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『エクトVSオープ』3

 あのエクトが苦戦している。


 レニーにはその光景が信じられなかった。


 少し前までエクトの事を無敵の存在だと思い込んでいた。


あのレヴァンだってそうだ。


この二人は本当に強かったのだから。


初日はギュスタ先輩とシグリー先輩を圧倒し、一昨日のソルシエル・ウォーでは無双とも言える強さを発揮していた。


だから無敵に見えていた。

負ける気配さえなかったから。

でも今エクトはオープ先生とアノンさんに押されている。

いや、すでに追い詰められている。

 今までの相手が本当に弱かったということなのだろう。


あたしは今、何ができる?


このまま何もできないで見守ることしかできないのだろうか。

それではエクトに『魔女兵装ストレイガウェポン』を与えているだけで観客席で応援しているギャラリーと大差ない。

彼の魔女なのに、だ。


エクトには正直、失望されたくない。


彼に召喚されて四日目。

まだ四日しか一緒にいないのに、最近ずっと彼のことが頭から離れない。


これが恋だと言うのなら、自分のことをチョロイ女だと認めざる終えない。


でも、それでも、口こそ悪いけど自信に満ち溢れている彼をステキだと感じた心に嘘はない。


だから彼が負ける姿なんか見たくない。


彼に敗北を与える女になんかなりたくない。


彼に見損なわれたくない。


嫌われたくない!


冷えきっていた心の奥で熱が灯り、レニーの心臓がドクンと高鳴った。



オープ先生には位置がバレていた。

エクトがいま隠れている氷の結晶めがけてガトリングガンをひたすら乱射してくる。


その銃撃で氷の結晶が徐々に砕けてきている。

しかもいつ消えるかも分からない氷の結晶の壁だ。


他の結晶へ逃げようにもほとんど消えてしまっていて、近くの結晶まで距離がありすぎる事態になってしまっている。


そこへ逃げたとしても途中で蜂の巣にされて終わりだろう。


もはや迷っている時間はない。


ここで攻撃を仕掛けて決めるしかない。


だがソルシエル・ウォーのルール上、落とした武器を手元に召喚し直すのはルール違反だ。

これから仕掛ける攻撃は『ステラブルー』を犠牲にする。

この攻撃を行って仕留め損なえば、武器はいよいよ『アイスオーダー』のみになる。


だけど他に良い打開策が思い付かない。


エクトは意を決して『ステラブルー』の片割れを、結晶から飛び出すよう左方向へ投げた。

エクトが飛び出したと勘違いしたオープ先生は案の定『ステラブルー』に照準を合わせて銃撃する。


あとは懐に突っ込んで『魔女兵装ストレイガウェポン』を介さず、素手からのフリーズで決める。


今できる最大の攻撃を練り、エクトは結晶の右から飛び出した。

接近すればまた『アイスボール』とやらの餌食になってしまう可能性がある。


だがこの際、相討ちでも構わない。


「うおおらああああっ!」


吼えて突撃するエクトにオープが気づく。

脇がガラ空きだ。

これなら!


『『アイスブラスト』発射』


それは魔女アノンの冷静な声音だった。

オープ先生のガラ空きの脇から青い光が集合し、丸い光の玉になったかと思うと、レーザーのような太くて青い光の奔流へと姿を変えた。


マジかよっ!


避けられない、やられる!


相手との距離と『アイスブラスト』の速度で直感したエクトは、これまでかと歯を食い縛った。


『『アイスシールド』展開!』


それは予想外の声。

エクトの魔女レニーのものだった。


8個の氷の盾が正面に召喚され、エクトの前方を覆う。

密集した氷の盾は、飛来する『アイスブラスト』を見事に防いだ。


「な、あれは!」

『『魔法第二階層詩セカンドソール』!?』


オープ先生とアノンさんが驚愕した声を上げる。


この試合を見ているギャラリーたちも驚き叫ぶ。

レヴァンとシャルの声も、リリオデール国王様とフレーネ王妃の声も驚きに染まっている。


当のエクトは目の前に並ぶ氷の盾を、開いた口が塞がらない状態で眺めていた。


何が起きたのか、正直、理解が追いついていなかった。


『エクト! アノンさんが次の魔法を唱えるまで時間があるわ! 急いで!』


「っ!? ぁ、ああ!」


レニーに言われるがままエクトは駆け出していた。

レニーによって召喚されたらしい氷の盾たちがエクトの正面を守りながら追従する。


オープ先生のガトリングガンを全て防いでくれる氷の盾たち。

あれほど苦労したのに、今は容易くオープ先生に接近できた。


が、オープ先生も阿保ではない。

接近を許した途端にショットガンへと武装を変えて、エクトが氷の盾から身を晒すのを待ち構える。

おそらくオープ先生はエクトが右か左から飛び出してくると考えているはず。


でもこの至近距離ならば、たとえ狙えなくても外すことはない!


「レニー! 射線を開けろ!」


『了解!』


バッと、氷の盾が正面を守る陣形を崩した。

目前にはオープ先生が虚を突かれた顔で表れる。


エクトの右腕には残された最後の『魔女兵装ストレイガウェポン』スナイパーライフルの『アイスオーダー』が召喚される。


右腕に全力を注ぎ込み、長い銃身を持ち上げてトリガーを引いた。

『アイスオーダー』から青い閃光を纏った弾丸が発射された。

パワーが一点に凝縮された鋭い弾丸は、オープ先生の胸を一瞬で貫いた。


「はがっ!」

『ご主人様!』


貫通した胸から光の粒子が飛び散り、オープ先生は白目を剥いて倒れた。


そして間も無く光に包まれ【SBBS】によってエリア外へと弾き出される。


「し、試合終了! 勝者エクト&レニー!」


わああっと観客席で歓声が沸き起こった。

同時に【SBBS】のバリアも解除された。


それに習うようにレニーがエクトからリンクを解いて出てくる。


「レニー、お前」


「ふ、ふふ。ど、どうよ? あんたの言う通り守る魔法を覚えてあげたわ」


声が興奮して震えている。

どうやらレニー本人が一番驚いているようだ。

まさか四日で『魔法第二階層詩セカンドソール』を覚醒させてしまうとは。


「すげぇよお前。リリーザで歴代最速の覚醒だぞ」


「え? そうなの?」


「そうだよ。あのグラーティアさんだって『魔法第二階層詩セカンドソール』の覚醒には一ヶ月かかってんだ。お前たったの四日だぜ? マジですげぇよ」


「そ、そうなんだ」


実感が沸かないといった表情をしている。

なんにせよ、今回はレニーのおかげでオープ先生に勝てた。


「ありがとうなレニー。お前本当に良い仕事したぜ」


素直に感謝した。

当のレニーは、それこそ本当に嬉しそうに微笑み返してきた。


彼女はどこかホッとしているようにも見える。


「応えられて、本当に良かった‥‥‥」


そのレニーの小さな呟きをエクトは聞き逃さなかった。


こいつ、本当に必死になっていたんだな。


そう思うと、胸に手を当てて安堵しているレニーの姿が、妙に愛しく見えた。





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