第27話『グランヴェルジュの有能者』
「グランヴェルト様!」
ある城のバルコニーで帝都を眺めていたグランヴェルトに、ルネシアの声が降りかかる。
グランヴェルトは振り返らず応じた。
「何事だ」
「はい。例のレヴァン・イグゼスの件で」
「なんだ?」
「ゴルト将軍の挑戦を受けるとのことです」
「それだけか?」
「いえ、あのグラーティアの娘シャル・ロンティアが『スターエレメント』を所有した『有能者』だったとの報告がありました」
「それは本当か?」
さすがに振り返った。
リリーザでは『奇跡の魔女』などと呼ばれている『有能者』。
驚きはしたが、不思議ではなかった。
あのレヴァン・イグゼスの放つフレイムは通常よりも遥かに強力だった。
あれを見て、そして奴の魔女がグラーティアの娘という時点でもしやとは思っていた。
「すでにリリーザで報道された情報なので間違いありません。しかし、リリーザの血が混ざってなお『有能者』が産まれるとは」
「混血は問題ではない。グラーティアは無能だが、王家の血を引いているのは事実だ。シャル・ロンティアが奴の血を引いている以上『スターエレメント』を持って産まれてくるのはなんら不思議ではない」
そう。
グランヴェルジュの民ならばみな可能性がある。
そしてそれが王家の血筋ならば尚のこと。
グランヴェルジュの人間にのみ与えられた可能性。
それが『スターエレメント』。
リリーザ側に『有能者』が産まれないのは当然のことなのだ。
生まれ持った遺伝子が、すでに違うのだから。
それにしても面白い。
『スターエレメント』を持たずに生まれたゆえに、王家の恥として暗殺されるはずだったグラーティア。
何故かその暗殺が失敗し、奴が生きていて、一度は復讐の牙を剥き出しにしてこの俺に挑んできた。
だが、シェムゾという戦士は優秀だったが、グラーティアという魔女は無能でしかなかった。
グラーティアは『有能者』たるルネシアに成す術なく敗北し、負け犬となる。
無能で負け犬の女。
そんな女の娘であるシャル・ロンティアが、あの女にはなかった『スターエレメント』を持って、また自分に挑もうとしている。
おそらくは、グラーティアの仇をとるために。
妹の次は、姪が俺に挑んでくるか。
「グランヴェルト様?」
ルネシアが怪訝な表情でこちらを窺っている。
どうやら顔に出てしまったようだ。
「ふ、すまんな。少し楽しみになってな」
「レヴァン・イグゼスとシャル・ロンティアのことですか?」
「そうだ」
「ならば良かったのですか? ゴルト将軍が倒してしまうかもしれませんが」
「かまわん。そもそも将軍どもに遅れをとる程度なら興醒めだ。この俺に挑むというのなら奴らぐらい越えてもらわねばな」
「は、おっしゃる通りです。それとエクト・グライセンの方ですが」
「あのトンガリ頭の小僧か。なんだ?」
「なんでも彼の魔女レニー・エスティマールが、たったの四日で『魔法第二階層詞』を覚醒させたとの事です」
「早いな。それで?」
「それだけです」
「ならばどうでもよい。今後そちらの情報はいらん」
「了解しました」
覚醒が早かろうが遅かろうが、時間が経てばみな同じレベルになる。
『スターエレメント』を持たぬ魔女など無能も同然だ。
王家の生まれであるグラーティアでさえもその例外ではなかった。
グランヴェルジュという国はそういう価値観で出来ている。
『有能者』以外の魔女は全て無能と呼ぶ。
そんな国だ。
無能の魔女など恐るるに足りぬ。
エクト・グライセンは優秀な戦士となりえそうだったが、パートナーがレニーとかいう『スターエレメント』を持たぬ無能な魔女では先が見えている。
「シャル・ロンティアの『スターエレメント』の名は?」
「『ゼロ・インフィニティ』です」
「インフィニティ‥‥‥」
無限の意味を持つその名は、自分たちも知っている。
「似ているな」
「はい。私の『スターエレメント』と」
「効果は?」
「詳細は不明です。ただ、魔法の威力を高めているのは確かかと」
「そうか」
『ゼロ・インフィニティ』か。
やはり期待できそうだ。
がっかりさせるなよレヴァン・イグゼス。
そしてシャル・ロンティア。
力を得たならば、それ相応のものを見せてみろ。




