第2話『ソルシエル・ウォーに参加決定!』
とりあえずみんなを危険な目に合わせたことを謝罪した俺は、オープ先生に教室での待機を命じられていた。
もちろん俺だけでなくシャル・エクト・レニーそしてクラスメイト全員だ。
『魔女の祭殿』がおじゃんになってしまい、入学式の通過儀礼である『魔女の召喚』ができなくなったからだ。
みんなに迷惑をかけた申し訳なさ。
そして祭殿の弁償代で不安いっぱいだ。
まさかこんな形で借金を背負うことになるとは。
しかもこれから高校生活が始まるってのにこのスタートよ。
今俺がいるここ『魔女契約者高等学校』は『魔女の祭殿』の崩壊で大騒ぎだ。
俺のクラス1年1組が最初に『魔女の召喚』をおこなっていたから、あとに続くクラスが完全に先送りになった。
それで入学式とか他の予定とかが大幅にズレることになったらしい。
もうそれだけでも大惨事だ。
どう詫びればいいか分からない。
そんなブルーな気分のせいか、俺とシャルの席だけに貼られている『イチャイチャ禁止』と記されたシールにも全然ツッコむ気が起きない。
「大丈夫だよレヴァン。そんな死刑にされるわけでもないし」
隣に座るシャルが慰めてくれる。
他のクラスメイト達も。
「そうそう。幸いにも怪我人は出なかったんだしさ」
「俺らもお前を煽ったし、責任はいっしょだって」
「しつこく絡んで悪かったよレヴァン」
「お前だけのせいじゃない」
「みんな、ありがとう」
この状況でそう言ってくれるのは、本当に嬉しい
『魔法男子学校』からすでに7年目の付き合いとなるクラスメイト達はいつもそうだ。
普段は人を無能だのリア充だの馬鹿にしてくる連中だが、何かあればこうやって励ましたりしてくれる根の良いヤツばかり。
だからこそ申し訳ない気持ちになる。
いや、もう過ぎたことだ。
ここはもう腹を括るしかない。
そして数分後、ここ1年1組にオープ先生が戻って来た。
ガラリとドアを開けて教室に入ってくる。
「オープ先生!」っと俺は勢いよく席から立った。
「レヴァンくん。祭殿破壊の弁償金額だが1500万リリオだ」
1500万リリオ!?
いっせんごひゃくまんリリオ!?
リリオ!?
手にしたことすらない巨額の請求に脳内ではお金の単位が連続再生されている。
血の気が引いて倒れそう‥‥‥にはならなかったが、さすがに衝撃が強かった。
自分の娘が彼氏を連れてきて結婚しますっていきなり告げられる親の衝撃もこんな感じなのだろうか?
「す、凄い金額だわ」
エクトの隣に座るレニーが青ざめた顔で言った。
「だだ大丈夫だよレヴァン! いっしょに働いていっしょに返済しよ? ね?」
あぁ俺は大事な幼馴染になんてことを言わせてんだ。
男としてこれ以上に情けないことはない。
「バカお前はいいんだよシャル。悪いのは俺だ。俺が働いて返す」
「たかが1500万だろ? 払ってやろうかオレが?」
おいおいエクト。
たかが1500万リリオ稼ぐのにどれだけ普通の市民は働かなきゃならないと思ってんだ?
これだからお坊っちゃんは。
ほら見ろ隣のレニーさんもビックリしてるぞお前の発言に。
え、こいつ何言ってんの? って。
言葉にしなくても分かるくらいそんな顔をしてる。
エクトの金銭感覚は本当におかしいからな。
「いいってそんなの。浮かれて撃ったのは俺だし、ケジメくらいつける」
「あーコホン」
オープ先生が間を取り繕う。
「とりあえず私の話を聞きなさいレヴァンくん。この1500万リリオの件については国王様から許しが出ている。お前さんが借金を背負う必要はない」
「え、国王様が? なんで?」
俺だけでなくクラス全員が呆気にとられた。
それもそうだろう。
ただの学生の騒動に、一国の王がなぜ出てくる?
「理由を今から説明するとだな。お前さんは明日のソルシエル・ウォーに参加させられる」
「俺がソルシエル・ウォーに?」
「この勢力図を見なさい」
オープ先生は黒板に勢力図を張り巡らせた。
それは自国リリーザと、相手国グランヴェルジュの勢力図。
見事なまでに真っ赤な勢力図だ。
紅色は相手国であるグランヴェルジュ帝国の領土を示している。
そのグランヴェルジュ帝国に勢力図は99%占領されてしまっているのだ。
そして俺が住むこのリリーザ王国といえば。
「うわぁ‥‥‥やっぱりリリーザ小さい」
「本当ね。豆粒だわ」
シャルとレニーが驚いている。
無理はない。
リリーザの領土はコイン1個分ほど。
その周りは真っ赤なグランヴェルジュ領土のオンパレードだ。
どう見ても敗北寸前である。
ソルシエル・ウォーはこの領土の取り合いを前提にした侵略戦争でもある。
これだけグランヴェルジュ帝国に染まってしまっている理由は当然、リリーザがたくさん相手に負けてるからだ。
俺の目的である全国制覇は、この紅く染まった勢力図を蒼く塗り返すことで達成する。
「負け続けてるって聞いてたけど、これほどとはな」
「レヴァンはテレビや新聞見ないから情報が遅すぎるよ。これ大分前から言われてることだよ? トレーニングばっかりしてないで外の事も気にしないと」
「は、はい。すいません」
普段の生活を幼馴染に怒られた。
「少し前に『都市ローズベル』でおこなわれたソルシエル・ウォーでリリーザが敗北したのは知っているな? 明日はここ『首都エメラルドフェル』にグランヴェルジュが攻めてくる。戦闘形式はチームデスマッチXの10対10だ。そこで編成される首都防衛チームにレヴァンくんとシャルくんの編入が決まった」
「「「なにいいいい!?」」」
クラスメイト達が飛び上がりそうなほど大袈裟に叫んだ。
「も、もしかしてそれが俺の処分ですか?」
「ああ、そういうことだ。お前さんの戦闘能力がズバ抜けていることを国王様には何度か報告していたからな。そのたびに国王様は『彼が魔法を使えれば』と悔やんでおられたが」
「そ、そうですか」
「まぁ要するに『金はいいから勝ってくれ』という事だ。お前さんにとってこれほど都合の良い話はないだろう?」
「もちろんですよ! まかせてください!」
「やったねレヴァン!」
「おう! 明日は勝つぞシャル!」
「うん!」
なんて好都合なんだ!
