第21話『レヴァンの決断』
「凄い!エクトくん勝ったよレヴァン! やったああ!」
シャルが喜び抱きついてくる。
俺はシャルを片手で抱き返し、共に歓喜した。
「ああ! ヒヤヒヤしたぜ! レニーもすげえな!」
まさか四日目でもう『魔法第二階層詩』を覚醒させてしまうとは。
レニーはリリーザで過去最速の覚醒をやってのけた魔女という箔がついたな。
少し心配なのは、これを見たシャルが変なプレッシャーを感じてしまわないかだ。
レニーに差をつけられてしまったなどと焦ったりしなければいいのだが。
「よぉ。なんとか勝ったぜ」
フィールドから降りてきたエクトがやや疲れ気味に言った。
やられた左腕はまだ回復していないようで、だらりと垂らしたままだ。
どのみち魔法でのダメージだ。
半日もすれば治るだろう。
「お疲れさん。レニー様様だなエクト」
「まぁな」
どこか満足そうにエクトは答えた。
「覚醒おめでとうレニー! 覚醒した時はどんな感じだったの?」
シャルがレニーに聞いた。
レニーは肩をすくめる。
「それが正直わからないの。気がついたら魔道書に『アイスシールド』の詩が浮かんでたわ」
「そっか。うーん、私も覚醒できるかな?」
案の定、シャルは少し気負っているような感じだった。
すかさず俺は口を挟む。
「焦んなよシャル。レニーはレニー。お前はお前だ。ちゃんと言っただろカバーしてやるって」
「ありがとうレヴァン。でもね、私も早くレヴァンの役に立ちたいんだよ」
「わかってるよ。お前はお前なりに必死になればいいんだ」
「私なりに、かぁ」
何故か悩み出すシャル。
必死になる方法でも思案してるのか?
「エクトくんレニーくん。おめでとう。素晴らしい結果を出したな」
向かいからやってきたリリオデール国王様が言った。
言われたエクトとレニーは小さくお辞儀する。
「お誉めに預り光栄です」
丁寧な口調でエクトが言って。
「こ、光栄です」
と、レニーが続いた。
「レニーくんの覚醒は見事だった。君はグラーティアの一ヶ月という記録を優に更新した。おめでとう。歴史に残る記録更新だ」
「い、いえ! そんな大袈裟な!」
国王様に誉められて顔を真っ赤にするレニー。
大袈裟でも何でもないくらい凄いことやったんだけどな。
「大袈裟なものか。実に誇らしい事だよレニーくん」
リリオデール国王様が言うと、その後ろからアノンさんがやってきた。
「そうですよレニーさん。同じ魔女として尊敬に値します」
「アノンさん!」
「『魔法第二階層詩』の覚醒おめでとうございます。あなた方の糧になれたことを光栄に思います。ご主人様は負けましたが、この結果ならば満足でしょう。それでは」
ペコリと頭を下げて、アノンさんは気絶したオープ先生の元へ駆け足で向かって行った。
「あ、アノンさん!」
レニーが呼ぶが行ってしまった。
すると、去ったアノンさんと入れ替えるようにフレーネ王妃がこちらにやってくる。
「おめでとうございますレニーさん。頼もしい魔女二人目が誕生しましたねあなた」
リリオデール国王様に向かって微笑むフレーネ王妃。
リリオデール国王様は嬉しそうに「そうだな」と頷いた。
「さぁレヴァンくん。シャルくん。次は我々の番だ。フィールドに上がりなさい」
俺とシャルは同時に「はい」と返事した。
※
【SBBS】のフィールドに立ち、俺はついにリリオデール国王様と向き合う形になった。
『高校生になってから四日目で国王様と勝負することになるなんて思わなかったねレヴァン』
リンクして俺の中にいるシャルが言った。
「確かに、そうだな」
改めて思い直すと、俺は今、一国の王と戦おうとしている。
普通に考えれば、一介の学生が相手してもらえるものではない。
「レヴァンくん。戦う前に一つ聞いてもいいかな?」
「なんでしょうか?」
「君はなぜ全国制覇を目指すのだ?」
「それは‥‥‥」
シャルと結婚するため。
たったそれだけの理由を、今ここで告げるのはさすがに恥ずかしい。
観客席には全学年の生徒たちが集合しているのだ。
迂闊に言えたものではない。
どうしたものか。
何か他にそれらしい理由を告げてやり過ごすか。
『レヴァンは私と結婚するために全国制覇を目指しているんです!』
シャルがハッキリとした良い声で答えた。
俺は凍った。
観客席で「えええっ!?」と驚愕の声が沸き起こる。
ついでにエクトの「あーあ」という声も聞こえた。
「結婚?」
『結婚?』
リリオデール国王様が怪訝な表情で、そしてフレーネ王妃も国王様の中で怪訝な声で聞き返して来た。
『ここリリーザは18歳まで結婚は禁止されてますよね?』
「うむ」
『だからレヴァンは全国制覇を達成させて、国王様に16歳での結婚を許可してもらおうとしてるんです』
「な、なんと‥‥‥それだけの」
『ステキな理由ですわ』
「フレーネは黙ってなさい」
『はいあなた』
「レヴァンくんよ。シャルくんの言っていることは本当なのか?」
「はい。本当です」
俺が頷くと、周りの観客席からヒューヒューと口笛を鳴らす者たちが現れた。
これは仕方がない。
恥ずかしげもなくシャルが盛大にバラしてくれたので逆にどうでもよくなった。
「それは18歳まで待つという訳にはいかんのか?」
『それは夢がないですわ』
「黙ってなさいフレーネ」
『はいあなた』
「それは負けた時で十分だと思ってます。俺は早くシャルと結婚して家族を持ちたい。父親になりたいんです」
「仕事はどうするのだ? 学年の、しかも16の身ではロクな収入もなかろう?」
「全国制覇の実績を立てれば王国の正騎士になれるのは知っています。正騎士ほどの栄職ならば、たとえ16の身でもシャルと子供たちを養っていけると考えています」
『レヴァン‥‥‥』
シャルが不思議な声音で俺の名を呟いている。
どうしたんだろう?
観客席のギャラリーも何故か静かになった。
『ただ家族が欲しいというのなら誰にでも出来ますが、立派ですよレヴァンさん。そこまでしっかり考えているのなら、あなたは良い父親になれるでしょう』
フレーネ王妃からお誉めの言葉を頂いた。
「ありがとうございます」
俺は姿こそ見えないフレーネ王妃に向けて言った。
するとリリオデール国王様が口を開いた。
「レヴァンくん。君の目的は良くわかった。だが、もう一つだけ」
「なんでしょうか?」
「もし今すぐシャルくんとの結婚を認め、正騎士への就職も許可してやろうと言ったらどうする?」
思わぬ質問だった。
俺の目的全てが達成される。
だけど。
「慎んでお断りします」
「なぜだ?」
「エクトを置いて、俺とシャルだけ先にゴールインなんてことはできません。エクトの目的を、俺は知っているので」
「レヴァンお前‥‥‥!」
エクトが驚きの声を上げている。
エクトの目的は家から自由になることだ。
全国制覇を達成しなければ、彼は父親との約束に負けて自由になれない。
それを知っている。
あのとき目的を聞いた以上、親友であるエクトを置いて自分だけ幸せになるわけにはいかないのだ。
「‥‥‥なるほど。どうあっても全国制覇を目指すというのだな?」
「はい。そのために、今日まで特訓を積み重ねてきました」
「いいだろう。覚悟はわかった。始めようかレヴァンくん」
「はい!」
俺と国王様は、互いに『魔女兵装』を召喚した。




