第24話『リリオデールと大人達』
『戦闘不能者休憩室』に運ばれたリリオデールは目が覚めた。
ボヤけた視界の先で、天井にある蛍光灯が光っている。
そして不意に暗くなった。
誰かがこちらの顔を覗き込んでいる。
フレーネか?
「お目覚めですか国王様。お加減は?」
クリアになった視界が映したのはハゲかけたオッサン‥‥‥オープだった。
「なんだお前か」
「いや『なんだ』ってそんなガッカリしなくても」
「大丈夫ですかあなた?」
当のフレーネが心配そうにこちらを見ている。
やはり心配されるなら愛妻のフレーネがいい。
「ああ。まだ少し痛むが大丈夫だ」
「聞きましたよ。なんでもレヴァンくんにあっさりやられたとか」
オープが嫌味ったらしい口調で言ってきた。
リリオデールは思わず口を尖らせる。
「ふん。あんな有利な状況でエクトくんに負けたお前に言われたくはない。ガトリングガンもなんだかんだ一発も当たってなかったではないか」
「あれはエクトくんが異常なのですよ。それにまさかレニーくんがあんなに早く『魔法第二階層詞』を覚醒させるとは思いませんでしたし」
「そうだな。まぁこの戦いはそもそもシャルくんとレニーくんの強化が目的だった。結果としてはこの上なかろう」
「そうですな。いやしかし、負けるつもりはなかったのですが」
「私もだ。だからこの戦いを収録したいというテレビの者を断ったというのに」
やれやれと頭を掻くリリオデール。
あの『グランドフレア』を外したのが痛かった。
レヴァンくんの突っ込みは恐ろしく速い。
最初の一撃もなんとか捌いたがギリギリだった。
だから彼の足を狙って機動力を失わせれば勝機はあったはずなのだ。
シャルくんの声掛けがあったとは言え『グランドフレア』を初見で避ける相手はレヴァンくんが始めてだ。
大概は気づいたときにはすでに手遅れで爆発に巻き込まれるのがオチなのだが、レヴァンくんはシャルくんに言われてすぐさま回避に移行していた。
レヴァンくんの身体能力の高さが成せたことか。
それとレヴァンくんとシャルくんのフレイムにも驚いた。
こちらの大型ライフル【アスールカノン】はフレイムを最大パワーで撃てるようにしてある。
そのかわり連射は効かない。
なのにあちらのフレイムは連射は効くわ、なぜかパワーが桁違いに高いわでデタラメだった。
速射性についてはおそらく『魔女兵装』に何かしらのギミックが施されているのだろう。
だがパワーがわからない。
こちらも最大パワーだったのに競り合うどころか一瞬で競り負けた。
もしあれが『ゼロ・インフィニティ』の効果だと言うのなら『魔法第一階層』でこれほどだ。
シャルくんが力をつけて新たな魔法を使えるようになったとき、いったいどれほどの火力になるのだろうか。
考えれば考えるほど期待が膨らむ。
「良いではありませんか。正直、オープ先生やあなたに負けていてはとても将軍には挑ませられませんもの」
フレーネが苦笑しながら言う。
確かに、自分の実力など高く見積もっても中の中ほどだろう。
ならばこの自分たちを越えてくれたことに安心すべきか。
「フレーネ様に同感です。戦士の方はどちらも能力的に十分な戦闘力を有しています。今回の戦いでエクトさんとレヴァンさんはかなり対魔法の理解ができたと見ました。『暴君タイラント』にも通用するはずです」
どこでもメイド服のアノンが淡々と告げた。
対魔法の理解か。
それは身をもって知った。
エクトくんの戦闘を観ていたから、レヴァンくんの動きがエクトくんより明らかに良かったのだから。
おかげであっさりやられてしまったが、この際それはどうでもいい。
「『暴君タイラント』か。奴の魔女のスターエレメントの情報はあるか?」
全員に聞いたつもりだったがオープの「残念ながら特には」という言葉だけが返ってきた。
予想していたので特に驚きも落胆もしない。
このソルシエル・ウォーが設立されてからというもの、あのグランヴェルトが猛威を振るい、彼一人のために我々は全滅したのだ。
あのリリーザの希望だったシェムゾとグラーティアでさえも。
だからリリーザの人間が他の将軍たちの情報を知らないのは当然。
将軍らの実力も正確には解っていない。
だがあの過激な才能主義国家で有名なグランヴェルジュだ。
そんな国の将軍を務める彼らが弱いはずもない。
「さて、どうするか。相手の実力が未知数ではな」
「挑戦させましょう」
突如としてグラーティアの声が耳に響く。
ドアを開いて入室してきた軍服姿のグラーティアが、フレーネとアノンの間に立つ。
ドレス姿のフレーネ。
軍服姿のグラーティア。
メイド服のアノン。
なんとも異様な光景だったが、揃いもそろって美人なので目が覚める。
「来ていたのかグラーティア」
リリオデールが言ってグラーティアが頷く。
「はい。試合も拝見させていただきました。まさかあのレニーという子が四日で『魔法第二階層詞』を覚醒させてしまうとは思ってもいませんでしたよ。うちのシャルちゃんだったらもっと良かったのですが」
自分の記録を容易く越えられたというのにグラーティア本人は嬉しそうだった。
昔の彼女からは想像もできない姿だ。
「ふむ。それで勝てると思うか?」
「それは分かりません。ですが相手の指定ルールである2対1という条件を使わない手はありません。レヴァンくんとエクトくんの実力ならば、魔女のレベル差を埋め合わせることもできると思います。それに、彼らには作戦もあるとのこと。聞けばそれはこの2対1という条件が絶対条件です」
作戦、か。
昨日エクトくんから聞いたのを覚えている。
エクトくんの【サブ】である【アイスオーダー】というスナイパーライフルがまだ相手にバレてないとのこと。
確かに一昨日のソルシエル・ウォーでエクトくんは二丁のライフルしか使ってなかった。
これを利用してレヴァンくんが囮になり、エクトくんはやられた振りをして影に潜んで一撃必殺の狙撃を頭に叩き込むという作戦だったか。
「国王様。どうかお願い致します」
今度はアノンからの願いだった。
そしてフと気づく。
そういえば彼女の故郷は‥‥‥。
「リウプラングは私の故郷なのです。見せかけだけの占領とは言え、故郷の土の持ち主がリリーザではなくグランヴェルジュというのは正直イヤです」
アノンにしては珍しく感情をあらわにしている。
オープが彼女の背中を撫でて、こちらを見た。
「私からもどうかお願いします国王様。なに、レヴァンくんとエクトくんは本番には強い奴らです。なんとか勝ってくれるでしょう」
言われたリリオデールは溜めに溜めた息をドッと吐いた。
なんとか、ではダメだというのに‥‥‥。
しかし、これだけ言われてダメとは言えない。
ならば賭けてみるか、彼らの強さに。
「わかったよ。お前達がそこまで言うなら挑戦を許可しよう」
「「ありがとうございます国王様!」」
グラーティアとアノンがほぼ同時に言って頭を下げた。
リリオデールは「うむ」と言って「では」と続ける。
「レヴァンくん達への報告はオープにまかせる。リウプラングの宿泊先などもしっかり面倒を見るのだぞ」
「その辺は大丈夫です。リウプラングにある温泉旅館はアノンの実家です。そこへレヴァンくん達を宿泊させれば問題ありません」
「ならば話が早いな。頼むぞオープ」
「は! 了解です」




