第202話『別の大陸』
俺達は人気のないガーネディア内をヴィジュネールさんに案内された。
たどり着いたその場所は広く、そして異様に高い天井。
派手なシャンデリアが垂らされたここは『リオヴァ城』にもあったあの『大食堂』だ。
部屋の装飾はそこそこに。
長方形の大きなテーブルに並べられた料理群は彩り豊かで食欲をそそる。
美味そうな匂いを漂わせる料理群の奥には、一枚の大きな地図が飾られていた。
それ自体が壁とでも言うような一体感のある地図だったが、俺はその地図を凝視してしまった。
その地図には、今は無き二つの大陸が画かれていたのだ。
『悪魔のソールブレイバー』によって滅ぼされたと云われている二つの大陸。
この地図はどうやら、圧倒的に古い物のようである。
今どきの地図は全て、俺達がいるこの大陸しか画かれていない。
「なんでこんな古い地図が?」
俺が疑問を口にすると「気にいらんか?」と割り込んで来たグランヴェルトの声に虚を突かれた。
別の入口から入ってきたらしい長身の覇王は、その赤い長髪を揺らしながら俺を見て、地図に視線を移した。
「この城『ガーネディア』は三つの大陸の内の中央に位置するあの大陸で我々の先祖が造ったそうだ。あの『リオヴァ城』と呼ばれている城も同じくな」
「あの別の大陸で?」
「そうだ。この城に残されていた記録を頼りに解明された事実だ。『リオヴァ城』の本当の名が『エルオージュ』なのもそこから発覚している。あの国王もそれは知っているはずだ」
『ガーネディア』と『エルオージュ』。
『悪魔のソールブレイバー』を倒すために造られた城というのは知っていたが『リオヴァ城』の本名は知らなかった。
まさか『エルオージュ』なんて名前だとは。真相は分からないが。
「別の大陸にあった物が今ここにあるのは、やはり本当に『悪魔のソールブレイバー』が実在して、大陸を沈めたって事なんですか?」
レニーの問いにグランヴェルトは「その通りだ」と告げた。
言われたレニーは怪訝な表情で地図を再確認する。
シャルとエクトもまた同じく。
みんなやはり『悪魔のソールブレイバー』という存在に実感が沸かず、大陸を沈めたという脅威に嘘臭さを感じているようだ。
見たこともない大袈裟な伝説ほど疑ってしまうのは仕方ない。
俺も正直、この話はオープ先生に聞いただけで、おとぎ話的な軽い気持ちの認識がある。
「我々が産まれる遥か昔に『悪魔のソールブレイバー』という者は確かに存在したらしい。最初に現れたのはこの地図で最北の大陸だそうだ」
グランヴェルトがそう言って、俺は地図に視線を向けた。
最北の大陸……この三つ並んだ大陸の一番上の大陸を指しているみたいだ。
あの大陸から『悪魔のソールブレイバー』が誕生したというのか。
いったいなぜそんな戦士と魔女が産まれたのだろう?
俺は地図をよく見ると、その最北の大陸付近は淡い赤色で覆われていることに気づいた。
「なんであの大陸付近は赤く塗られているんですか?」
俺が聞くと、グランヴェルトは口を開いた。
「空気中に含まれる魔力濃度を表している」
「魔力濃度?」
初めて聞く単語に俺は小さく首を傾げた。
「リリーザの魔女とグランヴェルジュの魔女に差がついたのは、この魔力濃度が関係しているんだ」
「どういう事なんです?」
「我々の先祖はこの最北の大陸に住んでいたらしくてな。魔力濃度の高い大陸に住んでいた先祖の魔女たちは『スターエレメント』を覚醒させた。魔女たちの間で遺伝子の進化が起きたらしい」
空気中の魔力濃度による遺伝子の進化?
空気にそんなものが含まれてる事自体に驚きだ。
しかもまさか『スターエレメント』の正体が魔女の遺伝子進化だったとは。
リリーザに『スターエレメント』を持った『奇跡の魔女』がまったく産まれなかったのは、そういう理由があったからなのか。
「昔は『スターエレメント』を持った魔女など、それこそ数え切れないほどいたそうだ。今ではもう指折り数える程度しかいないがな」
そのグランヴェルトの言葉に、シャルの背後にいるリビエラとヴィジュネールが複雑そうな表情を浮かべているのが見えた。
どちらも子供を持つ身の魔女。
この『スターエレメント』については色々と思うところがあるのだろう。
「さて、せっかくの料理が冷めてしまうな。まずは食事にしよう」




