表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
221/255

第189話『激闘』

 鍔迫り合いも束の間。

 互いを弾き飛ばし、両者後ろへスライドする。

 靴底で床を踏ん張りスライドの勢いを止めた。


 開幕の挨拶は済んだ。

 仕切り直すように俺は『グレンハザード』を一振りすると、対するシェムゾも二本の直剣を振り下ろす。


 遠慮は無用!

 この戦いで全て出し切る!


 俺は全身に力を込めて闘気を高めた。

 業火の如く青いオーラが全身から噴き出し始めた。

 対するシェムゾも青いオーラを解き放つ。

 周りのギャラリーが「おぉ!?」と驚愕してざわつく。


 二つのオーラが空気を震えさせる中、俺は床を踏み込んだ。

 

 ッドッパァアンッ!


 轟音を炸裂させ、刹那に加速する。

 深紅の燐光と青きオーラを纏った『グレンハザード』の一閃。

 すれ違い様に薙ぎ払う銃剣の一撃は、雷の如きシェムゾの斬撃によって捌かれた。


 そのままシェムゾが反撃に転ずる。

 二本の直剣がまさに鬼の爪と化し、白銀の斬撃を無数に迸らせてきた。


 俺は両手持ちにした『グレンハザード』で的確に直撃コースの斬撃を捌いていく。

 捌き切れない掠りコースの斬撃は無視していく。

 最低限の防御なため、斬撃が俺の肩・腕・足・脇など掠めて光を散らせていく。

 ピリピリと痛みが走るが、それさえも無視する。


『レヴァン! 『グレンハザード』じゃ手数で追い付かないよ! 『ブレイズティアー』に変えて!』

「いや、これでいい!」

『ええ!?』


 シャルの助言を流し、俺は後ろに飛んでシェムゾの間合い

から離れた。

 だが間もなく攻めてくるシェムゾの一閃をかわし、俺は次いで上空へと飛ぶ。


 果たして落下し、その落下速度を活かした『グレンハザード』の超重量の一撃をシェムゾに叩き落とす。


「ぅおおおおおおおおおおおお!」


 雄叫び上げた俺の渾身の一撃。

 シェムゾは二本の直剣を交差させ、それを見事に防御してみせる。

 上空からの一撃を受け止めた衝撃波がシェムゾの周囲に発生し、それは再度バリアを叩いて振動させた。



 レヴァンとシェムゾの戦いで生じた衝撃波がバリアを激しく振動させてきた。

 エクトの周りにいる観客達が悲鳴と驚愕の入り雑じった声を沸き上げる。

 子連れの親は子供を庇うように抱きしめ、カップルは男が女を庇う。泣き出す子供までいて、慌てて観戦をやめて出ていく観客も何人か出てきた。


「す、凄い戦い……」


 隣のレニーがエクトの腕を掴みながら冷や汗を流している。

 さすがに魔法ではない衝撃波でのバリア振動は恐ろしかったようだ。


「あぁ……本気のどつき合いだな」


 他の観客達も大袈裟に驚いているが、きっとみんなレニーと同じなのだろう。

 魔法もないのにこれほどバリアを揺さぶる戦いを誰が想像しただろうか。

 もっと地味な戦いになると油断していたに違いない。


「ね、ねぇ。レヴァンはなんで『ブレイズティアー』を使わないの?」


 そんな疑問を投げ掛けてきたのはリエル・ロンティアだった。

 彼女の周りにはシグリーとギュスタ、ロシェルもいる。

 彼女らもレヴァンの応援に駆けつけ、ここ観客席でエクトらと出会い、こうして一緒に観戦しているわけだが。


「私もそれが気になってたわ。二刀流には二刀流で対応した方が良いんじゃないの?」


 ロシェルが腰に手を当てて怪訝な顔をする。

 エクトはロシェルを一度だけ見て、レヴァンとシェムゾが映るモニターに目を戻した。


「たぶん、フェアに勝ちたいんだろ」


 エクトの答えにレニー・ロシェル・リエルが「フェア?」と視線を向けてくる。エクトは構わず続けた。


「シェムゾさんのサブウェポンは『シールド』と『ライフル』なんだ。魔法が禁止されてる今回のソルシエル・ウォーじゃ銃は使えない。シェムゾさんはメインウェポンであるあの二本の『ソード』しか使えないんだよ」

「まさか、ウェポンシフトをしない事でフェアに勝つってことなの!?」


 ロシェルが驚き、エクトは「そうだろうな」と腕を組む。


「銃としても剣としても使えるレヴァンの『バイアネット』はこんな時に融通が利いて有利なんだがな。その利点を自ら潰してやがる。まぁ、ウェポンシフトを相手がしないならこっちもしない。一番得意な武器で勝つって事だろ」


