第187話『お披露目の二人』
翌日。
『首都エメラルドフェル』のほぼ中心にある『コロシアム』は、 軽く千を越える観客達の活気に満ちていた。
皆がみな『レヴァン』VS『シェムゾ』の戦いを観ようと集まった人達だ。
朝一に報道された『レヴァン・イグセス』『シャル・ロンティア』『正騎士団入団試験を受ける!』『昼の12時に開始!』
というキーワードは瞬く間に人を集め、現在に至る。
「凄い賑わいだな」
『コロシアム』の出入口を前にした俺は、左右に展開したお祭り騒ぎの観客達を見ながら言った。
手を繋ぎながら隣を歩くシャルがふんふんと頷く。
「なんか試験って雰囲気が無くなっちゃってるね」
「確かにな」
俺は苦笑しつつ、それでもこの賑わいは仕方ないとも思った。
今回のこのソルシエル・ウォーは試験だが、同時に『リリーザ最強の戦士』が新たに決まる戦いでもあるのだ。
むしろ事の内情を知らない観客達にすれば『リリーザ最強の戦士』の座を俺が奪えるかどうか。
そっちがメインで観戦に来てるはず。
朝一の報道にも関わらずこれだけの観客が『コロシアム』に訪れたのは、今日が平日ではなく休日というのが大きいだろう。
現にお子さん連れの男女が多い。
どこを見ても家族だらけ。
子供を中心にしてお父さんとお母さんが左右で手を繋ぎ、幸せそうに子供がはしゃいでいる。
父親に肩車をしてもらい喜ぶ子供の姿もあった。
それを見て笑う母親の姿も。
見ているだけで微笑ましい。
俺とシャルが目指すべき家族の姿がそこにある。
そんな気がした。
あの幸せそうな一家達をグランヴェルトから守るためにも、シェムゾさんに勝って正騎士団に入団せねば。
決意を新たにし、俺はシャルを連れて控え室へと向かった。
※
控え室は『コロシアム』の中央にある『フィールド』に面した小さな部屋だ。
正騎士団の人間に控え室前まで案内され、俺とシャルは礼を言ってから控え室の中へと入った。
するとそこには、ずっと苦楽を共にしてきた二人がいた。
「よう、待ってたぜ」
「応援に来たわよ二人とも」
エクトとレニー。
二人の出迎えに喜びもあったが、それよりもその二人の格好に俺とシャルは釘付けになる。
エクトは青のネクタイをきっちり巻き、黒のビジネススーツを隙なく着こなしている。
その姿は昨日の学生服を着ていたエクトとはまるで違う、社会人になったエクトそのものだった。
レニーもジャケットにタイトスカートという黒のビジネススーツをかっちり身に纏い、16歳の幼さを感じさせず、大企業の秘書然とした大人の雰囲気を醸し出している。
「お前らその格好!」
「わ、かっこいい!」
俺とシャルが声を上げると、エクトがスーツのポケットに手を突っ込んだ。
「ああ、オレの母さんがオーダーしといてくれたみたいでな。せっかくだから着て来てやったぜ」
「応援ついでにレヴァンとシャルにお披露目しとこうと思ったの」
「そうなんだ。レニーもエクトくんもメチャクチャ似合ってるよ! 凄い大人に見えるよねレヴァン?」
「おお、ホントにびっくりだ。レニーはともかくエクトにスーツが似合うとは思ってなかった」
「殴るぞテメェ」
「悪い悪い。悔しいけどカッコいいぜエクト。先に大人になられた気分だ」
「お前もすぐ服変わるだろ。この試験に受かったら正騎士団の制服が支給されるんだからよ」
「そうだな。その時はみんなで写真撮ろうぜ」
「いいねそれ! みんなで大人になった記念に!」
みんなで笑い合っていると、外から聴こえる歓声に混じり、試験開始を告げるアナウンスが響いてきた。
同時に、エクトが俺を見てきた。
見返して、俺はエクトと拳を付き合わせる。
「ここまで来てしくじるんじゃねぇぞ?」
「わかってる」
拳を離し、俺はシャルと共に四角い光の中へと歩き出した。




