声が廊下の隅々に響き渡る。
彼の怒りはどうやら本物のようだ。
よほど1年の俺とエクトを信じてくれていないらしい。
「まぁそう言うな。彼らの実力は本物だよ。担任の私が保証しよう。彼らのことは助っ人だと考えてなさい」
「1年ごときを助っ人と呼ぶのですか? 彼らが私とシグリーよりも強いと申しますか?」
「私はそう思うがなぁ。どうだレヴァンくんエクトくん。彼らに勝つ自信はあるかね?」
「あります」
「余裕」
俺とエクトは即答した。
ギュスタとシグリーが眉間にシワを寄せる。
「ならば今日の放課後、訓練用コロシアムに来い! 相手をしてやる!」
怒りを含めた声で言ってギュスタが踵を返す。
それに続いてシグリーやリエルたちも身を翻した。
4人が去り、俺は拳を打ち合わせた。
「入学して早々に学内No.1とNo.2と戦えるなんてついてるな」
全国制覇を目指すなら、学校でNo.1くらいにはなっとかないとな。
それに学生レベル相手に躓く程度なら、どのみち俺とエクトに先はない。
「話にならねぇザコじゃないことを祈ろうか」
と言うエクトの傍らでレニーがため息を吐く。
「あんたって重度の自信過剰者ね」