第20話『エクトVSオープ』
ついに放課後を迎えた。
指定された訓練コロシアムには、以前と同じように全学年の生徒たちがギャラリーとして集まっていた。
学内No.1ギュスタとNo.2シグリーの時の模擬戦もそうだったが、今回は学内どころか国王様が直々に戦うのだ。
ついでにオープ先生も。
これほどのビックイベントを前に生徒たちがおとなしく帰宅するはずなどなかった。
「あのレヴァンとエクトって1年は本当に凄いわね」
「そうだな。一昨日の試合で敵のエースをものともしてなかったし」
「でも今回はさすがにヤバいんじゃない? 国王様と、あのオープ先生って人が相手なんでしょ?」
「たしかにヤバそうだぜ。どっちも手練れだって話だしよ」
「手強いぞ! がんばれよ1年!」
あの時とは2~3年生の態度が違うな。
あの時は盛大に罵られていたが、今は応援してくれている。
シグリー先輩が言っていた通りだ。
みんな俺達を認めてくれている。
いつの間にか学校が居心地の良い場所へと変わっている。
「あ、姉さんたちも見に来てくれてる!」
【SBVS】のフィールド前に立つシャルがロシェルらの方へ向いて言う。
隣の俺もそこを見やるとギュスタ先輩とシグリー先輩そしてリエル先輩もいた。
ロシェルとリエルがシャルに応援のつもりか手を振っている。
シャルは一瞬戸惑った顔をして、すぐに照れくさそうに手を振り返した。
ロンティア家の三姉妹がこんなに仲良く手を振り合ってる姿は初めて見た。
あのソルシエル・ウォーの後からか、ずいぶんと仲直りしたようである
でも、同じ血を分け合った姉妹なのだ。
これが本当の姿なのだと思う。
するとロシェル先輩の隣にいるギュスタ先輩と目が合った。
彼は小さく手を上げてきた。
その仕草は「応援してるぞ」と言っている様な気がした。
俺も返事を返すように手を上げる。
「おい。来たぞ」
エクトがコロシアムの出入口を見ながら言った。
言われて視線を運べば、護衛を数名同行させたリリオデール国王様とフレーネ王妃の姿があった。
その横でオープ先生とアノンさんの姿も。
国王が御見えになった途端にコロシアム内は静まった。
「待たせたなレヴァンくんエクトくん。さぁさっそく始めようか。まずはオープとアノンくんペア対エクトくんとレニーくんペアで模擬戦をしてもらうぞ」
リリオデール国王様の言葉にエクトとレニーは同時に「はい」と返事をする。
オープ先生とアノンさんも「はい」と返した。
「じゃ、行ってくるぜ」
「負けんなよエクト」
「エクトくん!レニー!がんばってね!」
「ああ。行くぞレニー」
「う、うん」
相手が担当の先生だからか、やや緊張ぎみのレニー。
だがエクトに手を引かれ、なんとか一緒に歩いていく。
レニーが緊張していることにエクトは気づいていたようだ。
見ていないようで意外と見ている男である。
エクトに手を握られたからか、レニーの足取りが少し軽くなっている気がした。
二つのペアがフィールドに上がっていく姿を俺とシャル、そしてこの場に集まった生徒たちが見守る。
両方のペアがフィールドに上がると、別のクラスの先生が【SBVS】を起動させた。
バリアが展開されるが、フィールドはまた変わらなかった。
理由は聞かなくても分かるから今回は聞かない。
「手加減はできんぞエクトくん。お前さんは強いからな」
「いいですよ。手加減なんかされたらこの模擬戦に意味はないですからね」
「レニーさん。私の旦那様も本気でいくつもりらしいので、私も加減はしません。ですが、結果がどうであれ、この戦いをあなたの糧としてください」
「は、はい! そのつもりですアノンさん」
戦士同士と魔女同士の挨拶を終えて、両ペアはリンクする。
レニーはエクトに、アノンさんはオープ先生に粒子化して同化していく。
果たして、エクトはライフル二丁『ステラブルー』を召喚。
対するオープ先生は。
「うわ! レヴァンあれ!」
「これはまた凄い武器だな」
シャルと俺はオープ先生の『魔女兵装』を見て驚いた。
エクトはヒュ~と口笛を吹く。