もともとソルシエル・ウォーに参加したかった身としてはこれほど良い話はない。
【オープ先生に土下座して無理言って明日のソルシエル・ウォーに参加させてもらう】
という手間が省けた!
明日の試合に勝って全国制覇の夢に一歩前進してみせる!
「ちなみにエクトくんの編入も決定済みだ」
オープ先生が勢力図をグルグル巻きにしながら言った。
あぁとみんな納得の声を上げる中でレニーだけ
「え、そうなの!?」と驚いてエクトを見た。
「ああ。まぁよろしく頼むぜヘニー」
「レニーよ!」
「なんだお前も出るのかエクト」
「なんだよ文句あっか?」
「ないって」
文句どころか、俺はエクトより頼りになる仲間を知らない。
「お前がいるなら楽勝だな」
「当たり前だ」
「「「おぉー頼もしい!」」」
「ただの自信過剰じゃない‥‥‥」
最後のレニーの一言はともかく。
クラスメイト達の驚嘆の声には同意する。
するとオープ先生が教卓に手を置いて口を開く。
「シャルくんとレニーくんもぶっつけ本番になって大変だろうが頑張ってくれ。なぁに実戦で痛い目に遭うのは戦うレヴァンくんとエクトくんだけだ。君たち魔女は彼らの中で魔法をしっかり唱えていればいい。といっても今はあまり出来ることも少ないだろうが」
「やっぱりそういうものなんですね魔女は。安全な場所で詠唱してるだけなら楽な仕事だわ」
レニーが余裕の笑みを浮かべて言い放つ。
するとオープ先生は笑った。
「他の魔女も最初は君と同じ事を言うんだよ。でもほとんどの魔女は最初の意見と真逆になる。魔女は本当に大変だとな」
「どうしてですか?」
レニーの問いにオープ先生がおもむろに答える。
「ソルシエル・ウォーの基本は魔法戦。ソールブレイバー同士の戦いは表で戦う戦士の実力もそうだが、裏で戦う魔女の実力も大きく関係してくる。よくある例では【戦士の実力に魔女が付いていけない】という事態だ。レニーくんとシャルくんは、これからレヴァンくんとエクトくんの魔法を担当することになる。つまり二人の火力はレニーくんとシャルくんの魔法レベルで左右される。二人が勝てるかどうかも魔女である君たちに掛かっていると言っても過言ではないのだよ」
オープ先生の説明に、役割の重さを痛感したらしいシャルとレニーが息を呑んだ。
「納得のいく説明でした。ありがとうございます」
レニーが丁寧におじきをする。
けっこう乱暴な子かと思ってたが、そうでもないようだ。
むしろ真面目だ。
「うむ。それでは君たち4人は私といっしょに美術室に来なさい。明日のソルシエル・ウォーのための準備をせねばならん。しっかり整えて挑んでもらうぞ。明日負ければこの国リリーザは無くなるのだからな」
そういえば最近ずっとリリーザの名前が無くなってしまう話題で町中が騒いでいたな。
明日の試合はここ『首都エメラルドフェル』が舞台だ。
つまりここの領土を賭けた戦いになる。
明日もしグランヴェルジュ帝国に負けたらリリーザの領土はグランヴェルジュに支配され、地図から消滅する。
簡単に言えば俺の出身国がリリーザからグランヴェルジュに変わると言うこと。
だから明日は自分の故郷の名を守る責任重大な戦いだ。
負けるわけにはいかない。
「嫌だなぁ。故郷がなくなるのは」
「そうだよな。出身はグランヴェルジュですなんて今更言うのもな」
「人が死なないってだけで、これは戦争だからな。弱いこっちが悪いんだろうけど」
クラスメイトの何人かが不安を抱いてるようだ。
「大丈夫だみんな。俺とエクトの実力は、みんな身をもって知ってるだろう? 明日は応援に来てくれよ。必ず勝つから」
「お、おう。わかった。応援にはもちろん行くよ」
「何が俺とエクトの実力だ。オレより弱ぇくせに」
なんかエクトが突っかかってきた。
なんだこのやろう。
「何がオレより弱ぇくせにだ。俺より弱ぇくせに」
「はぁ? いつからオレより強くなったんだ?」
「今日」
「あ?」
「‥‥‥ねぇあの二人って仲良いの? 悪いの?」
レニーがシャルに聞いた。
「仲は良いよ。良すぎて少し妬いちゃうくらいには」
「そ、そうなんだ」