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第175話『兄妹の城での再開』

 グランヴェルトの居城『ガーネディア』に着いた。

 やはり何度見ても、この城の形状はリリーザの『リオヴァ城』と似ている。

 色が違うだけで、その殆んどがそっくりなのだ。

 

 虹色を帯びた白銀の装甲は同じ。

 あちこちの胸壁に潜む大型の大砲もまた同じだ。 

 城というより城塞という点も似ている。

 唯一ちがうのは紅く尖った屋根のみ。 

 

「やっと来たか。『鬼神』と『負け犬』」


 失礼な物言いでグラーティアとシェムゾを迎えたのは、例のグランヴェルトの魔女ルネシア・テラだった。

 腰までかかった金髪をなびかせながら城の門前で立っていた。

 門番らしい兵士二人も同じく立っている。

 軍服姿で腕を組む彼女を見て、グラーティアは小さく笑った。


「あなた自らお出迎えなのねルネシア」

「ふん……グランヴェルト様のご命令とあらば仕方ない。ついてこい。グランヴェルト様が御待ちだ」


 相変わらず愛想の悪いルネシアは踵を返し、兵士に指示を出して門を開かせた。



 城内に入り、赤い絨毯を敷かれた廊下を歩く。

 ルネシアの後をシェムゾと追う中、グラーティアは内装を横目で確認しながら歩を進めていた。


 やはり似ているどころか同じだ。

 リリーザにある『リオヴァ城』と。


『リオヴァ城』は過去の先祖達が『悪魔のソールブレイバー』に対抗するために作られた兵器のはず。

 それがなぜ二つも存在するのか?

 なぜ『リリーザ』と『グランヴェルジュ』に一つずつあるのか?


