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第２１１話【死線】続

　グランヴェルジュの主城ガーネディアが墜ちた。

　あの城が真紅の火柱に貫かれて地に没する光景を、俺はリコリスの手前で見てしまった。

「ガーネディアが……！」

　隣でシャルが口を両手で覆う。

　おそらく絶望してるであろうシャルの顔を見る気にはなれず、俺はただ……おそらく将軍たちが戦っているのであろうあの場所を眺めるしかなかった。

　あんな簡単にガーネディアが墜ちるなんて。

　これじゃリオヴァ城が来ても二の舞になってしまうのでは。

「ね、ねぇレヴァン。さっきのガーネディア……誰が動かしてたのかな？」

　震える声でシャルが俺に訪ねてくる。

　シャルの気持ちは察することができた。

　ガーネディアは墜落し、火柱のダメージで火の手が回り、黒煙を上げている。

　あれでは中にいた人間は助からない。

　もし将軍の誰かが中で操縦していたら。

　ノア将軍か？

　サイスか？

　ゴルトさんか？

「わからない」

　俺にはそれしか言えなかった。

　実際、これだけ離れていると城しか見えないのだから。

「エクトとレニーが心配だ。確認だけしてくる。シャルはここで──」

　言い欠けて、俺とシャルは大きな影に覆われた。

　上を見ればそれは天空を駆けるリオヴァ城の影だった。

※

「やべぇぞオイ……あのライオンのオッサン以外はやられちまった！」

『ガーネディアも、あんな簡単に墜ちるなんて……』

　グランヴェルトとジフトス達の戦いを少し離れたところで観戦していたエクトとレニーが、焦りと不安を混ぜた声を発する。

　予想外過ぎる展開と、グランヴェルトの圧倒的な実力を見せつけられて、畏怖さえ覚えてしまう。

　本当に将軍達が束になっても、全然相手になっていない。

　残りはジフトスだけ。

　このままじゃジフトスもやられてしまう。

　だが加勢したいのに、できない。

　まだリオヴァ城が到着していないし、何より通常兵器が手元にないのだ。

『ステラブルー』と『アイスオーダー』で加勢しても、おそらくなんの足しにもならないだろう。

　逆にジフトスの足を引っ張るだけだ。

　魔法の無力化……これほど厄介とは。

　グランヴェルトにじりじりと距離を詰められ、追い詰められていくジフトスの姿が目に映った。

　くそ！

　どうすりゃいいんだよ！

『エクト！　あたしのフルパーティーでジフトスさんを援護しましょう！』

「バカ言うな！　意味ねぇよそんなもん！　グランヴェルトに魔法は効かねぇって！」

『わかってるわよ。あたしのフルパーティーはあくまで目眩ましよ！　例の作戦をジフトスさん込みでやるのよ！』

　例の作戦……『氷魔法全同時詠唱《アイスソール・フルパーティー》』の弾幕に、通常兵器スナイパーライフルの実弾を紛れ込ませて狙撃するアレか。

　通常兵器での攻撃をジフトスに任せようって策か！

「なるほど。やってみる価値はあるかもな」

『急ぎましょう！　ジフトスさんがやられる前に！』

「おう！」

　エクトが草原を駆けようとしたその時、リオヴァ城の影が真上を通り過ぎて行った。

「っと、あれは！」

『リオヴァ城！　来たんだわ！』

　グランヴェルトの元へ飛行していくリオヴァ城から、何者かが飛び出してきた。

「エクトくん！」

　それは正騎士団の団長シェムゾだった。

　彼は実刀らしき獲物を腰に差しながら降下してくる。

　片手にはエクト用らしい黒い銃身のスナイパーライフルを持って。

　五十メートルは優にあった高さからの降下は、グラーティアの『エクスプロード』で落下速度を緩和させて、上手く着地して見せた。

「待たせたな！　これを！」

　スナイパーライフルを手渡され、殺傷能力のある武器の重さを感じる。

　ガーネディアが墜ちた今、もう恐いなど思ってはいられない。

「助かりましたシェムゾさん。でもガーネディアが」

「ああ、それはこちらでも確認した。あの巨大な火柱はグランヴェルトが放ったものだろう」

「はい。真下から射たれて呆気なく……このままだとリオヴァ城も二の舞に」

「大丈夫だエクトくん。あの城のバリアは上下が薄い。だからああする！」

　シェムゾが先を指差した。

　その指の先には、地上に着地したリオヴァ城が見えた。

※

　目前に迫るグランヴェルトに斬り伏せられる。

　そう覚悟していたジフトスだったが、それは幸運にもリオヴァ城の到着で難を逃れた。

「ガーネディアの次はリオヴァ城か。これは豪勢だな」

　グランヴェルトの視線はリオヴァ城へ向いた。

　攻撃対象から外れたジフトスはリオヴァ城を見やる。

　リオヴァ城は地上に着地し、その数ある大砲をグランヴェルトへ向けている。

『グランヴェルト！』

　リオヴァ城の拡声器からリリオデールの怒声が発せられた。

　呼ばれたグランヴェルトは鋭い眼光をリオヴァ城へと飛ばす。

『大陸を沈めるつもりだろうが、そうはいかんぞ！』

　その声が弾けると、リオヴァ城の城門が開いて中からリリーザの隊長らしき者たちとその部下らしき者たちが一斉に飛び出してきた。

　全員が通常兵器のライフルを装備している。

　歩兵と城との一斉射撃か！

『ダーリン下がって！　巻き込まれるわ！』

　レジェーナの助言にハッと我に返ったジフトスは慌ててグランヴェルトから離れた。

　が、その時は一瞬だった。

『『シュベルト・イグニション』！』

　それは炎の魔法『ソード・イグニション』の強化された魔法。

　そのルネシアの唱えと同時にグランヴェルトが銃剣を薙ぎ払う。

　振り抜かれた銃剣の刃から真紅の波が放たれた。

　それはまさに炎の波。

　あまりに早い振り抜きは炎の波を津波に変え、リリーザの騎士たちに烈火の如く襲いかかる。

　熱と激痛で悲鳴を上げていく騎士たち。

　遅れてリオヴァ城からの砲撃が一気に始まった。

　しかしその砲撃も、驚嘆すべき速度で動くグランヴェルトを捉えられず、しまいには城門を打ち破って内部への侵入を許してしまった。

「いかん！　リオヴァ城の内部へ！」

『待ってダーリン！　あっちにはあの『鬼神』がいるわ！　私達はベルエッタの救出をしないと！　あの子が死んじゃうわ！』

「ぐっ！　ええぃ！」

　グランヴェルトの追撃を諦め、ジフトスは炎の海になってしまっているガーネディアへ向かって走り出した。