『エクトVSオープ』2
まさかガトリングガン相手に正面から挑むことになろうとは。
こんなの馬鹿のすること。
しかし、今はその馬鹿を敢えてやらねばならない。
何せ身を隠す場所が一つもないからだ。
相手のオープ先生はかなり短期決戦を目論んでいるようである。
おそらく体力的な問題。
長期戦になれば、若者の方が有利なのをわかっているからだろう。
それにしてもやたら集弾性のいいガトリングガンだ。
隙をついて頭に一発ブチ込んでやろうかと考えてたが、これじゃ反撃がままならない。
オープ先生を中心に走り回っているが、少しズラして撃ってきているようで逃げられない。
なかなか良い精度で撃ってきやがる。
その上ついにアノンって魔女が魔法を放ってきやがった。
『そんな! いきなり『アイスレイン』なんて!』
「おいレニー。なんかオレを守る魔法の一つでも覚醒させろ。でなきゃ負けるぞ」
『えっ!? ちょ、なによそれ!? そんないきなり言われても!』
とりあえずレニーにはっぱを掛けておく。
シャルの言っていた事が正しければ、レニーを何かしら必死にさせておいて損はないだろう。
問題は、今のこの情況だ。
前からガトリングガン。
上からは氷結晶の雨。
これを同時にどう捌くか。
いや、捌くのは無理だな。
エクトはチラリと上から飛来する氷の
結晶群を見た。
「やってみるか」
エクトは一息吸って、一気に移動速度を上げた。
「ぬ、逃がさんぞ!」
オープ先生が駆けるエクトを追いかけるようにガトリングガンを乱射する。
いきなり速度を上げたおかげでオープ先生の弾幕から一瞬だけ抜け出すことができた。
その隙を逃さずエクトは『ステラブルー』を発砲。
青い光の弾丸がオープ先生の眉間めがけて強襲する。
『ご主人様!』
「おっと!」
エクトの放った弾丸を紙一重で避けたオープ先生。
エクトは舌打ちした。
当たっていれば決まってたのに。
だがおかげでさらに隙を作ることができた。
立て続けにエクトはライフルを撃つ。
狙った先は両方のガトリングガン。
左側に二発。
右側に二発。
「ぐっ!」
オープ先生が怯み、露骨に照準がズレた。
攻め込めるチャンスだったが、タイミングが悪かった。
例の『アイスレイン』がついに降り注いできた。
ホーミング性能があるらしく『アイスレイン』で生まれた氷の結晶群はエクトに向かって襲いかかる。
エクトは疾走し、一つ一つの結晶をギリギリで回避していく。
青い光の粒子をキラキラ散らしながら床に突き刺さっていく氷の結晶。
さすがの破壊力か、地面が揺れる。
転けそうになりながらも駆け抜け、エクトは氷の結晶群から逃げ続けた。
そしてようやく『アイスレイン』が止んだ。
オープ先生からの攻撃はない。
それもそうだ。
いまオープ先生は間違いなくこちらを見失っているはず。
床に突き刺さった氷の結晶が物影となって、エクトの身を隠す場所を作っているからだ。
「なるほど。そうきたか」
オープ先生が感心した声を出す。
エクトは壁と化した氷の結晶を使ってオープ先生に接近し、そして仕掛けた。
「この距離なら!」
奇襲のつもりだった。
けどオープ先生の目はこちらを捉えていた。
「迂闊だぞエクトくん!」
「っ!?」
飛び出したエクトに向かってオープ先生が片方のガトリングガンを投げてきた。
なんとか防御してやり過ごすものの。
「『アイスボール』」
唱えたオープ先生がエクトに向かって青い光の球体を三個投げつける。
それはエクトに当たると発光し、爆発にも似た衝撃波を生んだ。
「ぐあっ!」
『エクト!』
なんだこれは。
冷たい。
見れば防御した左腕が凍りついていた。
マジかよ。
ライフルごと凍らされた。
間も無くオープ先生の蹴りが飛んできた。
咄嗟に凍った左腕でガードしてしまい、蹴りを受けた左腕の氷がガラスの如く割れた。
同時に走る激痛。
「ぐああああっ!」
『エ、エクト!? 大丈夫エクト!?』
あまりの痛みに悲鳴を上げてしまった。
おかげでレニーが心底心配した声を出す。
「大丈夫じゃねぇよ」
エクトは素直に答えた。
現に激痛が走る左腕は動かなくなっていた。
ライフルも落として、右腕のみになる。
接近戦を仕掛けて手痛い反撃をもらってしまったな。
完全に己のミスだと反省する。
目前でオープ先生がガトリングガンからショットガンに武器をチェンジしているのに気がついた。
あれが【サブ】か!
ズドンという発射音が響き、身を翻して回避。
危うく散弾銃の餌食になるところだった。
またも氷の結晶を利用して身を隠す。
くそ。
本当に魔法が厄介だ。
しかも左腕をやられた。
どうする?
片腕では『アイスオーダー』も使えない。
いや、そもそもこんな至近距離じゃ使えない。
『ステラブルー』のライフル一丁ではガトリングガンの嵐を捌き切れない。
防御力も一気に低下させられた。
「手強いぜこれ。どうすっかな」
『ごめんエクト。あたし‥‥‥何も役に立てなくて』
「いや、これはオレがまだまだ未熟だからだ。気にすんな。お前はとにかく新しい魔法のことを考えてろ」
一方的に言い放った。
『考えてるわよ! 考えてるけど‥‥‥』
レニーは言葉を詰まらせた。
先の言葉は予想がつく。
どうすればいいかわからない、だ。
自分がどれだけレニーに無茶を言っているのかぐらい分かっている。
魔女になって四日目のやつに『魔法第二階層詩』を覚えろなんて無理難題にも程がある。
どんなに成長が早い魔女でも一ヶ月が過去最速なのは知っているからだ。
あのグラーティアというシャルの母が確か一ヶ月で『魔法第二階層詩』を覚醒させた最速の魔女だったはず。
リリーザで最強の魔女でさえ一ヶ月もかかるのに、レニーに四日でどうしろと言うのか。
それが理解できないエクトではなかった。
だから必死にはなってもらうが、当てにはしない。
ここは自分の実力だけで切り抜けねばならない。
いつかレニーが、自分に相応しい魔女となることを信じて。
エクトは『ステラブルー』の片割れを握りしめ、オープ先生の攻略を練った。
その攻略を急かすように、壁として利用していた氷の結晶が、一つ、また一つと光の粒子となって消えていく光景が見えた。
エクトは舌打ちではなく溜め息を吐いた。
次から次へとヤバくなっていくな。
この氷の結晶が無くなれば、またガトリングガンの猛攻に晒される。
しかも左腕が使い物にならなくなったこの状態ではガトリングガンの嵐を捌き切れない。
残された一本のライフルで、どう反撃するか。
こういう情況はもっとも実力が伸びる瞬間だ。
考えろ。
勝つ方法を。
こんな所で躓いてる場合じゃねぇだろう。
負けたら最悪だ。
世間はこう言うだろう。
『魔女が弱すぎた』と。
己の未熟を女の、しかも自分のパートナーのせいにされるのは我慢ならない。
この勝負は意地でも勝つ!