 その理由を、私はまだ知らない。 



 兵士が一人もいないガランとした玉座の間にグランヴェルトはいた。

 ルネシアの案内でついたその場所で、玉座に腰掛けるグランヴェルトの姿がある。


「よく来てくれた。御足労には感謝しよう」


 あのレヴァンと同じく真っ赤な長髪を揺らし、そして立ち上がって来たグランヴェルト。

 彼の隣に先程のルネシアが立つ。


「ルネシア。御苦労だった」

「はっ!」


 一礼して答えるルネシアを横切り、グランヴェルトはシェムゾとグラーティアの前まで来た。


「帰国した気分はどうだグラーティア?」

「べつに」


 特に感想はないから、そのまま返した。

 グランヴェルトはフと笑って、言葉を続けた。


「薄々わかっているだろうが、お前達を呼んだのは他でもないレヴァン・イグゼスとシャル・ロンティアとの決戦までの打ち合わせだ」

「やはりそうでしたか」っとシェムゾ。

 グラーティアも同じ感想を抱いた。


「シェムゾ、お前の鍛練のおかげでレヴァン・イグゼスは随分と成長していたな。あれには感服したぞ。この短期間であそこまで奴を伸ばすとはな」

「あれはレヴァン自身の真剣さが生み出した結果です。俺やあなたを越えるのはもう目前でしょう」

「それは結構。我々はレヴァン・イグゼスとシャル・ロンティアの完成に決戦の日を合わせてやる。しかし問題はシャル・ロンティアの方だが……グラーティア?」


 呼ばれてグラーティアは兄だったグランヴェルトを見返し、口を開いた。


「あの子ならレニー・エスティマールに指導を任せてあるわ。私の出る幕はもうないから」

「ほう? 身の程を弁えるとは、お前らしくないな」

「そうね」


 自分でもそう思うから肯定した。

 その返答に、少し虚を突かれた顔をグランヴェルトが見せた。

 一太刀返せたような、妙な満足感を得る。


「……実際のところシャル・ロンティアはどれほどまで成長しているのだ?」


 ルネシアが探る目を寄越しながら、どこか焦りを滲ませる空色の瞳にグラーティアを映した。


「あなたに答える義務が私にあって?」


 グラーティアの言葉に、ルネシアが整った眉をわずかにひくつかせた。


「『同時詠唱』すらも出来ん。まして『魔法最上階層詞ラストソール』も覚醒してない雑魚の魔女など倒しても、お前を倒したのと変わらんだろう?」

「そうね」


 ここもあっさり肯定した。

 実際、今のシャルは自分と大差ない能力だし、負けているのは魔法攻撃力だけだ。


 それでもシャルが自分を、レニーを越えてくれると信じている。

『リリーザ最強の魔女』になってくれると信じている。


 だから今は、何とでも言えばいいと思った。


「キサマ……っ!」


 何が気に入らないのか、ルネシアが怒を含んだ声音でこちらを睨み付けてきた。


「やめろルネシア。見苦しいぞ」

「……申し訳ありません」


 グランヴェルトに宥められ、ルネシアは後ろへ下がった。


「随分と落ち着いたなグラーティア。ちょっと前のお前はもっと殺意に満ちた眼をしていたのだがな?」

「もうお祖母ちゃんだもの。いつまでもあなたに捕らわれている訳にはいかないわよ」


 キッパリ言い返したグラーティアに傍らで、シェムゾがどこか嬉しそうに笑った気配を感じた。 

 当のグランヴェルトは「そうか、お前を変えたのは孫の存在か」と何故か切な気な声音で呟いてきた。


 意外にもグランヴェルトの紅い眼は、遠くを見ているようだった。

 下がったルネシアも少し表情を曇らせている。


 なんだ? 

 この妙な空気は?


「グランヴェルト皇帝。我々を呼んだ本当の理由はなんです?」


 シェムゾの問いにグランヴェルトは「ああ」と視線を戻した。


「レヴァン・イグゼスとシャル・ロンティアとの決戦前に、お前たちに頼みたい事がある」

「それは?」


 シェムゾが聞き、グランヴェルトが答えようとした時だった。

 一人の将軍が、この玉座の間に駆け込んできた。


「グランヴェルト様!」


 駆け込んできたその将軍には見覚えがあった。

 前に『アカシエル』や『教会』を案内してくれた『死神サイス』だ。


「レナード・サイス! 謁見中だぞ!」


 ルネシアが怒鳴った。


「申し訳ございません! ですが、たった今『アカシエル』のリベリオン将軍から連絡がありました!」


 リベリオン将軍といえば、今『訓練用コロシアム』でレヴァン達に部下を派遣してくれている将軍の名だ。

 昨日交渉したライオンみたいな髪型の男性だったはず。


「聞こう」とグランヴェルトが言った。


「はっ! シャル・ロンティアが『魔法第五階層詞オーバーソール』と『魔法最上階層詞ラストソール』を使っていたとの報告です!」


「なんだと!?」


 ルネシアが身を乗り出して驚愕した。

 シェムゾとグラーティアも思わず顔を見合わせる。


「それだけではありません! 『グランドフレア』の強化版だと思われる魔法を一度に十発同時に放っていたとの報告もありました! また『メテオレイ』の強化版も、雨のように無数に降らせていたとの事です」


 サイスの報告に、さすがに場が凍りついた。

 あのグランヴェルトさえも驚きを隠せないでいる様子だった。


『グランドフレア』の強化版なら『ガイアフレア』か。

 あれを十発も同時に使っていたとは、いったいどうやって?

『メテオレイ』も雨のように無数に降らせていたとは……あれは一定数の隕石を降らせたら途中で止むものだが。


『同時詠唱』どころのレベルではない。

 シャルにいったい何が?

 あの子は何を修得したのだ?


「どうやら完成したようだな。シャル・ロンティア」


 驚きをすぐに消して、不敵に嗤うグランヴェルトがそこにいた。


「あの小娘……っ!」


 グランヴェルトとは裏腹にルネシアは顔を険しくして拳をギリギリと握り締めていた。



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