 一人の戦士として、レヴァンの気持ちは痛いほど分かる。

 それはエクトだけでない。

 先ほどから黙って観戦しているギュスタとシグリーも、きっとレヴァンに共感しているはずだ。


 お互いに『一番得意な武器で戦う』。

 戦士VS戦士において、それこそが同じ土俵に立つという事でもあり、正々堂々の真っ向勝負になる。


 そしてその上で『俺の方が強い』と認めさせるのだ。

 磨き上げた技術と築き上げた意地とプライド。

 男とは──戦士とは基本的に勝つことに命を賭けている存在。

 そう言ってしまっても過言ではない。

 

 しかし魔女の女性陣にはいまいち共感してもらえてないようで。


「少しでも有利ならそこを突いて攻めるべきなんじゃ……」

「そうね。レヴァンくん少しずつダメージ受けてるし」

「カッコつけてる場合じゃないでしょう。勝たなきゃ将来を棒に振るってのに」


 レニー・ロシェル・リエルの順で口々に呟いている。

 女性にはやはり理解し辛いのだろう。

 女性は基本的にみな現実的だ。

 だが、それでいい。

 だからこそ男が爆走できることもあるのだから。



「うぉおおおおああああ───────────!」

「はぁああああああああ───────────!」


 全能力を解放して、剣撃の応酬が激しさを増していく。

 俺とシェムゾの速すぎる剣閃がついに深紅と白銀の光へと進化した。


 加速は止まらない。

 高速から音速へ。

 音速から神速へ。


 深紅と白銀。

 二つの雷の如き斬撃が多段にクロスし、星屑にも似た粒子を撒き散らす。


 俺の視界が白熱し、もはやシェムゾしか見えない。

 全神経が燃え上がるような高揚感に包まれる。

 闘争心が加熱していく。


 シェムゾの斬撃が、最低限の防御しかしていない俺を徐々に追い詰めていく。

 このままでは、こちらが先に力尽きてしまう。


 そして俺はふと気づいた。

 なぜ俺は最低限の防御などしているのだろう、と。

『グレンハザード』のような超重量武器にチマチマした小技など無用。

 その重さを活かした一撃必殺の攻撃を繰り出すべきなのだ。


 こんなところでチマチマ防御してて『グレンハザード』の攻撃力を活かせないのは愚の骨頂。  

 いや、そもそもそれこそがシェムゾの狙いだったとしたら、俺はまんまとハメられていたということになる。


 良い具合に削られてしまったが、もういい!

 防御など捨てろ!

 傷つく事を恐れてシャルと子供の未来を守れるものか!

 肉を切らせ骨を断つ!


「──ぁぁああああああああああああああああ!」


 全てを出し切るための咆哮。

 俺は剣の結界とも呼べるシェムゾの剣舞に『グレンハザード』を両手に突撃した。


 白銀の斬撃が俺に降り掛かる。

 肩に直撃、次いで脇を一閃され、刹那に片目を切り抜かれた。

 視界が狭まり激痛が走る!


「ぐ……ぁっ!」

『レヴァンッ!』


 止まるな俺!

 止まったら負ける!

 死ぬ気で踏み込めええええええええええええええっ!

 

「はああああああああああああああああああああああ!」


 シャルと子供の未来を脳裏に浮かべ、それを糧に全力の一撃を叩き込む。

 対するシェムゾの目が大きく見開かれた。


 刹那──すれ違い、次の瞬間には俺は十字斬りを胸にくらっていた。

 血が噴き出すかのように光の粒子が舞う。


「ぐっ! がはぁっ!」

『レヴァン!』


 意識が飛びそうになる激痛に、俺はついに膝をついてしまった。


「────……強くなったな、レヴァン」


 背後で、シェムゾがぽそりと呟いた。

 彼の鎧が轟音を立てて破砕する。

 次いで肩口から脇腹へと切り抜かれた斬撃の痕から光の粒子がしぶきを上げた。


 二本の直剣を落とし、膝をつき、シェムゾはついに倒れた。

 

『──おめでとうレヴァンくん。合格よ』


 グラーティアの声を最後に、シェムゾは【SBVS】によって光となって消えた。


 ──勝った……シェムゾさんに、やっと……。


『試験終了! 勝者レヴァン・イグセス!』


 フィールドのバリアが弾け、観客達からの大喝采が沸き起こった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