観客席で見ている生徒たちもウオオッ!? と驚愕する。
オープ先生の両腕に装備された丸みのあるシルエット。
多数の銃口が並ぶその武器はまさにガトリングガンそのものだった。
右と左に装備されているためダブルガトリングガンになる。
それはオープ先生とアノンさんが【氷属性】である事を示す青の燐光を放っていた。
「良い趣味してますね先生」
エクトが笑って、オープ先生も「そうだろう」と笑う。
「ワシはお前さんと違って狙い撃つのが苦手でな」
「なるほど」
会話もほどほどに、エクトとオープ先生は試合開始の合図を待った。
【ソルシエル・ウォー】
〈バトル形式〉=シングル戦
〈戦場〉訓練用コロシアム
〈勝利条件〉敵チームの全滅
【エクト&レニー】VS【オープ&アノン】
【SBVS】のモニターに各形式が記された。
「ねぇねぇレヴァン。これ魔法を撃たれる前にガトリングガンでやられちゃうよ。エクトくんの武器はあのライフルとスナイパーライフルだけだし、手数が違いすぎる」
確かにシャルの言うとおり、手数はオープ先生が圧倒的になるだろう。
だがあのエクトが簡単に蜂の巣になるとは考えにくい。
しかしフィールドは遮蔽物が何もない平坦な床が広がるのみ。
弾幕が厚いであろう相手にこれはキツイ。
俺はエクトがある芸当をこなせるのを知っているが、ガトリングガンが相手ではそれが光るかどうか。
「エクトを信じて見守るしかないだろう。俺達は」
それだけシャルに言い返して、俺は試合の始まりを待った。
「それでは試合の合図を。戦闘――」
他クラスの先生が手をまっすぐ上げる。
エクトとオープ先生の眼が本気のものに変貌する。
俺を含めた全員が息を呑んだ。
「――開始!」
刹那、オープ先生のガトリングガンが回転し、青の光を帯びた弾丸が乱射された。
容赦のない先手の弾幕だ。
エクトはそれを右回りに走りながら銃身ではじき、また自ら撃って相手の弾丸を撃ち落とし、ガトリングガンの猛攻を凌ぐ。
「うわ! すげぇ!」
「あの弾丸の嵐に耐えてる!」
「お坊っちゃんやっぱスゲェよ!」
ギャラリーがエクトの防御力に驚愕している。
それもそのはずで、弾丸を防げない戦士ならこれだけでアウトだったろう。
「やっぱりエクトくん凄い! あれ被弾する弾だけ狙って撃ち落としたりはじいたりしてるの?」
「ああそうだ。余計な弾は無視してる。じゃないと対応できないからな」
説明してから俺は思った。
これはマズイ、と。
「これ、エクトくん凌いでるのは凄いけど、反撃できるの?」
さすがのシャルも気づいたようだ。
そうだ。
エクトはいま防御で精一杯になっている。
この止まないガトリングガンの嵐に、さらにアノンさんの魔法が重ねられたらもはや反撃どころではない。
さらに残念な事に『魔女兵装』というものは弾切れという概念がない。
つまりこのガトリングガンの嵐は文字通り止まないのだ。
俺なら何とか斬り込んで打破を目指すが、エクトならどうする?
ガトリングガンは強力だが、懐に入りさえすれば無力化できる。
懐に入れればだが、それができればエクトの蹴りでオープ先生を攻撃できる。
「やはり君は強いなエクトくん。こんな隠れる場所もないフィールドでワシのガトリングをこうも凌ぐとは。だがこれはソルシエル・ウォー。この魔法とのコンボに耐えられるかな?」
『詠唱完了です。ご主人様』
アノンの声が不吉に響く。
「うむ。『アイスレイン』発動!」
ガトリングガンを撃ちながら唱えたオープ。
彼の頭上。
それもかなりの高度から青い光が花火のように散った。
その散った光から生まれたのは氷の結晶。
一個や二個ではない。
優に三十はある氷の結晶群が、ガトリングガンの猛攻を受けているエクトに向かって一気に押し寄せてくる。
それはまさに隕石が降ってくるような恐ろし光景に見えた。
「シャルあれは!?」
「『アイスレイン』。氷の『最上階層詩』だよ!」
まさか、いきなり最高レベルの魔法を放つとは。
前からはガトリングガンの嵐。
上からは氷の結晶群が迫る。
ダメだ。
これは避けきれない。
どうするエクト!?




