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第32話『将軍戦 暴君タイラント』

 

「お前さんたち。準備はできているな?」


旅館の一泊を終え、オープ先生に問われた。

朝食は済ませた。

アップも済ませた。

服はソルシエル・ウォー専用の制服に着替えてある。

俺とエクトは問題ないことを頷いて伝えた。


「よし。いよいよあの暴君タイラントとの闘いだ。奴の魔女がどんな『スターエレメント』を持っているか分からん。用心しろ」


「「はい」」


同時に返事をした俺とエクトは、先に客室を出たオープ先生に続いた。

旅館の廊下を歩き、途中でアノンさんを先頭にしたシャルとレニーとも合流する。


さすがに二人は将軍戦を前に緊張気味の顔をしていた。


「レヴァンさん。エクトさん。どうかご武運を。このリウプラングを取り戻してください」


アノンさんが切実な口調で言いながら頭を下げた。

俺はみんなを代表して答える。


「アノンさん。必ず」


果たして、俺達は旅館で世話になった方々に見送られて外に出た。

旅館の外は大勢の人間達で溢れかえっていた。


『レヴァン選手とエクト選手が出てきました。後ろに彼らの魔女もいます。学生対軍人! 今まさに前代未聞のソルシエル・ウォーが始まろうとしています! 果たして彼らは――』


