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第18話『国王と教師』

大食堂に戻ると、そこにはグラーティア、エクトとレニー、そして探すつもりだったリリオデール国王様がいた。

ついでと言わんばかりにオープ先生もいる。


「国王様!」


「おおレヴァンくん! どうだパーティーは楽しんでいるか?」


「あ、はい。おかげさまで。あの、実は話がありまして」


「ああ。エクトくんから聞いたよ。『暴君タイラント』の挑戦を受けたいと言うのだろう?」


「はい! シグリー先輩とディオネ先輩の保険も頂いております。どうかお願いします!」


「駄目だ」


見事なほどあっさりと、それでいて厳格な言葉でリリオデール国王様は切り捨ててきた。

胸の奥に燻っていた熱が、一気に冷やされる感覚を覚えて戸惑ってしまう。


「ど、どうしてですか?」


俺は聞いた。


「エクトくんにも言ったが、保険がどうなどという話ではない。お前たち二人が、リリーザの民たちに『負ける姿を晒す』ことが問題なのだ」


俺たちの負ける姿?


俺はエクトと顔を見合わせた。

リリオデール国王様は続ける。


「よいか。今のお前たちはすでに大勢の人間の期待を背負っている。これに応える義務はないが、責任はある」


想像外の言葉に俺は胸を突き刺された。

隣でエクトも息を詰まらせる気配を見せる。


「リリーザのトップであるお前たちが誰かに負けてしまえば、また市民たちが絶望する。それは『リリーザの悲劇』の再来となるだろう」


リリオデール国王様がそう言うと、オープとグラーティアも虚をつかれたという目を彼に向けた。


「トップに立った以上、トップとしての責任と自覚を持ちなさい。格上の相手に挑んで悪戯に参加権を失う愚行はいかん」


「トップとしてリリーザを守るという責任は理解しています。でも、だからこそ領土を取り戻すために戦うのもトップの責任だと思います」


まっすぐに見つめて俺は言った。

正論をぶつけたつもりだったが、リリオデール国王様は揺るがなかった。


「仮に『暴君タイラント』に挑んで負けた場合、君はなんと言って市民たちに詫びるつもりだ?」


無防備なところを突かれた俺は「それは‥‥‥」と先の言葉を見失ってしまった。

負ける前提で話を進められているのが悔しいが、反論できるものでもなかった。

絶対に勝てる戦いなどないのだが、今はその絶対に勝てるという証明が必要な時なのだろう。

現に、あのエクトでさえそれを証明できずに押し黙っているほどだ。


「すまんな。全国制覇を目指すくらいだ。君たちにも目的があるのだとは思っている。だが今は力を蓄えなさい。グランヴェルジュの将軍に挑むのは早すぎる」


万事休す、か。


『暴君タイラント』を倒すための戦略も立ててはあったが『トップの責任』などという重いものを覆せるものではない。


「待ってくださいリリオデール国王様!」


慌てて前に出たのはシャルだった。


「レヴァンとエクトくんが『暴君タイラント』に勝てないと仰るのは、私とレニーの魔女としての未熟が原因で仰っているのですよね?」


リリオデール国王様は特に答えなかった。

魔女として未熟なのは当然の理由だが、シャルとレニーがまだ魔女になって三日目という事実もあるから答えられなかったのだろう。

シャルは構わず続けた。


「私とレニーは少しでも早く力をつけるためにお母さ‥‥‥グラーティア・ロンティアに指導をお願いすることを決めました」


シャルの言葉にグラーティアが驚いた顔をする。


「だから、その、私とレニーはがんばりますから、どうかレヴァンとエクトくんに『暴君タイラント』への挑戦を許可してください!」


「落ち着きたまえ。筋が通っておらん。グラーティアを指導者にするのはもちろん構わん。だが彼女の指導ですぐに強くなれるわけではないだろう?」


「そ、そうですけど」


ついにシャルも言葉を失いかけたその時、グラーティアがシャルの隣に立った。


「国王様。魔女の成長は、自分より格上の魔女を相手にした時の方が早いと研究結果が出ています」


「グラーティアよ。まさかお前まで彼らに『暴君タイラント』の挑戦を許可しろと申すのか?」


「いえ。まずはリリオデール国王様とオープ先生さんを相手に勝負して貰う方が彼らのためかと」


俺と、そしてこの場にいる全員がグラーティアの言ったことに理解が追いつかなかった。


「私とオープがレヴァンくんたちと勝負するというのか?」


「はい。お二人の魔女であるフレーネ王妃様とアノン・トスターは『魔法最上階層詩ラストソール』まで詠める最大レベルの魔女。若い魔女二人を早期強化するにはもってこいの相手です」


「ふむ」


「それと、この勝負を通して国王様は彼らの実力を計ることができます。国王様が納得された場合は『暴君タイラント』の挑戦を考えてあげてもよろしいのではないかと」


「なるほど。いいだろう。明日『魔女契約者高等学校ブレイバーズガーデン』の訓練用コロシアムで私とレヴァンくん。オープとエクトくんの各シングル戦を行う。良いな」


こうして、俺達はまさかの国王様と自分のクラスの担任と明日勝負することになった。




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