第196話『覇王からの誘い』
リオヴァ城内にあるリリオデール国王様の自室に俺とシャルは招かれた。
理由はもちろん、グランヴェルトとの通話である。
シャルとフレーネ王妃、そしてリリオデール国王様が見守る中、俺はグランヴェルトへ国際電話を通す。
そしてそれはあっという間に繋がった。
「夜分遅くに失礼します。リリーザ王国正騎士団団員レヴァン・イクゼスです」
『グランヴェルトだ。即日に電話とは、想像以上に早かったな。三日もいらなんだか?』
受話器の向こうから聴こえてくる余裕たっぷりのトボケた声。
深夜にも関わらず、すぐに電話を受け付けたグランヴェルトが「想像以上に早かったな」などと言っても嘘に聞こえる。
電話をかけて覇王本人がいきなり出てきたのも変な話だ。
まるで俺からすぐに返事が来ることを察していたようである。
それとも、単に楽しみに待っているからこその行動力か。
「あなたの演説のおかげでリリーザ全体がパニックになりかけましたからね」
俺は皮肉を込めてグランヴェルトにそう切り返した。
俺とシャルの出撃をリリーザへ報道したから今は落ち着いているが、市民たちが一時的にパニックになったのは事実だ。
「それは結構な事だ」
「結構じゃないでしょう? 市民を恐怖へ陥れるのは許される事じゃない」
「面白い事を言う。皇帝たるこの俺が、誰の許しを得る必要がある?」
「……」
強引だが確かにと思ってしまう返しに俺は黙らざるを得なかった。
そもそもの話、このグランヴェルトという男が下々の人間の言葉に耳を傾けるタイプには見えない。
「ふ……さて、例の件の答えを聞こうか?」
「挑戦は俺とシャルが受けて立ちます。だから下手な戦争行為は止めてもらいたい」
「いいだろう。挑戦さえ受けてくれるのなら手は出さん。約束しよう」
「では決戦はいつ頃に?」
『そう慌てるなレヴァン。俺はお前と戦いたい。だがゆっくり話もしてみたいのだ』
「話?」
『そうだ。シェムゾを越えたお前とならばその価値はある。我が城ガーネディアへお前とシャル・ロンティアを招待しよう。美味い食事も用意させる。どうだ?』
……シャルとのディナーが出来なかったのに、その出来なかった原因の男からディナーの誘いが来た。
なんだこれ?
こちとらお前のせいでシャルを高級レストランへ連れて行ってやれなかったんだぞこの野郎。
しかもキャンセル料まで取られたんだぞ。
お前が払えよこの野郎。って言いたい。
いや、そもそも。
「あなたの意図が読めません。今さら俺とシャルに何を話す必要があるんです?」
『ここまで勝ち上がったお前とシャル・ロンティアへの祝い。それと俺の魔女ルネシアの『スターエレメント』について少々教えてやろうかと思ってな』
この男、自分の手の内を晒すというのか!?
『『カオス・インフィニティ』。それが俺のルネシアの『スターエレメント』の名だ』
「!?」
何の躊躇いもなく『スターエレメント』の名を暴露してきた。
しかもインフィニティという無限の意味を持つシャルの『ゼロ・インフィニティ』とそっくりな『スターエレメント』の名である。
『秩序無き無限の魔力を持つ二人の魔女。その二人がぶつかる事になる今回の決戦は『ガーネディア』と『リオヴァ城』の存在も不可欠だ。その事も含め、お前たちとゆっくり話がしたい』
……わからない。
いったいどういう事なんだ?
なんで『ガーネディア』と『リオヴァ城』まで必要になる?
なんでまた……いや、それを教えるから食事でもしながら話そうと言うことか。
「わかりました。そちらの御誘い受けさせて頂きます」
『よし。ならばノア将軍と魔女リビエラを迎えに寄こそう。二人の案内に従ってくれればいい』
よりによってノア将軍か。
気まずいな。せめてリビエラさんだけか、ベルエッタさん辺りでも良かったのに。ヴィジュネールさんとかゴルトさんとか。
『明後日に迎えを寄こす。以上だ』
一方的に言い放ってグランヴェルトは通話を切ってきた。
勝手な男である。
俺は溜め息を吐いてから受話器の置いた。
「どうだったのレヴァン?」
シャルに聞かれて俺は赤い髪に覆われた頭を掻いた。
「グランヴェルトが俺達と戦う前に食事をしながら話がしたいそうだ。明後日にはノア将軍とリビエラさんが迎えにくるって」
「え? なにそれ?」
シャルの目が点になってる。
無理もないか。
「どういう事だねレヴァンよ」
リリオデール国王が怪訝な顔つきで聞いてくるので、フレーネ王妃共々説明する。
すると『ガーネディア』と『リオヴァ城』の話に二人が顔つきを険しくした。
理由は分からないが、王族しか知らない城の秘密でもあるのだろうか。
シャルの『ゼロ・インフィニティ』。
ルネシアの『カオス・インフィニティ』。
『ガーネディア』と『リオヴァ城』。
グランヴェルトがそれらについて何を知っているのか?
全ては明後日。
話を聞くしかない。
「私あのルネシアさんって人、ちょっと苦手なんだよねぇ」
珍しくシャルがぼやいてる。
意外だったので「そうなのか?」と返した。
「うん。でもまぁ、リビエラさんとまた会えるならいいや」
 