ざわめきの中でも聞こえる声。

テレビ局の人間も混ざっている。


街の道という道を埋めつくしそうなほどの人数だ。

その光景にはさすがにギョッとしたが、幸いにもコロシアムまでの道のりは、この街の兵隊さん方がロープで仕切りをしてくれているので空いている。


その空かされた道をオープ先生とアノンさんを先頭にして歩き出した。


「がんばってね! 応援してるから!」

「お兄ちゃんたちがんばれー!」

「負けないでくれよ! リウプラングを取り戻してくれ!」

「あんた達は希望だよーー!」


道の両サイドから応援の声が飛ぶ。


『よいか。今のお前たちはすでに大勢の人間の期待を背負っている。これに応える義務はないが、責任はある』


フとリリオデール国王様の御言葉を思い出した。


俺達を応援してくれている彼らの期待に応える責任か。

重いはずなのに、俺ってやつは不思議とそのプレッシャーを糧にできる。

これは俺自身の長所なのだろう。


いや、もしかしたら、俺は俺の目的のために戦っているだけだから、彼らの声自体にはあまり重みを感じていないだけなのかもしれない。


だとしたら随分と冷たい長所ではあるが、それでも、彼らの声が力になるのは間違いない。

現に『豪腕のティラン』との闘いの時には、シャルの応援や観客達の応援が俺に力を与えてくれていた。


応援されるとやる気がでる。

たったそれだけの事だが、無能無能と呼ばれ続けてきた男には応援ほど温かいものがないのも事実なのだ。


アノンさんや、この街の住民の期待には必ず応えてみせる。


心地良いプレッシャーを胸に、俺はシャルたちとコロシアムへ歩んで行く。



コロシアムへと着き、オープ先生とアノンさんと別れて選手控え室に入った。

以前のソルシエル・ウォーと違って誰もいない。

俺とエクト。

そしてシャルとレニーのみ。


室内にあるベンチに座って一息いれた。


「いよいよだな。みんな」


俺が言う。


「うん」

「ああ」

「ええ」


それぞれが返事を返してくれた。


「エクト。試合が始まったらまず俺が前に出る」


「わかってる。オレは見つからないように身を隠すさ」


「そうしてくれ」


この戦いの決め手はエクトの正確無比な狙撃にかかっている。

だから俺はゴルト将軍を正面から迎え撃って戦う。

危険だが、接近戦なら俺が一番得意だ。


「この戦いで覚醒できればいいんだけど‥‥‥」


シャルが自分の両手を見ながら呟く。

俺はシャルの肩をポンと叩いた。


「期待してるぜシャル。例の約束は覚醒したら必ずしてやる。だから、がんばってくれ」


「うん。やってみる」


『ソルシエル・ウォーを開始します。選手の方はステージに出てください』


アナウンスが流れ、俺は立った。

ついにグランヴェルジュ将軍の一角を相手にするときが来た。

シャルやエクト達も立ち上がる。

俺は先頭になってステージへ続く入口に向かった。


入口を抜けると太陽光が目を射した。

同時に観客達のものであろう声がワアアアと轟く。

青空が広がり、その下に広大なステージが広がる。

コロシアムの観客席にはリリーザの市民とグランヴェルジュの市民が両方いるようだった。


左側にはリリーザの国色である蒼の旗を。

右側にはグランヴェルジュの国色である紅の旗を持って振っている者が何人かいた。


ゴルト将軍の応援か。

まさかグランヴェルジュの市民まで見に来てるとは。

いや、以前のソルシエル・ウォーでもそうだったか。


何にせよ、以前のような10対10でもない小規模バトルなのに凄い観客の数だ。


俺はステージに上がった。

そしてシャルを隣にして整列する。

エクトとレニーも並び、次のアナウンスを待つ。

向かい端が見えないが、ゴルト将軍がいるのはそこだろう。

こちらは【南エリア】からなら、敵は【北エリア】からだ。

まっすぐ進めば【中央エリア】で出会って戦闘になりそうだが。


『間もなくソルシエル・ウォーが開戦されます。各ソールブレイバーはルールを確認してください』


流れるアナウンスと同時に左側の観客席にある大型モニターが光った。


【ソルシエル・ウォー】

〈バトル形式〉2対1

〈戦場〉街

〈勝利条件〉敵の全滅

【レヴァン&シャル】VS【ゴルト&ヴィジュネール】

【エクト&レニー】


確認を済ませた俺は前方を見た。

【SBVS】が機動され、観客席を守るバリアが展開された。

そしてフィールド再現システムで街が構成されていく。

ビルなどが建ち並ぶ街が再現された。

『首都エメラルドフェル』に似た街並みだ。


これはエクトにとっては好都合なフィールドだ。

身を隠すのに事欠かないフィールドだからだ。


『選手はリンクしてください』


俺はシャルと手を繋ぎ「行くぞシャル」と声を掛けた。

「うん!」と返事をした直後にシャルは粒子と化して俺の身体に溶け込んでいく。


エクトもレニーの手を掴み、目を合わせた。

レニーは頷いて、光の粒子となりエクトと同化する。


『『魔女兵装ストレイガウェポン』を装備してください』


俺は【グレンハザード】を召喚し、エクトは敵にスナイパーライフルがバレないように【ステラブルー】を召喚した。


『カウント開始 5・4・3‥‥‥』


ついに戦闘開始へのカウントダウンが始まった。

さっきまで聞こえていた観客たちのざわめきも静まり返る。

聴こえるのは己の心臓が脈打つ音だけ。


『‥‥‥1・戦闘開始!』


ワアアアと観客達が興奮した声を上げる。


「じゃあなレヴァン。囮頼んだぜ」


「ああ。そっちこそ外すなよ?」


「オレが外すわけねぇーだろ」


そう言って走り出そうとした。

すると突然、辺りが真っ暗になる。


『わあああっ!? レヴァン! エクトくん! 上! 上えええ!』


シャルが裏返りかけた悲鳴のような声を上げた。

俺は言われたまま暗くなった空を見上げる。

そしてエクトも。


「なっ!?」

「ウソだろ‥‥‥!?」


暗くなった原因は、建物のビルだった。


なんで、空からビルが!?


もぎ取られたかのようなビルが隕石の如く俺とエクトの場所に落下してくる。


「エクト! 俺の後ろに下がれ!」


「っ! わかった! 頼むぜ!」


迫りくるビルに向かって俺は【グレンハザード】を握りしめた。


「うおおおおおっ!」


吼えた全力の薙ぎ払い。

斬撃と剣圧で飛来したビルを真っ二つにした。

裂けて吹っ飛んだビルの破片などが、他のビルなどに衝突して崩れていく。


「なんだよ今のビルは」


俺が言うと中のシャルが言う。


『【中央エリア】の方角から飛んで来てたよ。あのゴルトって人が投げたのかも』


「マジかよ。ビル投げるとかどんな怪力だ」


エクトが舌打ちした。


ビキピキッ


何かが軋む音が響いた。

何の音だ?


次の瞬間バリンとガラスが割れるような音が響いた。

その音の先に視線を向けると【グレンハザード】が粉々に砕けていた。

エクトの【ステラブルー】さえも。


「な、【グレンハザード】がっ!?」

『どうして!?』


「【ステラブルー】が!? どうなってやがる!?」

『『魔女兵装ストレイガウェポン』が壊れる? こんなこと‥‥‥!?』


あり得ない!

魔女兵装ストレイガウェポン』は魔法の産物。

壊れるなんて概念はないはずだが。


「がっはッはッはッは! 驚いているな小僧ども!」


この声はゴルト将軍の!

まさかもう【北エリア】からここ【南エリア】まで来たのか?

なんて機動力だ。


俺は声の主を探した。

すると向かいにあの筋骨隆々の巨漢が歩いてきていた。

グランヴェルジュの軍服を羽織り、こちらに迫ってくる。


「昨日聞いたな? お前たちは格闘ができるかと。つまりはこういう事だ」


『私の『ウェポンズ・ブレイカー』はどうですか?』


ゴルトの中から響くのはビジュネールの声だった。

『ウェポンズ・ブレイカー』?

それがヴィジュネールの持つ『スターエレメント』か!


『残念ですが私がいる限り、あなた方は『魔女兵装ストレイガウェポン』を使用することはできない。あなた方は素手で戦うしかないのです』


幼い声音だが、どこか冷徹なヴィジュネールの言葉。

俺は思わず息を呑んだ。

背後でエクトもそんな気配を見せる。


魔女兵装ストレイガウェポン』が使えない。

これはエクトのスナイパーライフルであるアイスオーダーを使用不可能にされたということ。


最悪だ。

いきなり決め手となる作戦のキーが使えなくなった。

どうする!?


ゴルト・タイラントが拳を鳴らして接近してくる。


「さぁ始めようか。肉弾戦というヤツをな!」











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